【ネッフリ】『呪怨 呪いの家』感想文(ネタバレ多少あり注意)

《推定睡眠時間:15分》

Netflixで映画観る時なんかいつも手元にスマホがノーパソ置きっぱで基本なんか別のことしなから観るのに映画秘宝と縁の深い脚本家・映画監督の高橋洋が脚本を書いたからか秘宝界隈のライターや業界関係者がこぞって最高最高超怖いの超絶大絶賛を乱発しおうわかったよそんなら俺も本気で観てやるよ、どうせそんなものは内輪の誇張で実際は大して怖くないんだろうが怖くねぇじゃねぇかバカと文句を言ってもそれはお前がスマホでエロ動画とか検索しながら観てたからじゃねぇか死ね!

と言い返されないためにまずスマホを置こう。ノーパソも閉じよう。トイレ立ちで集中力と緊張感を損ねないようにトイレは観る前に行った。だがまだ足りない。怖いドラマならやはり怖さをしっかり感じられる環境で観るべきだ。照明を落そう。ふぅ、これだけやればモニターこそ小さいがもはや映画館だな。かつてこれほど気を遣って配信ドラマや自宅映画を観たことがあっただろうか。全6エピソード、各エピソード約30分。それぐらいない問題なかろう。当然一気観だ。

毎週金曜夜は映画館で新作映画を観ることにしている。今週は公開数も少なく個人的にはあまり目を引く新作がなかったが、それでも『イップ・マン 完結』や『アングスト 不安』(これは旧作リバイバルだが)、『アンチ・グラビティ』などは初日に観たいと思っていた。しかし秘宝界隈がそこまで推すならば! いいじゃないか上等じゃないの、金曜日の映画館を捨ててこっちを観てやろうという気になる。どうせ大して怖くないんだろ、とは捻れ捻くれ捻くれた脳の表面で思ってはいても、密かに(マジで超怖いんじゃないだろうか…)と期待するところも少しはあったのだ。

映画秘宝界隈のホラージャンルに精通したライターのみなさん、それから日本のホラージャンルを盛り上げてくれている映画業界のみなさん、呼ばれた試写会とかにホイホイ出向いてせっせとネットに提灯記事を上げてくれたみなさん、超本気モードでこのドラマに臨んだ俺に謝ってください。ええ加減にせぇよお前ら。こんなもん全然…全然怖くねぇじゃねぇかおい! また秘宝に騙された! 騙されてネタになる映画とかドラマなら別にいいけどこれは単に画に力がなくて怖くないし面白そうな題材なのに作り込みが浅いから普通にそんなに面白くなくてネタにもならないだろ!

そりゃわかりますよ! 業界を盛り上げたい気持ちはわかります! 褒めて伸ばそうという気持ちもわかる! しかしだ! だからと言って揃いも揃って面白さを誇張したりダメな部分から目を逸らしてしまったらもう映画批評やってる奴は映画批評家失格の単なる宣伝屋だし、業界人の場合は身内びいきって思われても仕方がないでしょうが!

おんなじ! ある意味おんなじなんですよ構図が! 今話題のアップリンク問題と! 業界のためなら多少の犠牲と偽善は仕方が無いみたいな! それも一理あるがお前ら年がら年中そんなことやってんだから逆に邦画ホラージャンルへの信頼なくすよ! だいたいそうやってな! 内輪でガラパゴスに盛り上がってるうちにな! 邦画のホラージャンルはどんどん海外のおもしろいやつから置いていかれて様式美と言えば聞こえはいいが、新しいものなんか何一つ作れなくなるんだよ!

海外ってアメリカとかのことじゃないからな! 台湾ホラーは超こわい! 韓国のホラーも超こわい! 中国のホラー…はよく知らないしマテリアリズムの国なわけだからあまり心霊ホラー的なものはないのかもしれないがジャンル映画に金と勢いがあるのは間違いない! タイのホラー映画もこわい! インドネシアのホラー映画もこわい! 怖くないのは日本のホラーだけだとまで言ってしまうと秘宝界隈とは逆の意味でポジショントーク的な誇張表現になってしまうが、あぁ、ともかく…そういう感じだよ、そう思わされるドラマだったよ『呪怨 呪いの家』。

まぁでも俺は『呪怨』シリーズなんかハリウッドリメイク版と『貞子VS伽椰子』しか観たことないぐらいなので『呪怨』体験の積み重ねのなさがこういう感想に繋がってるのかもしれない。内容としては外伝というかメタ『呪怨』というか。映画『呪怨』はある家をモデルとしている…みたいなナレーションから始まるので『呪怨』知らなくてもすんなり没入可。伽椰子さんと俊雄くんは出てきません。繰り返しますが伽椰子さんと俊雄くんは出てきません。これかなり大きなポイントではないかな。

伽椰子さんと俊雄くんは出てきませんしそもそも一般的な意味でのお化けが出てこない。このあたりはさすが高橋洋、『女優霊』では映画フィルムに宿る魔、『リング』ではVHSテープに宿る魔、近年の注目作『霊的ボリシェヴィキ』ではオープンリールとその録音現場に宿る魔といった風にメディウムが作り出す人間を超えた存在として「心霊」を描くのが高橋であるから、今回も心霊バラエティの企画で霊の痕跡が録音されたカセットテープが恐怖の媒体となっている。

物語は1988年、1995年、1997年の三つの時代を行き来しつつ徐々に「家」の謎が明らかになっていく構成を取っているが、これをそのまま結果→原因の流れとして受け取ると足元をすくわれるだろう。主人公の怪談蒐集家・荒川良々が終盤で刑事に語るように、それは単に怪談蒐集家が想像したもの、あの気味の悪いカセットテープに触発されて想像したくもないのに想像させられただけの架空の恐怖の物語かもしれないのだ。

高橋洋が脚本を担当した『蛇の道』は幼女惨殺スナッフビデオを題材にしたものだが、その試写を観た高橋洋は監督の黒沢清にこんなことを言ったという。あんな酷いスナッフビデオ、よく撮れるね。黒沢清はこう返す。わたしは何も撮ってませんよ、あなた何を見たんですか?
映画の中に、スナッフビデオが直接映るシーンは含まれていなかったのだった。

そのような文脈を踏まえて観れば非常に興味深い映画ではあった。あの『呪怨』の新作というよりは高橋洋残酷博覧会もしくは高橋洋の『昭和・平成猟奇犯罪史』とでもいうべきもので、深川通り魔殺人事件、連続幼女誘拐殺人事件、名古屋妊婦切り裂き殺人事件、世田谷一家殺害事件などなど日本社会を震撼させた猟奇事件の数々をモチーフに、無関係なはずの猟奇殺人事件の背後には実は一軒の家の存在が…という形で呪いと業の円環的連鎖が描き出される。

時折挿入されるニュースが伝えるのは女子高生コンクリート詰め殺人事件に地下鉄サリン事件に神戸連続児童殺傷事件。人はどうしてこんな風に狂えるのだろうか。もしかしてその背景にも彼らを狂わせた共通の「家」があるのではないか…とここまで想像的恐怖を羽ばたかせれば高橋洋の狙い通り、さんざん貶しているが俺はそのへんちゃんとしっかり観ているのである。

ですがですがですがである。ですが! あるんだよもうそういうの。Netflixにはまさしくそうした狂気の連鎖を描いた家ものホラードラマの金字塔『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』があるじゃないですか。わかってるんです。海外ドラマと国産ドラマでは技術的にも開きがあるし何より資金力が違う。

国産ドラマといってもNetflixが出資しているのだから地上波の国産ドラマなんかとは比較にならないくらいリアルでディティールに凝った映像になっているのは確かだとしても、上には上がいるという話で、その後あの『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』の監督という大役を任されることになるマイク・フラナガンが総監督・脚本を務めたキャリアの中間決算的超大作『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』と『呪怨 呪いの家』を比較するのはアンフェアにも程がある。

とはいえ内容面で被るところが少なければそうした比較は不毛だと言えるし『呪いの家』はアイディアの独創性が…などと強弁することさえ可能だが、問題は複数の時代と複数の事件を行き来しつつ徐々に「家」の謎に迫っていくシリーズ構成がまず被っているし、物語内時間での過去と現在が「家」の中ではごっちゃになって人と幽霊の境界がなくなってしまうところも被っている、更には魔女モチーフや円環的な時間に取り込まれた人間や怪談語りという要素も被っている…ぶっちゃけ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』と『呪怨 呪いの家』めっちゃ構成要素が被っているのである。

被った上に『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』はその恐怖の先まで提示しているのだからシナリオ的にひじょうにくるしい。なら演出面はどうか。まったくダメである。こんなもん怖くなさすぎて話にならんレベルである。お化け的な存在はライティングと構図と間が壊滅的だし、初期の高橋洋が黒沢清と共に関心を寄せていた平凡な住宅街の中にある異界というコンセプトは視界にすら入っていない、高橋脚本にありがちな意図せずして男を誘惑してしまう女と性欲を殺意に変えていく男の絡み合いが発する毒と冒涜性は消え失せて、そもそも怖い画をちゃんと作ろうとした痕跡がない。この監督はホラーというか、ジャンル映画に興味がないんじゃないだろうか。

あまりにもケレン味に欠いてまるで社会派のヒューマンドラマのように撮るが、そのリアル寄せのアプローチは高橋洋のカルトVシネ的ハッタリ脚本との乖離が激しく、それはそれで珍奇で面白くはあるが、そんなところから恐怖は生まれようもない。スクリーミング・マッドジョージの特殊造形もなんでオファー出したんだかわからないぐらいぞんざいな扱いで、もしかして観客を怖がらせる意図がそもそもないのではないかと思ってしまうほどだ。

終盤の人間蒸発シーン(「蒸発」した人が本当に化学的な意味で蒸発してしまうのだ!)なんかまるで『不思議惑星キン・ザ・ザ』。あれは脚本にはなんて書いてあったんだろうか。想像するに人体自然発火的なものとか人体溶解的なものが想定されていたのではないかと思うが(2020/7/7 追記:いややっぱ普通に「忽然と消える」とか書いてあったんじゃないかと思い直す)その脚本を元に作られたのが『不思議惑星キン・ザ・ザ』のワープシーンみたいなやつって怖いどころか笑っちゃうよ。川俣軍司をイメージしたと思しき怪奇ブリーフおっさんだってコントみたいだ。変なおじさんオマージュなら思わず唸るところだが、どうあれ怖くないことに変わりはないし、ホラードラマなんだからやっぱちゃんと怖がらせてくれないと困るのである…。

ため息が出る。つまらないかおもしろいかで言えばつまらなくはなかった。でもどう考えても激推しするドラマじゃないでしょこんなの。まぁいい。こんなドラマでも当たってくれれば次に繋がる。俺は日本人がNetflixで作るべきオリジナルドラマは「実録オウム真理教」以外にないと思っているので、まぁ劇中にも地下鉄サリン事件がちょっとだけ出てきましたし、いつか、今度こそ本当に世界に売れるような世界水準の、でも日本でしか撮れない、日本がちゃんとドラマにして総括すべき乗り越えるべきものとしてオウム真理教を、Netflixでドラマにしてほしいとおもいます。それこそ日本人が抱えるいちばんのホラーだろう。

【ママー!これ買ってー!】


霊的ボリシェヴィキ

高橋洋が講師を務める映画美学校の生徒たちを搾取して作った『呪いの家』の習作のような激安中編映画だが得体の知れないモノに触れる怖さはこちらの方が遙かにあった。

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としお
としお
2020年7月5日 2:09 PM

いや呪怨の映画観てないのかよ
それでこのドラマを批評するのは違うでしょ
せめて映画を観てからじゃないの?

匿名さん
匿名さん
Reply to  さわだ
2020年7月5日 6:09 PM

じゃ相当アホな感想しか出来ねえのな
低脳やなあ

としお
としお
Reply to  さわだ
2020年7月5日 7:40 PM

しっかり長文を綴ってるけどあくまでも感想なのか・・まあ感想か批評かはどうでもいいので映画も観た方がいいですよ
呪怨の映画の伏線というか色々あるのでおすすめです

かやこ
かやこ
Reply to  さわだ
2020年7月8日 4:17 PM

呪怨シリーズ全部視聴済みだけど、ほぼ同じような感想だから見なくても大丈夫だと思います。呪怨の名前を伏線用意するから使ってもいいよねって感じ。

さだこ
さだこ
2020年7月15日 1:36 AM

呪怨を見てても蒸発シーン等はチープだなあという感想でしたよ
むしろ呪怨を知っているからこそなんで変えたんだろうというシーンばかりでした。元々はこんなAV紛いの胸糞ドラマではないですし

滞空する隕石
滞空する隕石
2021年8月14日 5:51 PM

全くもって激しく同意。
勢い余って怪しい保証人同意書をよく読まずにサインしてしまうレベルであり、ヘッドバンキングが飛び出すくらい頷ける。

まずジャパニーズホラーで「全く怖くない」という時点で致命的であり、それ以前に「ジャパニーズホラー」とこれは呼べるのかどうか。

そもそも「呪怨」でもなんでもない。単に昭和末期から平成にかけて現実に起こった事件を無理やり一件の家にこじつけてアレンジした「ちょっと怖い雰囲気の何か」である。この作品のタイトルに「呪怨」とつける事がそもそも間違い。

ジャパニーズホラーのツートップ双璧であるリングと呪怨、リングは新作が出る度に劣化していき「貞子」では遂に地に堕ちた感があり、それどころか始球式に出てしまう程のネタキャラガジェットになってしまったが、呪怨のブランドだけは辛うじて残っていた、しかしそれも今回その看板に泥を塗る形になってしまった。
この作品の最大の罪はやはり「コレ」に「呪怨」のタイトルをつけた事だろう。

レビューで怖い怖い言ってる人達はどういうセンスをしているのかお金でも貰っているのか、随分安上がりな観賞眼を持っているな一周回って羨ましいわ。