田舎よいとこ映画『インディアナ州モンロヴィア』感想文

《推定睡眠時間:8分》

今ちょうどバイデン当確が出たところでこの感想書いてるわけですがインディアナ州は今回の大統領選では早々にトランプ当確が出たところ、今現在の最新データでは開票率99%になっているのでまだ微妙に揺れるのかもしれないが得票率にしてトランプ57.1%、バイデン41%なのでかなり楽勝な感じ。いわゆるレッド・ステイトというやつ。共和党の地盤。それでも2008年のオバマVSマケインの時はオバマが勝っているのだからオバマ旋風はすごかったという話だがそれはまぁいいとして。

いやぁ、ちょっと考えさせられたね。アメリカ・ドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマン(御年90歳だとか…)お得意の「町もの」、近作では『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』というのもありましたが今回はそれと真逆のドの付く田舎が舞台でー、いいねっ! どこまでもあぜ道とトウモロコシ畑と巨大な空が広がる人口が1万切ってるぐらいのアメリカの素朴な農業の町!

もうねこれがすごく良いんですよアメリカの原風景って感じでね。風景ショットも今までのワイズマンの町もの映画より多かったっていうか力が入ってたんじゃないかな。畑とか家とか絵画みたいに美しく撮る。あるいは普通に撮っても絵画みたいになるのかもしれない。アンドリュー・ワイエスみたいな…というほど暗い印象はなくむしろ逆に温かみが非常に強いわけですが。

で、レッド・ステイトだからそこに住む人たちって基本トランプ支持じゃないすか。しかも個々の州の得票数の郡内訳を見てみるとバイデンが勝った州でもトランプが勝った州でも基本的には都市部が青い、つまりバイデン支持が多くて、反対に田舎は赤い、トランプ支持多し。人口比では都会が圧倒的に多いわけだから都会票だけで勝ってるような州もある。っていうのを考えるとインディアナ州の片田舎モンロヴィアなんかめちゃくちゃトランプなんですよ。USA柄の服着てる人とかたくさんいるし、鹿狩りとかするから銃も買うし、(トランプ支持率が極端に低い)黒人人口も見た感じ1%届くのこれっていうぐらい圧倒的に白いですしね。

みんなトランプ支持者ってどんな風にイメージしますかね。無責任な野蛮人? 妄想まみれの陰謀論者? 無知無学な貧乏白人? 自分たちは見捨てられたと考えてリベラルとか都会への憎悪で凝り固まった人?
まぁ、トランプ支持層は多彩なのでどれもリアルといえばリアルなのかもしれないが、俺この映画に出てくるモンロヴィア住民の人たちがトランプ支持者のリアルかつメインストリームなんじゃねぇかなって思ったんですよ。

でそれがどういう人たちかっていうと、これはもう一言で言えます。普通。完璧に普通。いやもうマジで普通の田舎のアメリカ人。ワイズマンのドキュメンタリー・スタイルは様々な組織の中での人の活動を観察していくものなので、この人たちがどういう思想信条を持っているかとか、どういう情報源に頼っているかとかはわからないわけですが、逆に言えばそこを考慮しなけりゃとにかく普通としか言いようがない。

普通に仕事行って、普通に飯(ピザ)食って、普通にスーパーで買い物して、普通に酒飲んで、普通に銃買いに行って店主と世間話して、普通に子供ふれあいクラブ的なやつに参加したり、普通に動物病院で犬の手術したり、税収増のための企業誘致と人口増か生活の質のための現状維持かで悩んだり、管理者の曖昧な給水口を巡って陳情があったり、普通に教会で結婚式をして葬儀をする…とにかく普通の田舎のアメリカ人なんですなこれが、この小さな町の人たちは。まぁフリーメーソンの支部があってそこでなんかメンバーが全員ご高齢なのに大真面目に儀式やってて笑っちゃうようなシーンとかはちょっと想定外な感じありましたが。

で、それ見てて思ったよね。たとえば前の大統領選でヒラリー陣営はいかにもリベラル受けしそうな進歩的な政策を訴えたりしたわけじゃないですか。まぁ今回のバイデンもそうなんですけど、人種問題とか環境問題とか。あと外国から新しく入ってくるやつを制限しようっていうのは前回選挙でのトランプの目玉政策でしたよね。これ、普通の田舎のアメリカ人にとってどっちがリアリティのある政策だろうって話ですよ。

黒人が本当に数世帯ぐらいしかいない地域に住んでる人に黒人の人権問題を訴えても賛成とか反対以前にその問いにリアリティって持てないんじゃないすかね。環境問題だってそりゃ作物の出来不出来として可視化されれば実感も出てくるかもしれないけれども、作物にあまり顕著な変化がなかったら逆に環境問題環境問題って言われて不信感すら抱くんじゃないすか。だって俺の畑べつに変わってないすよみたいな。

一方でトランプの移民政策はそれ自体というよりも外から入ってくる人に厳しくするっていう態度が、新住民の流入による生活の変化に敏感な田舎の人には響く可能性はおそらくたぶんかなりある。あるいはトランプが公約として具体的に掲げていたわけではないけれども、トランプの選挙って田舎をとにかく回る。田舎で切実な問題って俺を含めて都会の人はあまり意識しないと思うんですけど結構インフラ整備とかだったりするじゃないですか。

で、そういうミクロな問題ってなかなか中央は重い腰上げてくれないし、ましてや大統領選の討論会なんかでの話題になんか絶対にならないですよね。でもトランプはアメリカ中の田舎を遊説で巡って俺が大統領になればアメリカは変わるぞって言うわけ。メイクアメリカグレートアゲイン! そしたらさ、どうせヒラリー勝っても何も田舎変わらんから別にそこまで支持するわけじゃないけどトランプ入れてみっかみたいな、それめちゃくちゃ自然で生活人として正しい反応ですよね。

それにトランプは面白い。ヒラリーつまんない。勝ったけどバイデンもつまんないがー、まぁでもバイデンは馴染みのある顔だからヒラリーほどの抵抗感は抱かせないかもしれない。田舎なんかどこも高齢化が進んでるわけですから史上最高齢大統領っていう都市部ならマイナスの要素も田舎ではむしろ親近感としてプラス要素になったかもしれない。前回はたぶん逆ですよ。いかにも都会人なヒラリーと田舎的なジジィのトランプだったらどう考えても田舎の人はトランプの方に親近感を持つ笑

映画の感想からだいぶズレましたけれども俺それでねー、リベラルの人はトランプが大統領になったショックがでかすぎてトランプ現象っていうのを過大に評価してるんじゃないかと思ったんですよ。普通の人でもトランプに票を入れるってこういうことで、よくラストベルトの産業がどうとか、追い込まれた白人がとか言いますけど、モンロヴィアに住んでる人たちみんな普通だし、娯楽は少ないが普通にそこそこ楽しそうに暮らしてるし、そういう人がヒラリーと比べてなんとなく入れたくなった候補がたまたまトランプだったっていうだけなんじゃないすかね、トランプ現象の正体って。

だって前回だって別にトランプ圧勝って感じじゃなかったですからね。獲得選挙人の数で負けましたけど総得票数はヒラリーの方が多かったわけで。だけど田舎を基本的にバカにしている都会のリベラルは思わぬ田舎の民意を食らってパニックになってしまったし…田舎の人が都会の問題を想像することが難しいように都会の人が田舎の問題を想像することも難しい。それで、都会のリベラルはなんでトランプが勝ったのかわかんなくて、一部の極端なトランプ支持者だけを見て一種のトランプ神話を自分たちで作っちゃったんだと思うんです。

そういうのが、この映画を観るとわかる。さすがワイズマンはスマートですよ。2018年撮影にしてトランプの文字も言葉も一切出てきませんけれどもこれぐらいトランプ現象について考えさせられた映画は他になかったし、腑に落ちた映画もなかった。これぐらいカンタンにトランプ現象の解決策を提示した映画もなかったね。都会の問題ばかり見てないでちゃんと地方の小さな問題にも目を向けろっていう、もう本当にそれだけですよ。都会のリベラルがトランプの傷を乗り越えるにはそれで充分なんじゃないすか。アメリカの分断とか大袈裟でもっともらしい話にしなくてもさ(都会と田舎が分断してない国家なんてそもそもない)

トランプの映画じゃないのにトランプの話が大半を占めてしまっているので映画の面白かったところを最後に少し。バイカー御用達の(?)床屋さんの名前が「ホットロッド」。こんなの初めて見た築地みたいなコンバインの競り。数が少ないにも程があるので作業部会かと思ったらなんと町議会だった五人ぐらいの会議。その会議で普通にテーブルに置かれているコーラ。日本の都会の住宅街スーパーとちょうど同じぐらいの規模感の田舎スーパーに思わず既視感。同時にこの規模感で田舎レベルのアメリカの巨大さを知る。

あと面白かったといえば町祭りに出店してきたホリスティック医療の会社の販売員兼宣伝員がめちゃくちゃカメラ目線の都会的セールストークでオーガニックだのなんだのと胡散臭い売り込みをしまくり。あやしーって思ってると話を聞いてた地元の夫婦も無の表情を浮かべてて笑ってしまった。

この町祭りのシーンでもうひとつ印象的だったのは銃所持の権利を訴えるお手製メッセージボードで、これはどういう団体かもしくは個人が出したのか映画を観る限りではよくわからないんですが、それを見て思ったのは、こんな風に近くに警察署も消防署もなくて、だだっ広い畑の傍らにポツンポツンと民家が点在するぐらいな田舎だったら、そりゃ自衛のために銃ぐらい持っとかないとさすがに不安だろっていうことで、なんか銃持つっていうと攻撃的なイメージありますけど、結局こういうのはインフラとか公共サービスの不足を個人で補うためのものっていう生活上の要請がやっぱあるんですよ、イデオロギー以前に。

銃乱射とかもあるし銃規制は進めた方がいいんじゃないかなーって対岸の火事ながら俺は思ってますけど進めるためにはやっぱりそういう生活の改善が必要だなって、そこもウロコとまでは言いませんけど目からタンポポぐらいは出ましたねー。
まとにかくですね、そういうの色々考えるし、あと単純にアメリカ田舎の風景と人々の姿がこれぞアメリカ原風景という感じで素晴らしいので、まぁワイズマンの映画は全作必見なわけですが、これも必見。かなりおもしろかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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都会と田舎の町景色を比較して見ることで得るものも多かろう。

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