女筋爆発映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』感想文

《推定睡眠時間:10分》

『バイオハザード:ザ・ファイナル』の撮影時の事故でスタントウーマンが片腕を失う重傷を負って制作会社と係争中、というニュースが少し前にあったので実写映画版『バイオハザード』シリーズの総監督ポール・W・S・アンダーソンと主演ミラ・ジョヴォヴィッチの夫婦コンビ作になるこちらも実写映画版の『モンスターハンター』公開を間近に控えたこのタイミングでの公開、スタントウーマンが法廷闘争に打って出た別の事故事例も何件か紹介されていたし、しかもナビゲイターを務めるのは『バイオハザード』で名を上げたミシェル・ロドリゲス…とくれば『ザ・ファイナル』制作陣への当てこすりというか原告スタントウーマン支援の意図はやっぱあるんだろう。

あの裁判いまどんな感じになってんすかね。直接例の裁判に言及されることは俺が起きている間はなかったと思うが寝ていたラスト約10分の間に最新情報とか関係者コメントとか出てきてたりしたんだろうか。たくさん引用される色んな映画のスタントシーン映像の中に『バイオハザード:ザ・ファイナル』のものもあったらしいことがエンドロールでわかったので、今もこういう裁判やってまして云々とサポートメッセージぐらいは最後の方にちょこっとでも出たんじゃないかと思うが…なんか、変なところで寝たことを悔やむ映画になってしまった。

『ザ・ファイナル』裁判支援の制作意図を思えばさておきではないのだが事故の詳細とかよくわかんないしこれ以上俺が言えることもないのでそれはさておき、スタントマンならぬスタントウーマンのお仕事っぷりを紹介するナビゲーション系ドキュメンタリー映画がこの『スタントウーマン』。そうかースタントマンスタントマンって今まで当たり前のように言ってましたがスタントをする女の人がいればその人はスタントマンじゃなくてスタントウーマンですよねー。ビジネスマンというのも最近は廃れてきて男女兼用のビジネスパーソンという言葉が一般的になってきたのでそのうちスタントマン/スタントウーマンもスタントパーソンとかに統合されるかもしんないすねー。

ハリウッドでの男女俳優ギャラ格差はmetoo運動の時によく喧伝されたものですが俳優に格差があるならスタントだって格差あるだろというわけでそもそもスタントウーマンの言葉が一般的ではなくスタントといえばマンを連想してしまう時点で格差はバリなわけです。当然これは実態を反映してない。別に主役じゃなくても女優の人が出てくるジャンル映画なら大抵の場合は女性スタント必須。じゃあそこにスポットライトを当てて格差是正しようじゃないの、というわけです。

と、そのような社会派的な映画であることはわかるのだがしかしもうそんなことはどうでもよくなってしまうね。基本的にシックスパックのスタントウーマンがずらずら出てきてそのトレーニング風景なんかが映し出されるわけですからパラダイスでしかないでしょ。僕大好きですから。筋肉の女の人大好き。ノースリーブのスポーツウェア大好き。これはせめぎ合うよね。この筋肉に殴られたいと守られたいがせめぎ合います。どっちもされたいですよね。どっちもあるからいいんじゃないですか。自分は殴ってくるのに他人の暴力からは守ってくれる。お前を殴っていいのは私だけだという存在の暴力独占。これが愛じゃなかったらなにが愛なんですか!?

そんな映画ではないしトレーニングとか新撮スタントよりもインタビューが中心なのであるが筋肉バキバキで勇猛果敢な戦闘系ウーマンとはなああああんと魅力的なんでしょうというフェチの部分が勝ってしまいますよやはり。タランティーノが『デスプルーフ』のラストをスタントウーマン連中が殺人鬼をタコ殴りにする場面にしたのもわかるよな。こんな人たちを現場で見てたら「殴られたい! 蹴られたい!」って思って当たり前。

『ワンダーウーマン』とか『キャプテン・マーベル』に足りなかったものがあるとすればこれだろうと思ったね。女は愛嬌男は度胸的な絶滅慣用句もあるが今の時代の女に必要なのは愛嬌でも美貌でもなく筋力。『ワンダーウーマン』が不満なのはガル・ガドットの美貌を推しているからで俺としてはそんなものはどうでもいいからもっと筋力と実践的な格闘技術をつけるべきだろと思う。『キャプテン・マーベル』はその意味ではちゃんとしていてよかった。が、ちゃんとしていたと言っても見た目レベルでのことですから、その中身であり実際のアクションシーンを担うところのスタントウーマン(どっちの映画のスタントを担当したスタントウーマンも出てくる)が出てきたらですね、そりゃもうそっちの方が魅力的なわけです。

映画はみんなが知るあんな映画こんな映画のアクションシーンを適宜引用しながらスタントウーマンの(ハリウッドの)歴史をざっとおさらい、その素顔や具体的なお仕事内容を紹介しながらキャリアパスも描き出して、さながら観る『13歳からのハローワーク』スタントウーマン編といった趣。これからスタント業界に入ろうという人には大いに参考になるだろうし、入りたくない人でも憧れのシックスパックを目指す良い発奮材料になるだろう。映画館のロビーに女の人専用のトレーニングマシンとか置いといてほしい。コンセッションのドリンクに女の人は100円のプロテインを追加してほしい。

ああ、かっこいいなぁスタントウーマン。恋愛の話とか子供の話がほぼほぼ出てこないのもすごく良いですよね。あの人たちは戦士なんだからそんな話はどうでもいいのだ(とはいえ子供ができたらどうする的な話も出てくる)。住宅街でも子供と一緒にカースタント。念願のスタント成功でファックシットの大連発。一人のスタントウーマンが使い古したヒザ・ヒジ当てパッドを見せてくれる場面には下着を見せてくれるよりも興奮してしまう。あの汗の臭い! なんかそこまで言うと違う話になってこないかという気がしたのでここらで感想やめますけれどもこの映画を観た後に『ヒッチャー』のリバイバル上映を観に行ったらカーアクションシーンがスタントの視点から見えてきたりもして、そういう意味でも面白い非常にね、非常によい映画でしたから映画好きと筋肉憧れ女子と女の人の筋肉にぶん殴られたい男子は映画館に全員集合!

※あとオモシロポイントとしてはスタント事故映像がいくつか出てきてそれが結構知ってるやつ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の未来のビフがホバーボードでマーティを追いかけ回す場面でビフの仲間(女)が柱に激突しているのはリアル事故なんだとか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』クラスの大作でもそんな事故が起こるのなら『ザ・ファイナル』で事故が起こるのもむべなるかなというか、表にあまり出ないだけで普段われわれが観てるハリウッド大作なんか大なり小なりスタントマン/スタントウーマンの怪我の上に成り立ってるんだなぁとか思った。あるスタントウーマンはスタントマン/スタントウーマンは三つのプランを持っていると語る。一つ目は監督のやりたいスタントプラン、二つ目は自分のやりたいスタントプラン、三つ目は危険だからできないスタントプラン。恐怖を感じなくなったら危ないという経験に裏打ちされた証言も出てくるが、絶え間ない研鑽と厳しい自己管理・判断の求められるスタントマン/スタントウーマンとは本当に大変なお仕事である。

※口語調をとった日本語字幕は「ウーマン」を強調するために「~わね」「~なのよ」みたいな女言葉が使われるのですが、内容に鑑みればわざわざ女言葉にする必要はなかったんじゃないかと思う。

【ママー!これ買ってー!】


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そんな好きな映画ではなかったが『スタントウーマン』を観た今なら前より面白く観られそう。

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2021年1月11日 1:55 PM

さわださんなら絶対見に行かれるだろうと思いました。楽しまれて何よりです。