《推定睡眠時間:0分》
快活女子高生の浜辺美波は友人の福本莉子に実はむかし好きだった本から飛び出してきたような理想の男の子と会っちゃって…と一目惚れ相談をされるのだがその理想の男の子の正体とは浜辺美波の義理の弟・北村匠海であった。オッ! 早くもドロついてきたかな!? の下世話思考よりも先に小学生脳をかすめたのは上映前予告でやっていた実写版『とんかつDJアゲ太郎』、というのも実写版『アゲ太郎』のアゲ太郎役は北村匠海なのである。
アゲ太郎じゃねぇか…本から飛び出してきたような理想の男の子ってアゲ太郎だったのかよ…っていうかその本漫画版の『とんかつDJアゲ太郎』だったんじゃない!? 動揺している。動揺していたのでなんとかオモシロ方向に思考を誘導しようとしてしまった。なにせ、もう、この映画、キラキラ枠とは思えぬドシリアスなのである。しかもえらい生々しいのである。浜辺美波が福本莉子と北村匠海と一緒に部屋で勉強会(という名の福本×北村カップリング作戦)をしていると母親が神経を尖らせて様子を見に来る。「あなたたちが二人で部屋にいるのかと思って」…な、なんだよ! 二人で部屋にいたらな、な、なんなんだよ! は、繁殖!? 繁殖するんですか!? ハムスターみたいに!?
もうね、アゲ太郎を頭に浮かべてないと観てられないですよ。北村匠海くんときたらもう『シュガー&スパイス 風味絶佳』の柳楽優弥くんばりに男フェロモン出してくるんだもんな。エロすぎるでしょ。俺には義理の姉である浜辺美波を想って部屋でパッション溢れるオナニーをする北村匠海くんの姿が見えましたよ。あったんじゃない? むしろそういうシーンあったんじゃないかな? いや、ない! 断じてないのだが、あってもまったくおかしくないぐらい「性」を感じる恋愛映画であったのだ。
また浜辺美波もですねぇ、これ悪い意味で言ってないですけどなんつーかですねぇ、キャバ嬢なんですよ。すごいリアルなキャバ嬢感でドキドキしちゃったね。いやもうすごいのよ。気を遣うところと素のところの演じ分けがまずすごいし、この人すこしだけハスキーでそれでいて舌足らずな独特な声質じゃないですか。それがなんか酒焼けっぽい艶があってさ…俺さっき浜辺美波の年齢調べて『シックス・センス』のオチよりびっくりしちゃった。
2020年8月16日現在、浜辺美波19歳ですよ。いやウソでしょ!? 19歳でこの艶この人生疲れ感を出せていいの!? 大丈夫なの!? むしろ俺が大丈夫なの!? ぼく浜辺美波より全然年上ですけどこんな大人感一ミリも出せないよ!?
もうね、その大人の二人が禁断の恋的なものの中で大いに葛藤していてですね、爽やか恋愛映画を観るときのドキドキとはまったく別ジャンルのドキドキがすごかったですよ。こんなのベッドシーンいくつか入れたら完全にピンク映画でしょ。エロ台詞とかエロ展開があるわけじゃないですけど雰囲気がアダルティ過ぎるんだよ。アゲ太郎! 帰ってきてくれアゲ太郎!!
でも切ないすよね。なにも無意味にアダルティってわけじゃなくてそこはやっぱ物語ともリンクしてんです。大人にならざるを得なかった傷ついた子供たちみたいな。主要登場人物の高校生四人みんなすごい気を遣うんですよ。で半分諦めてるんですよね、自分の将来とかそういうの。四人のうち一番子供っぽい夢がある感じの赤楚衛二の台詞が沁みるんです。この人は近くの丘から遠くのビル群を眺めてこう言う。ここではないどこか。昔はあそこに行ったらすごいものがあるのかなと思ってたけど、行ってみたらここと同じ普通の街だった。ここではないどこかなんて無かった。
そんな…そんな台詞を高一が言わないでいいよ~。高一ってもっと無邪気でいられる年頃なんじゃないの~違うのかな~違うのかもしれないな~でも切ないな~。全然関係ないんですけどこの台詞を聞いて思い出したエピソードがあったんです。運良く犯罪には関わることがなかった元オウム信者の人が書いた『オウムからの帰還』っていう回顧録の頭に出てくるエピソードで、それはとくにオウムとは関係がないこの人の幼少期の記憶なんですが、ある日のこと住んでる団地の敷地内に飽きちゃって遠くの方まで冒険に行ったら迷って帰れなくなってしまった。で、どうしようかと思ったら目の前に自分の団地とそっくり同じような団地が現われた。不思議に思いながらも子供だから帰ってきたんだと思う。でもこの人がその団地の自分の部屋であるはずの場所に戻ると、家の中から出てきたのは見知らぬ人だった。
オウム真理教の信者というのは大なり小なり「ここではないどこか」を求めた人たちで、それが大変な結果を生んでしまったわけだから野放図な「ここではないどこか」志向が必ずしも正しいものとは思わないけれど、でもその「ここではないどこか」が最初から否定されている世代の人って願望の逃がしどころがなくて辛いんじゃないかなぁ、と思う。俺もどちらかと言えばそっち寄りの世代ではありますが幸いにもと言うべきか不幸にもと言うべきか妄想力が強めの個体なので、UFOを信じているとかそういうわけではないけれど、明日か明後日になれば世界が俺の超天才性に気付くだろうはっはっはと「ここではないどこか」を常に夢見ていられるのです。人からどう見えているかは知らないが本人的にはこれで毎日結構たのしい。
その意味でこれはオウム以後、あるいは3.11以後、あるいは民主党政権以後…まぁなんでもいいんですけど、すげぇそういう世代的なものっていうか、「ここではないどこか」の存在が本当に信じられなくて、今生きているこの世界でお互いに諦めたり気遣ったりしながら生きていくしかないっていう感覚…それがアダルティな雰囲気の基調になってるんだと思いますが、そういう世代感覚がとにかく全編に横溢していてなんとも切ない、痛ましい映画だったわけです。
だって赤楚衛二なんて映画部で監督やってるくせに惚れてる浜辺美波におすすめの恋愛映画を聞かれて『アバウト・タイム』って答えるからね。いや空気読みすぎだろって思うよそんなの。もっと自分の好きなものを自分本位で推せばいいじゃない。俺がおすすめの恋愛映画を女の人に聞かれたら相手が誰でも『ゾンビ』ですよ。『ゾンビ』はスティーブンとフラニーのアダルト恋愛の話でもありますからね。とくに恋愛要素が強めなディレクターズカット版(ロメロ版)がいいです。おすすめのアクション映画を聞かれても『ゾンビ』ですよ。『ゾンビ』は脱藩SWATの二人がゾンビと強盗団と血で血を洗う領土争いを繰り広げる映画でもありますからね。アクション志向ならやはりアルジェント版がいいです。
女の人:おすすめのホラーは?
映画部の俺:『ゾンビ』です
女の人:おすすめのサスペンスは?
映画部の俺:『ゾンビ』です
女の人:おすすめのヒューマ
映画部の俺『ゾンビ』です
『ゾンビ』一本ありゃいいんですよ映画なんて! それに『ゾンビ』はまさに「ここではないどこか」を求める映画ですからね! どこにもたどり着けないかもしない、なにも為せないかもしれない、「ここではないどこか」なんて結局存在しないのかもしれない…が、それでも残り少ない燃料をタンクに詰めてヘリで夜明けの空に飛び立つラストの美しさ…! う~ん、そういうことじゃないんだよなぁ! いや、そういうことじゃないことは分かっているが! 映画部の彼もそれぐらい自分の趣味とか好きなものを出したって良かったじゃないか! モテるとかモテないとかそういう話じゃないだよ! お前は何が好きなんだって話なんだよ!
あの映画部の彼、赤楚衛二くんは北村匠海くんに「(TSUTAYAで)なに借りたの?」って聞かれて『マッドマックス』って答えるシーンがありましたが、それに対して北村匠海くん「『マッドマックス』…の?」。
これは胸が高鳴りますね! 「の?」ですよ! このご時世『マッドマックス』と言ったら『怒りのデス・ロード』を指しますからね! そこにあえて「の?」を差し挟む北村匠海くん! これは! こ、これは! 『サンダードーム』来るんじゃない!? 『サンダードーム』来るんじゃないこれ!?
北村匠海くん:『マッドマックス』…の?
北村・赤楚:『怒りのデス・ロード』!
北村匠海MAX:だよな~
だよな~じゃねぇよ! 赤楚もお前相手におもねるなよ! たとえその結果北村匠海くんと微妙な距離が出来たとしても『サンダードーム』を譲るなよ! えっ!! 別に『サンダードーム』好きじゃないの!? それならまぁしょうがないよなガッハッハ! みんなついてきてます? 俺だけ「ここではないどこか」行っちゃってないですか? 寂しい…なんだかたまらなく寂しいよ…。
つらみの強い映画だったのでまたもや脳内緩和ケアを施してしまった。ま、とにかく、そういう映画だったんだよ『思い、思われ、ふり、ふられ』。どんな映画だったか伝わってる気は全然しないけどさ、俺はみなさんの感性を信じますから。要は『マッドマックス サンダードーム』を一人で観るよりも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を友達とDVDで観る人たちの映画だよね。違うよ! 全然違うよそれは! 違うけどでもちょびっとだけテーマにかすってません? もうこうなると読解力どころではなく行間からアカシックレコードを読み取るようなみなさんの妄想力に期待するしかなくなってくるが…。
浜辺美波と北村匠海くんはアダルティこの上ないわけですが福本莉子と赤楚衛二はあまり恋愛に縁の無いウブでガキな高校生、この四角関係の中で福本莉子と赤楚衛二もアダルトに育っていく、一方でアダルトロールに疲弊した浜辺美波と北村匠海くんはチャイルディッシュ福本莉子&赤楚衛二に感化されて硬直したアダルトロールを軟化させていく。
原作がよいのでしょうが非常によくできた群像ドラマで、映像面においても繊細・丁寧の二言になったが一言。これはですねぇ、ある程度メジャー邦画を観ている人ならわかるとおもうのですが、最初の方にスマホのLINE(的な)画面が映る場面があって、その構図がスマホを至近距離の水平ちょっと上ぐらいから斜めに見下ろす形になっているので、チャットが来ていることは観ていてわかるけれども、チャットの文面は判読できない。どうすごいかわからない人もいるかと思うのですが実際観ると「わぁこんなの観たことない!」ってなるんじゃないですかね。
観たことないは大袈裟だとしてもこんな微妙なラインを狙った構図はまずメジャー邦画ではお目にかかれない。この手のシーンは普通チャット画面をベタ撮りして文面を観客にわからせることを主目的とするものなので。この場合は実はちょっとした物語上の仕掛けがあるのでこういう構図を採用しているわけですが、ともかくこんな風にスマホを撮るというだけでもそんじょそこらのつまらない恋愛映画にするつもりはねぇよっていう気概を感じるわけです。
ファジーな映像は美しく、サスペンス的な構図は緊張感もあり、あとこれは環境音を前に出した静謐なサウンドデザインもイイんだよなぁ。エンドロールのフォントと行間にも独特の美意識を感じますし、本当にですねぇ、これはちょっと俳優含め技術的にもテーマ的にもレベルの違うメジャー恋愛映画来たなって感じなんで、キラキラ映画とか少女漫画原作映画っていうとやたら泣いたり叫んだりとか、あとやたら祭り行くとかショッピングモール行くとか…まぁこれも祭りは行くんですけど撮り方が自然で嫌らしさとかわざとらしさがないので…だからそういうのを想像する人は観に行ってびっくりして欲しいですね。
ガキ向け映画のはずなのにそこらの大人向け恋愛映画なんかより全然大人の恋愛をしているし、恋愛の本質に迫ろうとしていたので。素晴らしい映画だと思いますよ。いやマジで。
【ママー!これ買ってー!】
義きょうだいものキラキラ恋愛といえばやはり『ママレード・ボーイ』です。映画版はビジュアル派の廣木隆一の手によってなんだかギリシア悲劇のような色合いを帯びてしまってこれも、なかなかすごい。
キラキラ映画は苦手なんですが、ご感想がおもしろかったので観に行こうと思います。
「ここではないどこかは本当にあるんだよエンド」のサンダードーム的映画ではなく、「いま、ここ」に立ち向かうエンドのデス・ロード的な雰囲気のキラキラ映画なんて、あんまり聞いたことなかったので。
そ、それはなんだか大いに勘違いをさせてしまったような気がしますが…でも面白い青春恋愛映画なのでぜひ勘違いしたまま観に行ってみてください!『怒りのデス・ロード』感は別にありませんが!(でも面白いので!)
>『マッドマックス サンダードーム』を一人で観るよりも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を友達とDVDで観る人たちの映画だよね。
この一文に騙されて、いや導かれて観たけど的を射てると思いますよ。すげぇ分かるわぁ…だったです、少なくとも俺には。
かなり真面目に出来のいい恋愛映画でかつ邦画なので色んな搦手を使ってでも多くの人に紹介したいという気持ちにはなりますよね。
俺もあんまりキラキラ映画は率先して観ないけれど、挫けずにそういうジャンルを観続けて年に一本でもこういう作品に出会えたらガッツポーズだろうなぁと思いますよ。
いや、あの、思いついたことをノリで書いてるだけなのであんまり意図とか意味とかはないのですが…でも面白かったならよかったです!ぜひこれからもキラキラ道中を進んでください!