《推定睡眠時間:20分》
いやいいいい、いいからもう早く樹海行けや。いいから。もろもろ。そこ別に気になってないし。そこはいいから。早く。とにかく早く樹海に。これはもう一刻も早く…樹海に! 樹海に行ってもらわないとこれは! これは!! だって『樹海村』ってタイトルなのに上映時間の体感8割はネット怪談「コトリバコ」にまつわる怪奇現象とかおかしくないですかっ!!!
いや行くんだけどさ。映画始まってすぐ行くんですよなんかPOVスタイルで、生主的な女が心霊スポット配信してる。もちろんこの女生主には怖いことが起こってそれきっかけで常連視聴者たちが俺たちもあそこ行ってみようぜって集まる、その中に姉夫婦の家かなんかの床下でコトリバコを見つけて呪われちゃった主人公も混ざっており…という感じで進むので樹海が添え物という感じでは別にないのだが、樹海で死にきれなかった人が住んでいるという「樹海村」に踏み込むのがラスト10分とかなのでそんなに引っ張んなくても~とは思うじゃない。
これ作りが同じなんですよ同じ監督・清水崇の『犬鳴村』と。村自体は序盤とラストにしか出てこなくてその間を村由来の怪奇現象で繋ぐみたいな。『犬鳴村』も女生主が心霊スポット探検企画をネットで配信してる場面から始まるわけだからそこも同じだよね。でストーリーの方もですね、まぁこれはネタバレっぽくなってしまうからあれですけれども…どうでもいいか。なんかとにかくね、そこもだいたい同じ。なんとなく同じ。
詳しくチェックしたわけじゃないですけど監督だけじゃなくて脚本の人も『犬鳴村』と同じみたいだからメインスタッフも共通してるんじゃないだろうか。姉妹編というかシリーズ企画というかなんでしょうが…いやでもシリーズ企画だからって構成まで似せる必要は別になくない!? 手抜きだとは別に思わないけどさ、でも何が面白いと思ってこんな同じようなの作ってるんだよっていう…だってそれは仮に『犬鳴村』超おもしれーって感じた人が『犬鳴村』超おもしろかったから姉妹編の『樹海村』も観よーってなったとしたら逆にガッカリするポイントじゃん、同じじゃねぇかって。
謎ですよね。樹海村にもコトリバコにも謎は多いですがそれ以上になんでこんな映画が作られたのかっていうのが謎。別につまんなくはないですよつまんなくはなかったですけどただその謎の印象がオモシロの印象に勝っちゃってたからね。オモシロの印象って言っても怖い印象じゃなくて特撮系のというか…まぁ『犬鳴村』を観た人ならなんとなくわかるでしょうが…ああいうのが今回も、あるんです。
作りはよく似ているが全体の完成度で言えば『犬鳴村』よりもこちらの方が高かったように思う。同じような作りとはいえシナリオもこっちのが断然良かったですしね。ただなんでしょううーん観てて楽しかったのは僅差で『犬鳴村』の方かなぁ。完成度が高けりゃ楽しいってわけじゃないですしましてや怖いわけでもないですからね。『犬鳴村』と『樹海村』はどっちも別に怖くはないんですけど。
要はちゃんとしてるんです。家のシーンが『犬鳴村』より多かったからかな。『呪怨』の清水崇なのでやっぱ家の怖さ気持ち悪さを撮らせると強い。鬱蒼とした樹海の空気に合わせて終始陰気なトーンが画面を支配するが(主人公も精神が脆くて鬱々としている)、その統一性というのがどちらかと言えば演出的にも展開的にも場当たり的だった『犬鳴村』よりも映画としてよくできてる感を醸し出しているわけです。
でもぶっちゃけそのおかげで眠かったね。なんか、あんまお化け出ねぇし。『犬鳴村』はわりと出し惜しみせずお化け群団投入してたからな。出過ぎて全然怖くない問題が発生していたことは確かだが、怖くなくてもお化けがいるととりあえず嬉しい。どうせ怖くないならせめてお化けぐらいたくさん出してくれた方が…というのも本音。ムード的には不気味でいいんですけどね『樹海村』も。肝心の樹海村本体がお化けコントみたいなビジュアルでさえなければ結構怖い映画だったかもしれない。
そこらへんは怖いとか怖くないとか以前にそもそも怖がらせようとしていないとしか思えないのだが、なんかですね、お化けっていうよりゾンビっていうか、ゾンビっていうより『九十九本目の生娘』の部落オババみたいな…急にたとえが映画樹海の深部に迷い込んでいるがいやでもマジで『九十九本目の生娘』の部落オババみたいなやつがたくさんいるんだよこの樹海村。主人公が交際経験とかなさそうな若い女だし『九十九本目の木娘』ってか! 実際にそういう意図だったらどうしよう(動揺)
で、しかも、そいつらが、木。そいつら木なんです。木…? 木は木なんだからしょうがない。自殺しに行って死にきれずに村作ったぐらいだからなんか樹海の森に怨念吸われて木になってしまったんだろう。なにを書いているかよくわからないがお化けにはお化けのルールがある。までもその表現がね、みどころ。すごいんだよ呪いアイテムを手榴弾みたいに投げるとその呪いアイテムがぶくぶく膨れて木人間が出来上がって襲いかかってくるの。でも木だからちょっと歩いただけでその場に根付いちゃうんだよね、木だから。で木人間と木人間が合体して巨木人間になったりする。
こう書くとバカっぽいが樹海に囚われた思念の表現としてなかなか面白い。出ようとしても出られないんだよね、もう木になっちゃったから。それで通りかかった人とかをお前も養分になれ接ぎ木しろってことで引きずり込むんだな。樹海こえー。この木人間を作ったのが特殊メイクアップ・アーティストの百武朋で、VFXはまた別の人(鹿角剛)なんですけれどもVFXともども良い仕事、怖くはないがたとえば『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドを思わせるような造形と挙動で、ちょっと能力バトル展開とかが観たくなってしまう。
残念ながらこれはシリアスホラーなのでバトル展開にはなってくれないのだが、どうせ怖くないのでいっそのこと吹っ切れて木人間をバッサバッサと伐採していくラストが観たかったなぁとか、なんかそんな感じですね、俺の『樹海村』感想。
※最初に出てくる生配信画面のコメントの流れはわりとありそうな感じでちょっと面白かった。いきなり英語のコメントが投下されて他のユーザーが「外人は草」みたいな。あとこの配信常連ユーザーの中に「ド腐れゾンビ」っていうハンネ(って今言うの?)の人がいて時期的にどうしても「共食いゾンビ」を思い出してしまうので完全に作り手の想定外のオモシロが期間限定で発生していた。
【ママー!これ買ってー!】
木が襲ってくる映画にもいろいろあるが巨匠ウィリアム・フリードキンのB級木ホラー『ガーディアン』は面白いのに不遇な扱いを受けている気がするのでこの場で推しておきたい。