映画館に行けない。正確には行こうと思えば行けるが行ったところで映画館があんまやってない。新型コロナウィルスの蔓延によりプレ・ロックダウン下の東京2020年3月31日現在、映画館で映画を観れない映画好きは既に緊急事態宣言を超えて国家崩壊の危機である。気分的には。
まぁでもやってないんならしょうがないですからね。幸いにも文明の進歩はアマゾンプライムビデオとかネットフリックスとかユーネクストとかいう奇跡を映画好きにもたらしました。映画館が完全復活するまでの間はひとまずネット配信映画なる粟を食って生きるしかない。粟は粟だがこの粟は食っても食ってもなくならないので死ぬことはない。
というわけで週末の外出自粛(どうせ映画館がやってないのなら自粛も強制もおんなじだ。まったく!)を律儀に守ってチョイスしたアマプラ無料のおすすめホラー。今回はメジャー&話題作編です。
『ハッピー・デス・デイ』(2017)
何はともあれスラッシャー映画はどれだけ人を殺せるか、というのが満足度のひとつの指標となるわけですが、たかだか二時間の連続殺人、観客を退屈させないように適度にサスペンスを維持しつつ殺人博覧会にならないようにちゃんとしたストーリーを展開しつつ主人公に感情移入できるような描写を挟みつつできれば恋愛とか家族愛とかヒューマンな要素も隠し味的に加えつつ…などと各方面に気を配っているとどうしてもキルカウントに限界が出てきます。
観客を退屈させないように適度にサスペンスを維持しつつ殺人博覧会にならないようにちゃんとしたストーリーを展開しつつ主人公に感情移入できるような描写を挟みつつできれば恋愛とか家族愛とかヒューマンな要素も隠し味的に加えつつ人を時間の許す限りたくさん殺すにはどうしたらいいだろう…とそこでこの監督か脚本家は閃いた(かもしれない)。人を沢山殺せないのなら…同じ人を沢山殺せばいいじゃない!
ということでかどうかは知りませんがまさかのループものスラッシャー映画。同ネタを使った映画としては『今日も僕は殺される』などもありますがネタの活用度なら『ハッピー・デス・デイ』に軍配。毎日毎日殺されるビッチ大学生の殺され数、殺されバリエーションも面白いが、そこにループ・コメディの名作『恋はデジャ・ヴ』や『ミッション:8ミニッツ』的な人間ドラマを加味。必ず殺される同じ日を過ごす中でビッチ大学生は今まで目をそらしていた周りの世界や自分自身と向き合うことになって人間的に成長していく。
殺しまくりスラッシャーはやがて天丼コメディへ、次の今日になればリセットされる実らないラブストーリーとループを逆利用した犯人捜しを経て、最終的には泣ける話になるのだからアクロバティックかつ要素テンコ盛り。怖いかどうかで言えば殺されすぎてあんまり怖くはないが、たぶん面白いのは間違いない新世代ホラーです。
ちなみにこちらも現在アマプラ無料に入ってる続編の『ハッピー・デス・デイ・2U』もよく出来ていておすすめですが諸般の事情により今回は紹介しない(理由は観ればわかる)
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『アンフレンデッド:ダークウェブ』(2018)
新世代ホラーといえば全編PC画面で展開する異色のPOVホラー『アンフレンデッド:ダークウェブ』も見逃せない。前作は比較的オーソドックスなスラッシャー/幽霊もので、淡泊な展開もあって全編PC画面の目新しさを除けばそれほど見所のある映画ではなかったが、ストーリー上の繋がりはないこちら続編は全編PC画面、グループチャットに集った若者たちが次々とウェブカムの向こうで…というプロットの大枠は前作と変わらないものの、捻ったストーリー展開とアイディアに富んだ恐怖演出、デジタル特有の無気味さを前面に出して、個人的には前作よりも全然面白かったし怖かった。
今回ダークウェブ題材なのでジャンル的にはホラーというよりもダークなサイバー・スリラーとでもいった方が正確かもしれない。PCあるあると(それなりの)技術考証に裏打ちされたシナリオはもしかするとあり得るかもしれないリアリティを醸し出して、子供だましになってない『スマホを落としただけなのに』としても楽しめるんじゃないでしょーか。
アンフレンデッド:ダークウェブ (字幕版)[Amazonビデオ]
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『イット・フォローズ』(2014)
これまた新世代ホラーとしてホラーファンの話題を呼んだ一本。どういうアレだか知らないがボーイフレンドと一発ヤッた主人公はその日から何かが見えるようになってしまう。ボーイフレンド曰く、その何かはセックスで人にうつすことの出来る感染症的な呪いらしいとのこと。神出鬼没の何かは今日も一歩一歩着実に主人公に迫ってくる。果たして主人公は何かから逃れることができるのだろうか。
正直に言ってしまえば個人的には全然怖いと思わなかったし大して面白いとも思わなかった。こういうの哲学的とかいって向こうではスノッブな若者なんかにウケるんでしょうか。要はビデオテープの代わりにセックスで感染する『リング』といえばイメージしやすいと思いますが、恐怖の媒介が今時セックスだなんてだいぶ後退してないですか? だって吸血鬼だってセックス恐怖のメタファーだったりするわけでしょ。伝統的なホラー表象からその骨子だけを抽出して味付けなしで出すとか精進料理じゃん。そんなものをありがたがるとか裕福ゆえの貧乏願望みたいなものですよ。なんでそんな、急に辛辣なの。
もっとも、ブラックユーモア+すこし不思議な青春映画として観れば面白い映画かもしれないので観ておいて損はない。セックスするしないで学生たちが大真面目に悩んでいる姿はなかなか笑えます。それにしたって同じネタをグダグダ引っ張り過ぎじゃないのって気もしますが。
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『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』(2018)
思考実験SFの大傑作『プリデスティネーション』を放ったスピエリッグ兄弟があの迷宮屋敷ウィンチェスターハウスを映画化! とくれば素直なホラーになんかなるわけがない。妄想が暴走するウィンチェスター婦人を止めるために絶賛増築中のウィンチェスター邸に送り込まれた精神科医が体験する奇妙な体験を描いた映画で、そう書くといかにもふつうの幽霊屋敷映画の筋立てっぽいですが物語の力点はどのようにして恐怖は生み出されるかというところに置かれている。
思えば幽霊屋敷映画の古典『たたり』や『回転』、『ヘルハウス』なんかも人間の心理が生み出す魔を描いていたわけだから、それら幽霊屋敷の古典の最新アップデート版と考えることもできる。幽霊そのものの恐怖ではなく幽霊を形作るものの恐怖を描いたサイコ・サスペンス、一種のメタホラー。
王道の怪奇ムードを理性の光で照らしていくロジカルな作りはあくまで恐怖を求める向きにはしっくり来ないかもしれませんが、迷宮じみた奇々怪々な屋敷を複雑怪奇な人間心理に見立てた幽霊屋敷ホラー/ミステリーとして完成度は高い。最後はちょっとイイ話です。
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『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(2017)
どのようにして恐怖が生まれるか、ということがテーマになっているのはこの映画も同じ。同名の舞台の映画化で、最近では珍しいオムニバス・ホラー。大槻教授的なオカルトのウソ絶対見破るマンが3つの摩訶不思議な超常現象話の解明を試みる。はてその先でイケメン大槻教授を待ち受ける運命とは。
イギリスといえばオムニバス・ホラー映画の本場。『ウィンチェスターハウス』が『たたり』他の最新アップデート版ならこちらは『夢の中の恐怖』等々の現代アップデート版で、舞台劇が原作だけあってまぁお話としては綺麗にまとまる。まとまり過ぎて食い足りない気もするがその腹八分目感こそオムニバス・ホラー映画の醍醐味というものです。
「奇妙な味」な3エピソードはどれも小粒ながら雰囲気アリアリ。とくに最初の夜警エピソードはストレートに怖くて掴みはバッチリ。英国的重厚ムードも良し、仄かなブラックユーモアもまた良し、ラストの大仕掛けも見事にキマって、なんだか配信ドラマのミニ・シリーズのようではあるがおもしろい映画です。
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『ババドック 暗闇の魔物』(2014)
幽霊とか怪物よりも人間の想像力が怖い映画が続く。ババドックというのはストレスマックスなシングルマザーが手にした謎絵本に出てくる正体不明の怪物で、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』にあるジャバウォックのようなもの。シングルマザーの息子はこのババドックが怖くて仕方がない。絵本を飛び出してきて何か悪いことをしてきそうな気がする。
その恐怖はやがてシングルマザーに伝染。ババドックの恐怖から逃れるために家に引きこもりがちになった母子はますますババドックに追い詰められていく。ババドックは四六時中そこらへんをうろついてふたりを嘲笑っている。ババドックは人に憑いて悪いことをさせようとする。焼いても捨ててもババドックの絵本はなぜか必ず戻ってくる。いったいババドックとはなにものなのだろうか。ワイルドな想像力のたまもの? それとも…。
これもまた一種の幽霊屋敷映画、パラノイア映画で、ババドックの存在を取り除いてしまえば身も蓋もない陰惨悲惨な児童虐待物語。社会から孤立したシングルマザーが絵本の魔に取り憑かれて静かに狂気に蝕まれていくサマは人によってはドン引き級の怖さなんじゃないだろうか。ババドックは得体の知れない怖い怪物ですが、そのおかげでもっと救いのない現実からシングルマザーもその息子も目を逸らせているのかもしれないという救いの救いのなさが怖い。
確かに俺もあまりに孤独な時は全裸の女幽霊が家に入ってきてくれないかなと思うことはあるのでその気持ちはよくわかる(わかってない)
『ネオン・デーモン』(2016)
ストレートなホラーとは言い難いがかといって他のジャンルにもうまくハマらない俊英ニコラス・ウィンディング・レフンのやりたい放題ジャンルレス映画。モデルを目指してLAにやってきたエル・ファニングが契約なしでヌード撮影されたりSMショー的なのに出させられたり部屋に虎かなにかを放たれたり散々な目に遭う。あと住んでるアパートの管理人がキアヌ・リーヴス。
一応ホラーと言えるのはモデル業界の狂気(オカルト込み)を描いているからではあるがなんなんだかよくわからない。オタク監督レフンなのでデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』とかダリオ・アルジェントの『サスペリア』とかラス・メイヤーの『ワイルド・パーティー』とか色んな映画のオマージュを好きなだけ入れたかったんでしょう。結果、夢幻的なシーンを数珠つなぎにしただけのエル・ファニングの長編イメージビデオみたいになっているが、それもカルト狙いであえてやっているようなところがあるので始末が悪い。
エキセントリックなファッションとか妖艶な映像美に酔える人と画面の端々に象嵌された映画ネタを面白がれる映画オタク向け。
『SUSPIRIA サスペリア』(2018)
あの『サスペリア』のリメイクと思って観ると度肝を抜かれる。いったいどうしてこうなった。確かにダンスと魔女という共通点はあるが逆に言えば共通点ほぼそれだけ。オリジナルは華麗な殺人描写とゴブリンの悪魔的なシンセサウンドで魅せるスタイリッシュで単純至極なオカルト・ジャーロ・ホラーだったのにこちらリメイクはまぁオカルトではあるとしてもジャーロ要素なし、単純なホラーでもなし、ドイツ赤軍のテロに揺れる1977年のベルリンを舞台に…ってもうその時点であの『サスペリア』はどこに行ったんだよと思いますが、混迷の時代に十人十色の思惑と記憶と傷が交錯する複雑怪奇な舞踏群像劇になってます。なんなんだ。
そんな映画であるから遠隔骨折舞踏殺人とか頭部爆破耐久舞踏なんかを除けばキャッチーな見せ場はほとんどない(それで充分じゃないかという話もある)。感覚的で即物的なオリジナルに対してリメイクはあくまで緻密に練り上げられた知的構築物といったところ。どこまでもオリジナルの逆を行くような怪リメイクですが、オリジナルで主人公が入学したのがバレエ学校だったのに対してリメイクではバレエに対抗する形で生まれたノイエ・タンツ学校、というあたりを糸口に諸々の設定に込められた含意を(オリジナル版で主人公がアイリスの謎を解いたように)読み解ければ、わけわからんリメイクが知的好奇心をくすぐるチャレンジングな傑作リメイクに化けます。要周回。
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『死霊のはらわた』(2013)
こちらも名作の無謀リメイク。サム・ライミの名を一躍世に知らしめた『死霊のはらわた』を現代に蘇らせたらどうなったかというと…ものすごく普通のホラーになった。ものすごく普通ですがただ面白いは面白いのでうまく無難なところに着地。しかし考えてみれば山小屋で悪霊ゾンビと若者が普通に殺し合ってるだけで二時間弱ずっと面白いのですからある意味では飛び道具的演出&展開も多かったオリジナルよりも力作なのかもしれない。
オリジナルとの顕著な違いは自主映画的な悪ノリ感覚がなくなってシンプルなシリアスホラーになったことだろうか。したがってブラックユーモアと生理的嫌悪感と祝祭的高揚感の渾然一体となったオリジナル版の「やべぇもん観ちゃったよ…」感はまったくない。その代わりオリジナル以上に激しいゴア描写やオリジナルとはまた違った意味でケレン味あふれるカメラワーク、タイトな構成でハイテンションを維持。まぁだから繰り返しになりますが普通のスプラッター映画なのですが、普通のスプラッター映画として文句なしに面白かったです。
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『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011)
ジョン・カーペンターの代表作『遊星からの物体X』の前日譚、という位置付けなのだが内容的には限りなくリメイクに近い。『遊星からの物体X』では既に基地ごと壊滅していたノルウェー隊の物体Xとの遭遇とその顛末を描くが、物体Xの特性が変わるわけでもないし南極基地の舞台が変わるわけでもない、前作を観た人ならあーこれがあれだったのねとパズルのピースがハマっていく面白さはあるでしょうが、その驚きよりも既視感が勝ってしまう。
物体Xの造形は前作のようなシュール美が薄くわりと怪物っぽい怪物に。これはあまりよい意味ではない差異化ポイントに思うがまぁかっこいいからいいか。それよりもポイントは前作の原作『影が行く』から前作には取り入れられなかったエピソードを拾ってきているようなところと、それからなんといっても『X-ファイル』的な壮大クライマックス。この後に前作を観るとなんか前作がショボく見えてしまうので前日譚としてどうなんだと思ってしまうが、基本的に前作ファン向けの映画だろうからいいのだ。延々と続く既視感の末に前作にはなかった光景が現われる仕掛けには思わず興奮。
前作を観てない人が素直にこっちから観てもそんな興奮は微塵も感じられないと思うので、前作必修。
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