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前になんかのトーク番組で肥後克広と上島竜兵がなんで寺門ジモンは竜平会のメンバーじゃないんですかみたいな番組ホストの問いにあいつ絡みにくいんだよと苦笑いしながら答えていたが、これはテレビ向けのオモシロ回答の面もあるとしても、実際ジモン絡みにくいんだろうな~っていうのは寺門ジモン初監督作品『フード・ラック!』を観るとなんとなく察せられます。
だって噛み合ってないんだもん会話とか。取材のために訪れた焼肉店で人気美食タレント古山(松尾諭)と『美味しんぼ』的な焼肉論争を始めた主人公のグルメライター佐藤(EXILE NAOTO)がメニューには黒毛和牛って書いてあるのに出てきたのUSビーフじゃねぇかと難癖をつけると古山はメニューの注意書きを指差し「確保できない場合はUSビーフになると書いてある」と指摘するのだがそれに対する佐藤の反論、「じゃあ網はどうなんですか!」
いや話を聞けや。わかるよわかりますよ肉だけじゃなくて網だって焼肉を美味しく食べるに重要な要素であることはわかりますがっていうかわかっていませんでしたが佐藤さんの口を借りたジモンのイタコ的焼肉ウンチクを聞いてよくわかったんですがそれとお前がメニューの注意書きをよく見てなかった問題は別だろ。なにナチュラルに論点をずらしているんだよ。絡みにくいわーこれは絡みにくいわー。ジモン面倒臭いっすわー。
でもそういうズレた人だからこそ面白いっていうのはありますよね。もうね、なんなら予告編とかに出てくる「寺門ジモン初監督作品」っていうテロップが既にちょっと面白いですから。「初監督作品」って普通「北野武初監督作品」とか「桑田佳祐初監督作品」とかちゃんとした人に付けるやつじゃないですか。その枠にジモン入っちゃうんだっていうこのズレ。しかも題材が焼肉。世に様々な「初監督作品」あれど一番くだらない類いの「初監督作品」じゃないですかこれは。いや本人は大真面目だからくだらないとか言ってはいけませんが。
まーなので映画として完成度が高いとかそういうわけではないんです。むしろヘッポコ映画寄りと言えばヘッポコ映画寄り、でもガチのヘッポコ映画ではなくてそこそこちゃんと撮れてはいて、そこそこちゃんと撮れてはいるんだけれども上に挙げた会話みたいに所々で微妙にズレているっていう…案外狙って出すのは難しい絶妙なラインのオフビート感があって妙に面白かった、というお話。
俺の中ではこういう微妙なオフビート感ってイタリアン・ホラーと通じたりするのでイタホラっぽいなぁとか思いながら観てました。イタホラは娯楽映画職人が金以外の目的など一切なくきわめて適当に作っていながらもその作品の端々で芸術的センスが爆発しているという感じなので本気で作っているのに所々で天然的に外してしまうジモン演出の真逆ではありますが、共通する要素はそれなりに多い。
たとえば、たまに忘れられる設定とか。主人公の佐藤さんは母親(りょう)から食の英才教育を受けていたのでご飯を食べる前には必ず手を合わせて「いただきます」を言う人として登場するがたまにいただきますナシで普通に食ってしまいます。たとえば、シーン替わりにたまにインサートされる焼肉映像とか。ワイプの代わりに焼肉映像で場面転換をする映画として全編それで貫けば一つのスタイルだがたまにしか挿入されないのでどういう感情で受け止めればいいのかよくわからない。たとえば、今の心情を大声で言葉に出してしまうので内容は真面目でもバカっぽくなる台詞とか、たとえば、イイ話的なシーンで唐突に絡んできて誰もツッコまない焼肉屋のモブ客の存在とか、たとえば、ストーリーの目的が曖昧でどこに向かっているのかよくわからず焼肉の話かと思ったらいつのまにかぬか漬けの話になってる混乱気味の展開とか…たとえばが多くない?
でも食通ジモン拘りの料理ショットの数々は正攻法にして本格派、脇を固める意外に豪華な共演陣はみな的確な配役と安定の芝居で劇団出身ジモンの確かな演出力を感じたりもする。この不安定さ、アンバランスさ。ウンベルト・レンツィみたいな演出は手堅いが手を抜くところはちゃんと抜くし微妙にネタがバカっぽいイタホラ職人にグルメ映画を撮らせたら結構こんな感じになるんじゃないだろうか。と書いたところで伝わる人はかなり限定的だと思うが。
映画のストーリーは食運者の佐藤さんと編集者の竹中さんが「本物」の名店だけを覆面取材で探し出して名店キュレーションサイトを作ろうとするというもので、そこに佐藤さんの過去と隠れた名店たちの意外な繋がりや、仇敵古山との因縁が絡んでくる(その繋がりを呼び寄せたのが佐藤さんの食運ということなのだろうと思うが、ここらへん説明不足でよくわからない感じである)。
ジモンが原作も書いてるならまぁこんなもんだろうと納得してしまう破綻スレスレ具合であるがお話自体がつまらないわけではないので、もっと整理してストーリーラインを明瞭にするとか、土屋太鳳演じる新人編集者の竹中と佐藤の関係性を掘り下げるとか、佐藤と古山の食通対決をクライマックスに持ってくるとか…まぁそうすると『美味しんぼ』そのものになってしまうわけだが…そこは類希なる食嗅覚で口コミサイトなんかに頼らなくてもちょっと歩くだけで隠れ名店を発見してしまう佐藤の「食運」能力で差別化するとか、まぁいろいろやりようはあるわけですから、そのへんを煮詰めていれば結構ユニークな食もの邦画の佳作になったかもしれない。
とはいえ、そうなったらなったで普通の映画になっちゃってつまんないかもしれないので、やっぱこの微妙なズレと主に説明不足に起因する小さな混乱の連続、そして少し油断するとすぐ始まってしまうジモンのそんなに深くない焼肉ウンチクと焼肉業界の流行批判が醸し出す謎の味わいを楽しむのがいいんだろう。寺門ジモン初監督作品、珍味でした。
※ちなみに俳優陣でいちばん良かったのは客への要求無駄に多い系焼肉屋の白龍です。『ドクター・デスの遺産』にも出ていた石黒賢はこっちにも出ていてなんだか爆弾案件邦画を率先して処理するハートロッカーみたいに。あと土屋太鳳はダブル主演といってよいポジションなのにキャラの魅力が薄く扱いも雑で、なんかそこらへんにもジモンの面倒臭さ出てました(そんな中でも可能な限り芝居で魅せようとする土屋太鳳はえらい)
【ママー!これ買ってー!】
寺門ジモンa.k.a.ネイチャージモン監修の毎月違う肉が出てくるカレンダーだそうです。不明需要。