社会派スケボー映画『行き止まりの世界に生まれて』感想文

《推定睡眠時間:0分》

いちばんグッときたのは主要登場人物である屋根職人DV男(若手)のDVの誤魔化し方で、カメラ回してる監督は昔からの友達だからそこはまぁカメラもあるし険悪な空気にはしたくない、それで酒に酔って妻を殴った直後に妻の方がブチ切れてテメェぶっ殺すぞって叫んだ時の音声と映像だけスマホで録っといて監督に見せながら「これ見てくれよ~あいつ頭おかしいんだよな~」とか殴ったことは言わないで妻の信頼性を下げようとするんですけど、超、ちょう、CHOU、あるわ~って感じですよ。あるわぁぁぁぁ!!!!!

いや笑い事じゃないんだけどめっちゃおもしろいよな。その姑息さとさ、発想の安易さとさ、白々しさがさ、お前それで隠し通せると思ってるのかよってツッコミ不可避なんですけど、そんな見え透いた隠蔽工作をついしてしまう関係性っていうのが見えるのがさ、呆れるやら切ないやらで、だいたいそういうことをわざわざやるってことは薄々にでもDVに勘づかれてるって分かってるわけじゃないですか。分かってるけどその問題をどうするかっていう正攻法の解決策がこの人は発想できなくて、なんか、あぁこいつはずっとこんな感じでしょうもないその場しのぎを続けてきたんだろうな…って思う。それが、おもしろいと言うと語弊があるけどおもしろいし、イイと言っても語弊があるけど、でもイイんですよねぇ。

スケボーの映画かと思ったらそういう映画でした。この監督ビン・リューは華僑二世とかで子供の頃からビデオカメラに興味があった、でスケボーもやってたので母親に買ってもらったビデオカメラでスケボー仲間撮ったりしてて、それから12年後、ハリウッドでカメラアシスタントの仕事をしていた(『ダイバージェント』とか『トランセンデンス』とか『ジュピター』とか結構大作もやっている)この人が今まで撮り貯めたスケボー仲間の映像をDVの連鎖を主題として繋いでみたのがこの映画『行き止まりの世界に生まれて』。

なんだお前成功してんじゃんとIMDbでフィルモグラフィーを見て安堵したような残念なような微妙な気分になりましたが良かったですね行き止まりの世界から出られて。お前の友達酒飲んで妻にDVするぐらいだしめっちゃ行き止まってたもんな。最終的にはみんなそれぞれの道を見つけたような感じだったのでなによりですが貧困層はつらいよ。よくこんな不名誉な貧困プライベートをさらけ出せるなと登場人物を見ながら思ってしまうがそのへんは監督との信頼関係はもちろんだろうけれども、一足早く(?)行き止まりの世界を飛び出してハリウッドで立派な仕事をするようになったビン・リューのカメラに、こいつら脱出の希望を託していたんじゃないだろうか。だとしたらイイ話である。

お話としてはこのような感じ。ビンとキアーとザックは仲良しスケボーキッズ。ビンは中国系、キアーは黒人、ザックは白人という人種のサラダボウルを地で行く編成。そういえば最近サラダボウルって言わなくなりましたね。なんでだろう。まぁそれはいい、でこの人たちにはスケボー以外にも共通点がありました。それが親父からのバイオレンスで、中卒屋根職人のザックにめでたく子供が出来たってことでビンはザックとその妻を撮っていくんですが、その過程でどうもザックが妻とうまくいっておらず酒ばっか飲んでDVにはしる夫になってしまったらしいということに気付く。

そのうち、ザック別居。そしてザック失踪。最初は育児もちゃんと交代制でやる子煩悩な夫だったのにどうしてそんな風になってしまったのだろう。ビンはDVマンに堕ちたザックの姿に幼少期によく殴られたりなんかしていた嫌いな継父を重ね合わせる。そうだったなぁ俺もザックもキアーもみんな家に居るのが嫌でスケボーやってたんだよなぁ。で、ビンは今は継父と離婚したっぽい母親にインタビューをしにいく。なにか、そうすることでDVの連鎖を断ち切ることができるんじゃないかという気がしたんである。

撮影期間の長いドキュメンタリーなのでザックがあんなダメ人間に方向転換するとは(予感はあったかもしれないが)あんま思っていなかったんじゃないだろうか。父親になる前に高卒認定試験を受けに行くザックとその数年後の酒ばっか飲んでるザックの落差ときたら。最初はアメリカにドンキがあったら絶対に週3で通ってる感じだったアヴリル・ラヴィーン大好き風のザック妻がどんどんちゃんとした人になっていくのと対照的だ。なにもドンキに週3で行く人がちゃんとしてないというわけではないが。

そのへん、過度な感傷ムードが鼻につかないこともないが感動的です。ザックが右往左往している間にも息子はそんなの知ったこっちゃなくどんどん育ってくしな。その絵面だけでも希望に満ちていて結構泣かせる。
あとビンのもう一人の友人キアーですがこの人もいるわ~っていう感じの超イイ奴です。まカメラに写ってないところでどんな顔をしているかは知らないが、写っている間はずっとエヘエヘ笑ってる平和な人。

バイオレンス渦巻く貧困環境をどうサバイブするかっていうのをこのなりに考えた結果のエヘエヘ笑いなんだろうなっていうのも透けて見えてこれも切ない。家に来た叔父さんがカメラ回ってんのに「お前こうなるなよ、な。俺これからムショ行ってくるからよ。ま、すぐ出てくるけどよ、な?」とかちょっと笑いながら言ってくる環境なので懸命な判断です。ちなみにこの叔父(だったと思うが)は無事ムショから出てきた後にキアーの金を盗んだ疑惑が持ち上がる。そらそんなのにいちいちブチ切れてたら命いくつあっても足らんわ。笑うが吉。

ビン自身が撮ってるのかは知らないがスケートシーンはカメラマンもスケボーに乗ってアクションカメラで追う。閉塞感まみれの貧困地域なのでスケボーの爽快感も格別のものがある。みんなスケボーでネガティブな感情を発散させてたんすねぇ。ザックもダメ人間だけどスケボーは上手いんだよ。その二面性っていうか、人間のどうしようもなさがこのスケボーシーンには出てて、イイ。

それにしてもアメリカの道路は広くて羨ましい。そのうえ真っ昼間なのに(朝なんだろうか)車も通行人も全然いないからスケボーし放題。東京のスケボー若者なんか深夜でも交通が絶えないものだからえらいみみっちいところでちまちまやってるもんな。スケボーパークとかも少ないし。俺は別にやらないから関係ないけれども、東京、狭いなぁ~って思いましたよ。『ゲームセンターCX』の中でアメリカ留学経験のあるAD中山くんがのびのびできるのはアメリカだけど住みやすいのは日本、みたいなことを言っていたなと思い出す。

差別とか格差とかとにかく問題だらけだけれども問題とちゃんと向き合えば解決できると信じるアメリカ的楽観主義に対して日本はどうだろうか、と、間接的に自分たちのことも考えさせられてしまう感じの映画でもあったなぁ。

※何気ないシーンなのだが友達感全開のオープニングがとってもよいので映画全部観てからあのオープニングを思い出してみてほしい。無謀は勇気と違うんだよ、みたいな。青春の終わりを捉えた映画でもあったからそこもまた…。

【ママー!これ買ってー!】


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これも良いスケボー映画だったなぁ。こっちもやっぱ家に居場所がないガキどもがスケボーやるんですよ。スケボーって単なる遊びじゃないんすねぇ。

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