猫戦映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』微妙にオチバレ感想文

《推定睡眠時間:0分》

みなさんの盛り上がりに水を差すことになるのはわかりきっているのでロシャオヘイ面白かったな~! この喜びをネットで共有したいな~!! って思ってグーグルの検索バーに「羅小黒戦記 感想」とか入れて不幸にもこのページに辿り着いてしまった人はもうここ読んでる時点で帰った方がいいですよ。そんなにネタバレとかないですし(微妙にあることはある)面白かったので悪口もないですけど確実に水を差すので。やさしいなぁ俺は。しょせん個人ブログなのにそんな警告をわざわざ出すなんて! そのやさしさをなぜ作品には向けられないんだとか思わなくもないですけどこれはどちらかと言えば自衛措置なので別にやさしさではないのだ。

感想。『羅小黒戦記』観た感想。ぶっちゃけ普通。あの面白いんですけど面白いんですがぶっちゃけ普通でした。ダイナミックなアクションすごい。スピーディな演出すごい。キャラクター魅力的。世界観独特。う~ん、でも、いや俺もそう思いますけどそんなの面白いアクション系のアニメ映画全部に言えることなので…って身も蓋もないけどさ。

ここらへんが微妙なんだよな。普通に面白いファンタジー系のアクションアニメだったのでこれがウケるのはわかるし話題になるのもわかりますけど、だっていくら面白くても『コマンドー』を映画史上の名作扱いする人はいないわけじゃないですか。すいませんいるかもしれないのであんま適切な表現じゃなかったです『ダイ・ハード2』にしてください。『ダイ・ハード2』はとても面白い映画ですけど普通に面白いだけで…正直それ以上の持ち上げ要素とかなくない? っていうか「面白かった」っていう以外の感想自体がそもそもなくない? マクレーンがダサかっこいいとかそういうのもあるにしてもだね…。

と書きながら『ダイ・ハード2』なんかと比べんなやこっちはちゃんとメッセージあんねん的な反論も既にセルフで脳内受信しているわけですが、『羅小黒戦記』だって別にさぁ、内容的にはジャンプ漫画とかサンデー漫画なわけじゃないですか。メッセージったってその程度の話なわけで、そりゃ別にそのメッセージが刺さる人を否定するわけではないけれども、なんというか、そんなんポケモンの映画にだって毎回入ってるじゃんみたいな。

みんなポケモンの映画観ながら真剣に「自然を守らないとな~」とか思ってるの? なんか流れでポケモン映画disに傾きかけてますがいやだからそういうわけじゃなくて! それって普通にあるやつじゃんっていう、その普通のメッセージを…あるいは世界観とかでもいいんですけど…なんでそんなありがたがるのかよくわからないっていう、そういうことなんですよ要は。

だから俺がこの映画で面白かったのはどちらかと言えばその作り手が狙ったところの普通の面白さよりもそこから外れたところって感じでしたね。なんかね、吹き替えで観たからたぶん原語で観るよりもそこ際立ったんじゃないかと思うんですが、ストーリーの連続性が弱いんです。でもシナリオには首尾一貫性があるんです。

俺の学力だとこれをワンワードで説明できないのだがー、つまりですね、せっかくだから再び『ダイ・ハード2』に登場してもらうと、『ダイ・ハード2』は最初にマクレーン出して色んな人と会話させて観客にこの人は善人の主人公だって思わせます。で悪いやつは悪そうなことを色々してこいつは悪そうなことをしてるから悪者だって思わせ…いやそれもなんか違うな。

えー、だから何が言いたいかっていうとですね、欧米式の娯楽映画だったら論理的に展開するじゃないですか。やや抽象的になりますけれどもAならBでBだからCで…という風に進む。これは日本映画も基本はそうだし韓国映画も台湾映画もタイ映画も…まぁ欧米映画の影響下にある国ならどこの国でもだいたいそうじゃないですか。でも『羅小黒戦記』はそういう風に進まない。論理じゃなくてイメージの連鎖とか類比で進むんで、欧米式のAならBでBだからCで、の一直線進行に対してこちらはAとBは似ているのでAとBに共通する形はCである…みたいな横に広がる進行の仕方をする。

こういうのは欧米的な作劇をガッツリ内面化した観客からすると説明不足とか伏線の甘さとかっていうストーリーテリングの未熟さとして映るんじゃないかと思うんですが、でも中国映画ってこういう感じのがすごく多いんで、小説とかはまた違うのかもしれませんけどこれがたぶん中国的に完成された映画のストーリーテリングなんです。

『羅小黒戦記』そこが面白かったんですよ。絵的にはジャパニメーションの影響はあるだろうし能力バトルはジャンプ漫画的なものの影響だろうし、バトル演出にはハリウッドのアメコミ映画だって影響あるだろうと思うんですが、そういう西洋的な映画作りを表面的に吸収していても核の部分には明確に中国的なるものがあって、そこだけはどうしてもグローバルな「普通に面白い」映画にはならないんです。それが逆に面白いっていうとなんか嫌味みたいだが…だから、そうじゃないの!

で、そういうことで言うと、能力バトル的にはありふれたモチーフだとはいえ最後は都市の風景を巡る戦いになるっていうのはたいへん興味深いところなんじゃないかなぁと思った。反逆妖怪の側はたとえ人間に住む場所が与えられてもそれじゃ満足しない。自分たちの心の中にある森の風景が彼らは欲しい。だから森を破壊して作られた都市を再び森に戻そうとする。その風景=空間の中では空間の創造者が特殊能力で無敵の神になる。

心の中にある風景を現実に拡張する能力というのが映画のキモになってるわけですが、これは逆に言うと風景は心そのものであるっていうことじゃないですか。これがですねすげー中国っぽいっていうか、タルコフスキーなんかその代表格ですけどソ連映画もこういうところがあるので社会主義っぽさとか唯物史観っぽさってことなんでしょうけど、中国映画の中では目に見える風景はそのまま真実になり心になるんです(絶賛公開中の中国ノワール『鵞鳥湖の夜』なんかはその典型じゃなかろうか)

欧米はやっぱそうじゃないわけじゃないですか。目に見える風景の下にある意味を探ろうとするし、その目に見えないものこそ真実だと考える。だから風景は心にはならないし、目に見えないものを捉えることのできる論理・言葉が心になるので論理のゲームとしての対話とかは非常に重視されますけれども、翻って『羅小黒戦記』を考えてみると、シャオヘイは自分に風景を与えてくれたフーシーをただ風景をくれたというだけで言葉もろくに交わさず信頼するし、ムゲンさまがシャオヘイの信頼を勝ち取るためになにをするかというと、これも話なんかろくすっぽせずに人間世界の風景をひたすら見せて回る。で、その風景はそのままシャオヘイの心になり真実になり、あるいは正しさになるんです。

それが元からあったものだろうが後から人工的に作られたものだろうが一度風景として存在さえしてしまえばそれは心にさえなってしまうのだから、これは見方によっては怖い考え方だけれども、まぁそれを言うなら目に見える風景を「真実」の言葉で覆そうとする欧米流の考え方だって同じくらい怖い、というのはアメリカ大統領選とそれに付随する陰謀論などを見ればわかりすぎるほどわかりますが…いやまぁそれはいいとして。

そういう、現実に対する考え方の欧米との決定的な違い。それが『羅小黒戦記』の非論理的・非直線的なストーリーテリングには表われているように見えたし、なまじ非中国的な要素で表面を固めているものだからの対比的に浮かび上がって、うぅむなるほどと唸らされたというお話。

目に見えるものが全てであるからたとえそれが現実の論理に反していても必要ならば全て描いて作ってしまえというようなアニメーションの表現形式はこういう思考の在り方にはピッタリ合う。もう充分『羅小黒戦記』面白かったー! で盛り上がりたい人に水を差していると思うが、どうせだからとどめにもうひと差ししておくと、一応これは自然と文明の相克の話なので、開発を進めて土地を人間の都市の風景で覆っちゃえば結局それが正義なんだよっていう残酷を、アニメーションの表現形式自体が孕んでいる、ということぐらいは意識して見た方がいいんじゃないのとか思います。

マイノリティたる自然の代弁者に対するマジョリティ側の人間ムゲンさまの容赦のなさは、(中国に限らず)現実世界で進行中の様々な残酷な出来事と照らし合わせるときに、必ずしも気持ちよく消費できるものではないと思うので。でもだからこそ、その諦観も含めて反乱者フーシーが最後に咲かせた一花は美しいのですが。

※とここまで書いたところでほぼほぼ内容に触れてない単なる俺の脳みその開陳でしかないことに気付いてしまったので内容についての感想を付け足しておくと、これはあれっすねたとえば『もののけ姫』だったり『AKIRA』だったり『犬夜叉』だったり人によって色々違うものを連想する映画だと思うのですが、俺は『幽遊白書』の仙水編(蟲寄市)とか『HUNTER×HUNTER』のヨークシンシティ編を思い出しました。能力バトル×都市バトル×集団バトルっていうこのお子様ランチみたいな全載せ感。さすがに興奮しましたよ地下鉄以降のバトル展開には。そこに行き着くまでの風景を見せるためのロードムービーパートが長いのでそれも現代中国の色んな顔が見れて面白かったんですが、もうちょっと都市バトルの方に時間割いて欲しかったよな~とかは思いましたね。あと自然風景がミュシャ的で良し。

※※キャラクターについて言うと主人公のシャオヘイはまん丸子猫形態と猫耳ショタ形態(+怪物形態)を使い分けてやがって実にあざとい。そんなものは可愛いに決まっているし、達観している風のわりには食い逃げの常習犯とかいう微妙に隙ありクールなムゲンさまとの師弟っぷりも武侠ものとかカンフーものでお馴染みのあれという感じで心地よし。しかしいちばんはやはりみんな大好きナタくんだ。ファッションセンス抜群登場タイミングも抜群。かわいいしかっこいいし強いしでもちょい天然だしナタくんは最高です。最高なのであの出オチ的な使い方はないだろ。ナタくんでスピンオフ作ってくれ。

【ママー!これ買ってー!】


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こっちは実写ですが内容的にはそれなりに『羅小黒戦記』と被るところもあるロシア発の妖怪大戦争映画。これも地味に都市バトルの映画だし地下鉄の攻防も一応出てくるので影響あるんじゃないだろうか。シャオヘイみたいな愛でキャラはロシア映画なので一切出てきませんが。

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匿名さん
匿名さん
2020年11月18日 9:24 AM

記事とは関係ない話になるのですが、来年の映画ドラえもんについてどう思います?

booby
booby
2020年12月3日 10:57 AM

お邪魔します。私が本作で最後まで気になったのはこの主人公シャオヘイ君が極端な立場の人からの情報しか与えられず、彼が一人だけで、フラットな立ち位置で事件や状況、ファクトに接していないまま、最終的な価値の判断をしていたことでした。分かり易く言うと無垢な子供を、立場の異なる大人二人が「言葉だけ」で言うこと聞かせようとしている様に見えてしまい、後半は居心地悪かったです。本作はエンタメ指向、ハイコンセプトの成長劇ですから、主人公には二つの立場をもっと相対化して俯瞰させた上で判断させるべきではなかったか、と思いましたです(それには子供過ぎるだろ、と言う意見も御座いましょうが)。