《推定睡眠時間:10分》
なんというかそのなんというかそのこれはなんというかその非常に感想が言いにくい映画であった。小笠原のドキュメンタリー。ねぇ? 小笠原いいじゃないですか。小笠原はいいですよ。行ったことはないけれども良いところだろうとは思うよ。スクリーンに映し出される小笠原は素晴らしかったね。いや~…小笠原はいいっすよね~…。
感想終わっちゃうよ。いや、言いたいことはあるんです。この場合の「言いたいこと」というのは文句的な含意はなくてですね、純粋に映画観ながら色々思ったことという意味ですが、意味なんですが、ほらやっぱり俺もそこそこ人の顔色気にする人間じゃないすか。知らないかもしれないけどそうなんです。気を遣います。でも思考は他人に気を遣ってくれないのでそれはもう失礼なことばかりついつい考えたり思ったりしちゃうんです。
なんですかねぇ…それがたとえば普通のフィクション映画とかだったらここがつまんねぇとかあの登場人物ろくでもねぇなとか罵詈雑言平気で吐き出せますがほらこれドキュメンタリーじゃないですか。いや別にこの映画を観ててあの人物ろくでもねぇとか思ったりはしないですよ。そこも気を遣って注を入れておきますがですね、いやつまり何が言いたいかと言うとですね、気を遣ってめんどくさい。『プラネティスト』ごめんすごい面倒くさいよ。俺は好意的に観たし実際面白い映画だと思ったけど『プラネティスト』ごめんやっぱ面倒くさいよ!
だってもう真面目も真面目なんだものさー。すっげ真面目なんですよ。真摯なの。出てくる人も作ってる人も全員小笠原とかアースに対して。あとみんな優しいね。嫌な人が一人もいないね。こんなに一直線に真摯でこんなに雑味のない自然への畏敬の念が溢れる(そして政治臭の薄い)ネイチャードキュメンタリーが今時あってよいものかと思ってしまうね。
BBCとかディスカバリーチャンネルのネイチャードキュメンタリーとかはやっぱ科学的な視点でもって一歩引いたところから自然を捉えてるところがあるじゃないですか。『プラネティスト』はそんなじゃないですから。別にそれも悪くはないですけど『プラネティスト』はそんな風に人間を特権化しないところから小笠原の自然に向き合います。
難しいね! いよいよ感想難しくなってきたね! たぶん読んでる人もどんな風に感想を言うのが難しい映画かちょっとわかってきたね! でもぼくは感想ちゃんと言いますよ! やっぱり真摯な映画には真摯に感想を言う義務が観客にもあると思うんですよ! もしふざけたことを思ってしまったならそれは正直に言うのが礼儀ってものだろうし、スピッてるなぁ~とか思ってもそれはやっぱ言った方がいいだろ! ああ言っちゃった! ああっ! …プラネティ~スツ。
だって小笠原を息子のアイルくん連れて訪れた窪塚洋介が海岸で綺麗な貝殻拾って耳に当てるんですよ。それで監督の豊田利晃が何か聞こえる? って聞くと窪塚言うんですよ。プラネティスト・ネヴァーダ~イ…って。そんなん笑うじゃんそんなんさ~卑怯じゃんむしろそれは~。
窪塚さん島案内をしてもらってる小笠原開発/保護の第一人者的なすごいサーファーおじさんが「原初の貝は渦を巻いていなかったけどある時から渦を巻きだして…」とか言うとすかさず「スパイラル」とか差し挟むんだよ、「この滝は常世の滝と呼ばれています。つまり向こうはあの世だね」に対しては「ゲート」の一単語で応答するんだよ。卍LINEじゃん。卍LINE形態の窪塚なんか久々に見たよ。独唱ラップみたいのも捻るしあぁ俺たちの時代の窪塚だな~って感じでやっぱ面白くなっちゃうんだよ。
だけど窪塚すごい良い人なのよ。愛に溢れているのよ愛に。個人愛ではないですからね。エロスもアガペーもこれは超えてますよ。強いて言うなら地球愛だよね。地球と一体化してすべてを包み込んでやろうというこれは途方もない愛ですよ。いや~…だからね~…そんな善人の素の反応を笑うというのも申し訳ないじゃないですかやっぱり。でも窪塚が超真面目トーンでそんなこと言ってたらめちゃくちゃおもしろいわけじゃないですかやっぱり。心が引き裂かれましたよ。笑っていいのかと。いかんのかと。スピッてるな~と言っていいのかと。そうでないのかと。言ってるけどさ。
もうね、それが全編そうでした。構成としては色んな人を小笠原に招いてその人が小笠原でやってみたいことをやってもらうみたいな感じなので窪塚が出てくるのは中盤の数十分ぐらいでしかないんですが、たとえば島に呼ばれた一人である渋川清彦がですね、フェリーで移動しながらカモメとコンタクトを取ろうとして「Hey! ジョナサ~ン!」ってずっと呼びかけ続けるシーンとか俺はどういう! どういう感情で受け止めればいいんですかッ! わかるよ! 渋川清彦もたぶん真面目ですごい良い人なんだろな~っていうのはわかりますんで、わかりますんでだから困っているんだ俺はッ!
まぁ、でも、神々への奉納のような中村達也のインプロ(?)ドラムプレイ、 ヤマジカズヒデのギタープレイとかカッコよかったよな(あそこはカット割らないでほしかった)。古楽器でクジラと交信しようとするGOMAのシーンとかもですね、うわ~神秘的! って一応なるんだよ。俺も真面目だからそういうところは。ただ神秘的! の先に地球愛がないだけで。地球愛っていうか基本的に愛がないからね。
小笠原が明日沈没しても別にいいし、日本列島が明日沈没しても別にいいし、地球が明日消滅しても誰が死んでも殺してもまぁ別にいいし…コンビニ袋を辞退するとかも全然ないですからね。なにも積極的に破壊を促進しようとは思わないが、壊れるならそれもまぁ別にいいんじゃないのどうせ宇宙の歴史なんか破壊と生成の繰り返しでしかないんだからぐらいには色んなものを諦めておりますから…もうこういうの絶対海人には嫌われるんだろうな。
うわなんか思い出したよ。むかし映画学校で同じ班になった湘南(仮)住まいの海人男に俺すげぇ嫌われてたな。理由とか言わないから推測しかできないですけどやっぱりね、こういうところだと思います。こういう考え方は素直じゃないっつって海人に嫌われるんだよ。でこっちの方も海人の素直さとか素朴さをついつい嗤っちゃうところがあってさ、そこはマリアナ海溝があるんです人生観とか世界観の。
それ俺知ってる。知ってるから感想を躊躇するんだよこういう映画は…こっちも嫌な気分になるし言われた方も嫌な気分になるからな! 俺はですね! 人をバカにするのは好きですけど人と争いたいとは思ってないんですよ! まぁ、バカにするから争いが生じるんだろうがという反論はあるだろうが(俺としては人が人をバカにしてお互いに嫌味ばっか言ってるが武器は持たないというような世界の方がなんぼ平和かわかったもんじゃないと思いますがね…まぁそれはいい)
わけのわからない脱線をするな。いやだからなんかさ、映画観ながらさ、俺はマリファナ解禁論者ですからマリファナぐらいやりたかったらやりゃいいじゃんと思いますけれどもこのスタッフかもしくは出演者の何人かはマリファナやってそうだな~とかそういうの不謹慎にも思っちゃうんだよ。映ってる島の人たち全員セックス超好きなんだろうな~とか。そういう映画なんですよなんていうか。それぐらいラブ&ピース&ミュージック&アースなニューエイジ海洋縄文主義の映画ということでその純度が濃すぎてネタ的に観ちゃうのついつい。
映像は綺麗だしヴァンゲリスみたいなシンセ音楽はリラクシング効果絶大だし映画の主軸になっているすごい小笠原サーファーのおじさんの島保全の取り組みは本当に立派なものだと思ったし(そしてクレバーでもあった)、その個人史から浮かび上がってくる島の歴史ちゅーのもあって勉強にもなりましたよ。クジラと交信。夢があるネェ~。ドルフィンと遊泳。ロマンだネェ~。だからイイ映画。これイイ映画。イイ映画だけれども俺とは決定的に住む世界が違い過ぎたんだよ。そういう映画も世の中にはあるから仕方が無いね!
※すごい小笠原サーファーおじさんと俺は100%友達になれないと思うがすごい小笠原サーファーおじさんの環境保全の考え方、すなわち自然は放置するのではなく人間が積極的に介入して守っていくべきである、なぜなら人間もまた環境の一部として地球のエコシステムに組み込まれているからである…という要はガイア理論ですが、宇宙エネルギーがどうのみたいな話は「スピッてるな~ニューエイジだな~」としかやはり思わないのだが、環境保全に当たっては人間をカギ括弧に入れないこいう考え方は大事だなと思います。
【ママー!これ買ってー!】
いま突然閃いたんですけど卍LINEってパンチラインもじってたの?
はじめまして、私もこの映画を観てどうしよう…と思ってしまった側の人間でして、特にジョナサ~ンと呼びかけるところなどはそれはカモメではなくカツオドリでは…?といたたまれない気持ちになっていたのでとても共感できました。この気持ちを代弁してくださりありがとうございます!
他の記事も少しずつ楽しく拝読しています。テネットのとか、グランドジャーニーでのフランス映画は法律守らないという指摘とか、本当その通り過ぎて膝を打つ思いです。
突然失礼しました。
カツオドリの指摘に吹き出してしまいました。いや、思い返してみればあそこ、実に味のあるシーンでしたね。映画館で観たときは笑う空気でもないし、監督が誠実な人だっていうのも知ってるし、どうしたもんかな~って思ってましたが、なんか今になって思い出し笑いが止らなくなってます。まぁ監督の狙いからはズレるかもしれませんが、その意味ではとても面白い映画だったと思います。忘れかけていたところを思い出させていただいてありがとうございます!