じゃない映画『レ・ミゼラブル』感想文

《推定睡眠時間:0分》

邦題は原題と同じですが「レミゼじゃないレミゼ」をツイッターの公式アカウントが惹句タグにしていたようにあの『レ・ミゼラブル』を原作にした映画ではないらしい。あの、と言っても映画とかミュージカルを観たことも原作を読んだこともないのでどの『レ・ミゼラブル』かよくわかりませんが。しかしとにかく『レ・ミゼラブル』じゃない。じゃない映画に本家のタイトルをそのまま持ってくるんだからなんかすごい話である。

まぁ本物(?)の『レ・ミゼラブル』を知らない以上はそうかどうかもわからないのですが、俺の受けた印象としては『レ・ミゼラブル』っていうかデンゼル・ワシントンの汚職警官っぷりにシビれる『トレーニング・デイ』とか米国版警察24時的なPOV映画『エンド・オブ・ウォッチ』の系統でしたね。

なんでも『レ・ミゼラブル』の舞台になったとかいう貧民街のパトロール班に編入された新任警官。彼が目にしたのはいくつもの火種を抱えた貧困コミュニティと常態化した警官の暴力だった。一触即発ムードの中、互いに牽制することでなんとか秩序を保っていた貧民街だったが、アウトローな巡業サーカス団が持ち込んだちょっとした事件をきっかけに情勢悪化、新任警官の勤務初日は戦場と化す。

だいたいこんなようなストーリーで、新任警官のヘルパトロール模様を軸に貧民街の群像劇を展開していくあたりが『トレーニング・デイ』とか『エンド・オブ・ウォッチ』っぽいところ。ただしそこで描かれる人間関係はこれら米国産ハード警察ドラマよりも遙かに複雑で、そのへん社会派というか、有名映画祭とかで評価された所以なんでしょね。新任警官目線のハード警官ドラマはどこまでも細分化されたコミュニティの物語を繋ぎ止めるある種オムニバスのブリッジドラマみたいになってるわけです。

乱立する小コミュニティの水面下の勢力争いを背景にしたドラマは重厚リアルで緊迫感に溢れる。でそのドラマはやがてアバンタイトルに置かれたワールドカップの優勝だかなんだかに凱旋門の前を占拠して熱狂するクラスター発生間違いナシの民衆が暗示する(なんて回りくどい言い方だ)怒濤のクライマックスになだれ込んでいく。銃撃戦とかはないがバイオレンス描写も抜かりなし、警官ものクライムサスペンスとしても社会派ドラマとしても見応え抜群。

…いつもの映画感想ではこんな風に書かないが自粛要請に伴う映画館の休業のせいで新作映画の感想をほとんど書いていないので自分なりの書き方というものを忘れてしまっている。早く再開してくれ映画館。解除されろ緊急事態宣言。死ぬぞ。映画脳が…。

それにしても問題はラストですよ。ラスト。衝撃のラストだったねまさに。そこでっ!? っていうところで映画終わっちゃって。何が起こるかは言いませんけど(映画館が営業を再開した暁にはまだやってるとこもあると思うからみなさんもその眼で確かめてみてくれたまえ)そんな終わり方ないだろって思ったよ。映画に点数は付けない主義ですけど仮に採点するとしたらあのラストでマイナス50点ぐらい行ってる。もう台無し。台無しと言ってよい。

なんていうかね、むかし松本人志がキム・ギドクの『春夏秋冬そして春』っていう映画を観て観客に答えを投げかけるような終わらせ方するなよって雑誌の映画評コーナーで書いてたんですよ。そこは作り手として答え出せよっていう。
俺は『春夏秋冬そして春』についてはそう思わなくてそれは松本の読解力の問題だろって思うんですけど、まぁそれはともかく、『レ・ミゼラブル』は本当それでしたね。客に答え投げてんじゃねぇよっていう。問題提起のつもりで逃げてんじゃねぇよっていう。っていうかどんな答えでもいいから作り手として答えを出してもらわないと問題提起にならないじゃん。その答えに対してどうのこうのと観る側は議論をするわけで…単なる職責放棄ですよこんなの。

なんか寓話的に見せたかったのかもしんないすけどね。アイリス・アウトで終わるし。アイリス・アウトってあれね、『忍者ハットリくん』で話の最後にハットリくんがニンニンって言ってるところで画面がハットリくんの顔にぎゅーっと絞られていくあれ。あれで唐突に終わるのでそれまでずっとリアルな映画だったのに急に寓話っぽくなる。

といってもその伏線というか寓話性の醸成は『レ・ミゼラブル』のタイトル借用も含めて随所でなされており、人種も宗教も出身もなにもかもが異なる貧民街の小コミュニティの小競り合いは檻に入れられた巡業サーカス団の子ライオンを軸に加速・激化していく。大人たちの都合で犠牲になる子供、の図。そしてその子供は無力な存在ではなく猛獣である、の図。それは映画のテーマのシンプルな提示でもあるが、ちょっとだけマジック・リアリズム的だったりもする。

日常の中にぽつんと紛れ込んだ非日常が次第に秩序を狂わせ日常を崩壊へと導いていく。抽象的に言えばそういうお話なのでそれならそれで突き詰めてほしかった、いや突き詰めなくともそういうお話としてきちんと着地していれば…という思いがなまじハード警官ドラマ+社会派群像劇として面白いものだから、めっちゃあったなぁ。

※ドローンで団地女子を覗き見するのが趣味という最低オタクのガキが覗き見したタンクトップのヤンキー巨乳女子に半ば恫喝される場面、大興奮。俺も喧嘩したら絶対に勝てなさそうなタンクトップのヤンキー巨乳女子に恫喝されたい。

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まぁ、どこがどう関連するのかは観ればわかるよ。

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