《推定睡眠時間:60分》
どうせいっちゅーのよ。これは。なんかマイケル・ファスベンダーとかライアン・ゴズリングとかルーニー・マーラとか流行の俳優呼んで撮影監督エマニュエル・ルベツキにPVみたいの撮らせたかったってこと? プロダクション・デザインがジャック・フィスク。これまた豪華な。豪華なというか、お馴染みのというか。パティ・スミス、イギー・ポップ、ジョン・ライドンなんかも出てたらしいよ今キャスト確認したら。そうですか。それはすごいな。すごいが…。
いや俺はテレンス・マリックの『聖杯たちの騎士』路線の映画は基本的に全然おもしろくないので。これはもう寝たとか寝てないとか関係ないので。なに? みたいな。若手スタアの動くフォトブックとしては最高かもしれないけれども。いや、マジでなんなんすかね。どういうつもりなのかな。テレンス・マリックぐらいのビッグネームならまぁよほど金のかかる映画じゃなかったらフリーハンドで撮れるのかもしれないが…誰か、なんか言わなかったの? って風には最近のマリック映画観てていつも思うよ。ここはもうちょっとテンポを落してでもストーリーをちゃんと語った方がいいんじゃないすかね~とか。もう一捻りあった方が面白いんじゃないすかね~とか。そういうことでもないのかもしれないけどさ。
だって映像詩としてもどうなのって思いませんか? 別に同調はいらないんだ、同調を求めたくなるほどに…ということだけ伝わればいい。過剰なんだよモノローグが。ポエトリーリーディングみたいな感じでとにかく語る。ひたすらうるさい。本当マリックどうなっちゃったんだろって思うんですよ。作風の変化といったらそれまでだけれども『地獄の逃避行』とか『天国の日々』は明らかにそうではなかったじゃないですか。
あのアメリカ荒野の大いなる沈黙こそマリック映画の美しさのコアだと思っていたので…モノローグ以外の台詞が極端に少ないという意味でこれも沈黙を撮った映画と言えるけれども、そのモノローグはなんなんだよっていう。ストーリー的なものを全部モノローグで語らせてその後ろに流れるのはずっとイメージ映像みたいなやつっていう。バカなんじゃないかって思うよそれは。バカじゃなかったら単なる手抜きだし、もうマトモに映画撮る気なんかないだろって気がしてくるじゃないの。『ツリー・オブ・ライフ』からその傾向は既にあったとはいえ…。
逆にモノローグが一切なかったら俺この映画結構面白く観れたと思いますよ。むしろ全然好きな映画になってたんじゃないかってぐらいで。今年公開されたもう一本のマリック映画『名もなき生涯』なんかは沈黙を見せる映画だったので(文句は山ほどあるけれども)かなり良かったですしね。でもだから、自分の作った映画が人にどう見えるかとか本当にどうでもいいんだと思いますよ今のマリック。マリックのネームバリューがありゃノーギャラでも出たいって役者いっぱいいますから。基本的に手持ちカメラでホームビデオ的に撮るからルベツキも呼べば来るわけですよ。ああいいよっつって。週末にみんなで集まって撮る自主映画のノリで。
でろくな脚本もなくみんなでこういうことしたら面白いなとかそのアングルいいね~とかわいわい言いながら(かどうかは知らないが)撮って解散ですよ。また良いロケ地見つかったら呼ぶからね~みたいな。本当そういう感じなんですよ。そうとしか思えない。モノローグだってあれ後から適当にストーリー入れるために付け足したやつだろたぶん。それぐらいでいいよっていう映画なんですよ。そしたらもうこっちだってならいいよって言うしかないじゃん。
こんなのマトモに論評する人もいるんだから偉いよな。俺はただもうセレブのホームビデオ見せられてる気分にしかなれなかったので良いも悪いもないですよ。まぁ面白くなかったから悪い方に入るのかもしれませんが。でもその悪さもしょせん金のかかったホームビデオって思うと虚しくなるよな。作ってる方が「面白くするぞ~カッコよくするぞ~」とか考えて作ってる映画に対しては悪口だって言い甲斐があるってもんじゃないですか。
これはそういう映画じゃないもんな。他人のホームビデオなんか部外者にはつまんないのが当たり前だからつまんねぇって言ったところで逆に何言ってんだこいつみたいな。こっちがバカみたいになるじゃん。ストーリーがどうとか言ったところでさ…だって作ってる方はストーリー撮ろうとしてるんじゃないだもん。イイ絵が撮りたいっていうだけなんだもん。それならそれで絵だけ並べてくれればいいのに一応モノローグで説明しとくかって感じだから美学もないんだよ。
なんかまぁ絵はキレイでよかったんじゃないすか。あと俳優の人たちもみんなキレイですしカッコイイですしよかったんじゃないすか。映画館で観るもんじゃないね。マリックの家にみんなで集まって焼酎とか飲みながら適当に観るやつ。マリックに感想聞かれたら「よかったっすね」ってだけ答えて別の話を振るやつ。そういう映画。マリックの家に焼酎があるかどうかは知らないが…。
【ママー!これ買ってー!】
あれほど才能豊かな映像詩人であったテレンス・マリックも蛇に唆されたのか天国の日々から追放され凡夫に堕ちました。逆に今の方が好き勝手にやってるので本人的には天国の日々の可能性もありますが。