《推定睡眠時間:25分》
海外に映画を売るためにその国の人気女優やら男優やらを端役でもなんでもいいからとりあえず出すというのはまた古典的なマーケティング手法だなと思うが2020年現在でも余裕で通じることが最初の数作を除いてこれまでビデオスルーだった『山猫は眠らない』シリーズの最新作が元AKB48秋元才加が出演したというその一点のみで各種映画サイト等々のメディアに堂々取り上げられ全国公開も果たすという大逆転展開によって明確に示された。
さすがに秋元才加ぐらい有名な人となると事務所の方でも内容がどうあれビデオスルーで済ますつもりは100%ないだろうし(アメリカ映画進出! 的な実績を作るための出演がビデオスルーでは面目丸つぶれだ)、ビデオスルーシリーズの唐突な劇場公開とかいう劇場側にとってリスクでしかない案件も事務所の強力バックアップと秋元ネームバリューがあれば安定案件に変わるのだろう。
制作側としても安ギャラで海外展開の担保が取れるのでもう良いことずくめ。観る側はどうかわからないが、まぁ端役という感じではなくて結構ガッツリ出るのでその安易さ(役名がユキ・ミフネでした)をスルーできれば秋元才加ファンの人もそれなりには楽しめると思いたい。ただ所作がぬるすぎて天才スナイパーにはまったく見えないが。
それにしても『山猫は眠らない8』って。秋元才加の出演よりもまず8作もやってたのかよっていうところに驚くよね。『山猫は眠らない』シリーズがこんな長寿シリーズだったことを知っていた人がいったい日本全国に何人いるのだろう。ジャンル映画の長寿シリーズはいつのまにか主要キャストが離れて全然別物になってしまうことも多いが、その点これはちゃんとトム・ベレンジャーが第一作目と同じ役柄で出ているし、ちゃんと狙撃も披露するから偉い。なんかもう『座頭市』シリーズとかそういう感じなんじゃないですかこれは。ワンショット・ワンキル原則をしっかり守ってのベレンジャー狙撃も座頭市的な殺陣感つーか。
お話だって時代劇みたいなもんですからね。なんか秋元才加がヤクザの殺し請け負ってた悪い天才スナイパーで中米の大統領を演説中にぶっ殺しちゃうんですよ。それでこの人は悪いスナイパーだから別人が撃ったように偽装工作するんです。その標的になったのがトム・ベレンジャー演じるトーマス・ベケットの息子ブランドン。血は争えねぇってことでこの人もまた天才スナイパーだったわけですが、その腕前がアダとなって「こんな無茶振り狙撃発注こなせるのお前しかいねぇだろ!」ってことで大統領殺しの犯人にされてしまう。果たしてブランドンは真犯人を見つけ出すことができるだろうか。まぁできないわけがないんですが。
あちなみにトム・ベレンジャーはずっとかどうかは知りませんがシリーズ出続けるみたいですが、もう御年71歳とご高齢なので主役はブランドン役のチャド・マイケル・コリンズに交替、ベレンジャーが前に出てくるのは悪い奴をとっちめる時だけなので、そのへんは『座頭市』っていうか『水戸黄門』です。こう、やっぱジャンルものの長寿シリーズは洋の東西を問わず作りが似てくるんだろうな。印籠の代わりに銃弾をぶち込むアメリカの水戸黄門は容赦がない。
なんでもこのシリーズ1作目以外は本国でビデオスルーだったらしく(日本では何作か劇場公開されたらしい)、これもまぁビデオスルー相応のオモシロというか、ビデオスルーならではのオモシロというか、そのへんの言葉選びの迷いから察して欲しいがぶっちゃけ別に面白くなかった。隠すどころか水戸黄門なのでむしろ積極的に先読みをさせるストーリー展開だし、予算の限界が見え隠れする小規模アクションと小規模アクションをどうでもいい思わせぶりな会話とかで繋いでいく構成はV、もうV級としか言いようがない。
とはいえ想定済みの面白くなさなわけで、俺は別に逆張りしてこういうことを言っているのではないのだが、本当にこういう面白くないアクション映画は毎週映画館で観たい。これ面白くはないですけど映画観たなっていう満足感はちゃんと与えてくれますからね。世の中にはすごいアクションとかすごい展開とかすごいCGとかをバンバン出すからめちゃくちゃ面白いのに、映画観たな感は何故か得られなくてなんか寂しくなるっていう映画はたくさんある。でも『山猫8』はそれがちゃんとあったのだから立派な映画だ。
映画が終わって外を出る時にフィリピンパブの同伴出勤っぽい熟年フィリピーナ+熟年日本人オッサンのカップルが客席でくっちゃべってるのを目にしたが、あのね、映画観るってこういうことでしょ! こういうことでしょ? なにがこういうことなのかは自分でもわからないが…でもなんか、圧倒的にイイじゃないですか! 俺はそういう客席の人間模様も含めて映画だと思ってるからね! シネコンでやってるMCUの新作でオッサンがフィリピンパブの同伴出勤をするかって話なんですよ! よしんば来ていたとしても映画の余韻が台無しになるだけだろうそんなもの!
まぁそういう(一般的には)アクロバティック論理を駆使しなくてもさ…よかったですよ『山猫8』。『山猫』の肝であるはずの狙撃シチュエーションにミリタリー的な面白味やプロの矜持は皆無だし予算が基本的にないのでクライマックスの悪の巣窟で待ち受けている敵はたった一人だけだったし主演の人は魅力があるとかないとか言う以前にシリーズ観てないから知らないし(14歳のガキ相手にオンラインFPSで「俺は本職だからな!」とイキるヤバい人であることはわかったし、そこは笑った)出るには出るけど演出にケレンがない上に更なる続編に繋げるために扱いが中途半端になった秋元才加は大した魅力がないしで(素の秋元才加さんが魅力的な人であることは知っておりますが)本当に普通に面白くないものだから、トムベレがついに老体に鞭打ってワンショット・ワンキルの狙撃に乗り出す場面で、この積もりに積もったつまらなさが、逆に、むしろ逆に! 待ってましたのカタルシスを与えているのです。
面白くないけど満足度が高いとはそういうことで、いやぁ~『山猫8』、良かったですね映画館で観て。家で配信とか使って観てたらこんなの開始10分で停止して別の映画に乗り換えてるので、こういう映画をかけるためにこそ映画館は存在すると言っても過言ではない。うそ過言でしたごめんなさい。
※エンディング曲が鮮度ゼロのハードロックというのもVシネ的にオッケーポイントです。ダサくてよかったです。こんな映画で急に最先端のラップとか流されてもノれないので。
【ママー!これ買ってー!】
まぁそうは言っても一作目はミリタリー映画の名作なので落差すげぇよ。