《推定睡眠時間:0分》
シャイニングといってもシャイニングガンダムじゃなくてスタンリー・キューブリックの『シャイニング』でした。主演の森崎ウィンさんといえば言わずもがなキューブリックの愛弟子(?)スティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』において「俺はガンダムで行く」の名台詞を残したあの人ですが『レディ・プレイヤー1』には『シャイニング』ステージが出てくるので森崎ウィンさんそのステージで遊びすぎたのか『妖怪人間ベラ』ではついに『シャイニング』のジャック・ニコルソンになってしまいました。ゲームのやりすぎはよくない!
『シャイニング』のジャック・ニコルソンは最初から人格が崩壊しているとしてとくに原作ファンから批判されることもありますが『妖怪人間ベラ』は森崎ウィンがっていうか映画の方が最初から崩壊してました。なにこれマジで。えぇなにこれマジで。こわいんですけど。意味わかんなくて。
これ俺があらすじ書くの下手なんじゃなくて本当にそうとしか要約できない映画なんですよっていうのは俺の名誉のために前置きしておきますが主人公の森崎ウィンは『妖怪人間ベム』の旧アニメ版DVD-BOXを出そうとしてる会社員なんです。それでプロジェクト一緒にやってる同僚がベムには差し替えになった幻の最終回があるらしいって話を持ってくる。いいじゃんそれ特典に入れたら話題になるじゃん探そっ! ってわけで森崎ウィンは同僚と権利元の倉庫探訪。見つかったフィルムにはベロが警官に撃ち殺されて「人間になんかなりたくない!」とぶちまけるベラが描かれていた。フィルムを見て森崎ウィンは発狂する。「か、彼女はなんと言った…彼女はなんと言ったァァァァ!」(※アフレコ音声などは入ってないのでフィルムを見ただけでは台詞がわからなかった)
一方そのころ、森崎ウィンの生活圏にある女子校に人外ムードを漂わせる謎の女子高生(emma)が転校してくる。彼女の名前は百合ヶ咲ベラ。百合…そういう展開だからそういう名前なのかどうかは分からないが、モデル活動をしている同級生女子1がベラと仲良くなったことで同級生女子1に恋をしている同級生女子2は嫉妬爆発、ロッカーの制服を切り刻み机には死ねだのなんだの罵詈雑言を掘り刻みがベラが食べようとしていた学食のナポリタンにはミミズを二十匹くらい混入し挙げ句の果てにはベラを写真部の暗室に閉じ込めて殺害しようとする。
しかし! 言うまでもなくベラは妖怪人間! 妖怪パワーで逆に嫉妬に燃える女子高生2を発狂させると女子高生2は女子高生1をビニール傘で突き刺し殺害、これがどう森崎ウィンの話と絡むんだろうと思いきや全く絡むことなく街には殺人鬼と化した女子高生2が意味もなく血まみれでうろつくようになり既にある程度発狂済みの森崎ウィンは葬儀の場で遭遇したベラに触発され息子を男らしく育てるために風呂場で溺死させようとしたり妖怪変化させようとして最終的にジャック・ニコルソンになるのだった???
いやいや…なんか『妖怪人間ベラ ~Episode 0~』っていう前日譚が配信ドラマであるらしいんですけど、だからたぶんこの映画版はその総集編で、それ観れば色々わかるところもあるのかなって思うんですけど、飛ばしすぎ。支離滅裂。びっくりしちゃったクリストフ・シュリンゲンジーフの映画じゃないんだから。いくらなんでも総集編としてまとめきれていなさすぎるだろ。映画として成立してないよこんなの。
『妖怪人間ベム』は作者の実体験に基づいて書かれた実話だったっていう『エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア』みたいなメタ外伝をやろうとしたのはわかりますけど女子校パートと森崎ウィンのパートが本当に全然関係なかったし開始早々に森崎ウィン発狂してるので近所のババァに突然怒鳴り掛かったり会社の上司を鉛筆で刺して電撃退社したり息子の殺人未遂を起したりするんですけど一切警察沙汰にはならずそのことを知っていながら妻もなんとなくスルーして日常を続けていたら家に死体が宅急便で届いたってなんなんだよそれ!
壊れてるわー。怪作じゃないわこれは壊作だわー。なんでこの企画通ったの。まずそこがわかんないし結果おもしろかったからよくぞこの企画を通したなって感じですけど…でもなんで通ったの? ちょっと心配になってしまう。しかも監督は英勉ですよ。頭ズッカァァンでしょ。エンドロールで「監督:英勉」って出た瞬間スタンド攻撃食らったのかと思ったよ。だって英勉の映画って『トリガール!』とか『あさひなぐ』とか直近だと『ぐらんぶる』とかですよ。
もちろんそれはお仕事としてやってるわけですからホラー映画の依頼が来たらホラー映画っぽく撮るのは普通のことでしょうけど、なんとなく手癖ってものがあるじゃないですか、明るい映画でも暗い映画でもあぁこれはこの監督らしい画作りだなみたいな。でもそれが俺の目にはわからなくて、確かに俳優のバタ臭いオーバーアクトは英勉の映画っぽいなぁっていう感じなんですけど、逆を言えばそこぐらいで、なんでメジャー映画会社でバカ明るいホモソーシャルな学園コメディばっか撮ってる監督がこんなグロテスクで血まみれで理不尽で支離滅裂でしかも安っぽくて録音がダメなのか台詞の聞き取りにくい映画を急に撮るんだよって思ったらもう…ちょっとこわいよね。いきなり発狂する森崎ウィンと英勉が重なった。
一応俺なりに考えてフォローするとこれはちょっと懐かしい空気を纏った映画で、Jホラーブームが本格的に来る前の邦画ホラーって『羊たちの沈黙』とかの影響でサイコホラーがプチブームになってたじゃないですか、なんか佐野史郎が出るような。『妖怪人間ベラ』その路線の映画かなって思った。
呪われたフィルムを観て発狂するところは『リング』風ですけど支離滅裂な展開とかオーバーな発狂演技とか結構90年代邦画サイコホラーなんですよ。スーパーナチュラル要素が入ってるから『富江』とかは似てますよね。あれだってなんでそうなるのってところありますし、あと虫を食わせようとするとかもそういえば『富江』にあった。オマージュなのかな。
まぁでも、それはそれでなんで『妖怪人間ベム』の外伝実写化企画が『富江』になるんだよっていうのはある。あとなんで最終的に『シャイニング』なのかもよくわかんないよね。『シャイニング』っぽいんじゃなくてこれは『シャイニング』ですから。『シャイニング』な斧持った森崎ウィンがダニィィィって感じで逃げ回る我が子を追いかけ回すっていう。しかもそれをいちいちシーンを割って延々とやるっていう。
シーン割ってまで同じ事を繰り返す意味なんか別にないんですけどなんでそんなことになってるんすかね。森崎ウィン発狂後も何事もなかったかのように日常パートが続くあたりもよくわかんないし。その編集がさ、なんか素人っぽくてさ、映像のインディーズ的な質感もあって俺途中まで『先生を流産させる会』の内藤瑛亮が監督したのかなって思ってたからね。っていうのも内藤瑛亮が注目を浴びるキッカケになった短編映画『牛乳王子』にこの映画と同じようなビニール傘の使用法が出てくるんですよ。内容的にも女子校パートは苛烈なイジメ題材でしょ。苛烈なイジメといったら内藤瑛亮ですよ。
だから内藤瑛亮の映画だろうと思ってエンドロールの最後まで観たら『ぐらんぶる』の人で…『シャイニング』かつ『富江』で…『妖怪人間ベム』は比較的早い段階であまり関係なくなり(妖怪人間要素はある)…CGクリーチャーバトルまで出てくる…もう、謎だね。謎の映画だね。エンディング曲がDAIGO率いるBREAKERZっていうのも全然わかんないタイアップですよ。
世の中には色んな謎がある。楽しい謎。怖い謎。これはたぶん解かない方がいい謎。いやぁ、意外なところにあったものだよ邦画秘境ゾーン。勇気ある映画探検隊のみんなは挑戦してみよう。そうでない人に勧める勇気と悪意は俺にはないです。
【ママー!これ買ってー!】
アマレビュだとそこそこ評判いいのでやっぱ映画が壊れてるんじゃないかな。コンテンツそのものじゃなくて