《推定睡眠時間:0分》
「ラスト20分、想像を絶する衝撃のエンドロールが始まる」との煽り文句ですが確かに今まで観たことがないかもしれない想像の外から来るエンドロールなのであった。まさか最後がdTVのムービングロゴとはね。しかもクレジットが終わると「この話には続きがあった…」とかナレーションが入ると同時にdTVで放送予定のスピンオフドラマの告知が1分くらい流れてそこからの元気いっぱいな「dTV!」で場内照明点灯ですからね。いや余韻もなにもないな!
う~ん確かに想定外のエンドロールだったけど衝撃のエンドロールってそういうことかなあ? っていうかラスト20分はエンドロールじゃなくてクライマックスだろ。ラスト20分がエンドロールだったらたぶんそれ『スターウォーズ』の最後のやつより長いぞ。もうそういうこと真顔で書いてしまうからこっちも、そっちがルール無用の乱闘に持ち込むつもりなら。もちろんそんなつもりは微塵もなくなんかうまいことを言った感を出したかっただけの煽り文句であることはこちらも承知しているがその無意味さな薄っぺらさをあえて指摘しないで同じ土俵に降りてプロレス的文句を吹っかけるだけの矜持があるからね俺にも、映画趣味者として。まぁ、結局指摘してるけどね!
っていう『名も無き世界のエンドロール』ですよ。別に何も「っていう」ではないんですけど配給の人ががんばって考えた煽り文句を「案外普通のオチだったね」的な感じでスルーするのもどうかなって思ったからね。そこはやっぱ乗っとかないとみたいな。っていうか乗らなかったら案外普通のオチですからね。別にびっくりするようなどんでん返しとかないから。あーそうだったのねーぐらいな感じで。完全に煽り負けだろうこれ。
いやそれまではいいんですよ。オチに至るまでのストーリーテリングは丁寧でミスリードもなかなか巧いので俺みたいなミステリー思考力がゼロな人間はまんまと誘導されちゃったね。だけどそこからオチに入るとそれが普通なのでなんでそこ推したんだよっていう…これはミステリー映画にどんでん返しばかりを求める客も悪いしどんでん返しさえ付けときゃ売れるだろ的な仮に統計に基づくものだとしても安易な発想を採用する宣伝の方も悪いだろ。
現代のメジャー邦画としては珍しい部類のオチではあったけれどもさ。それにしてもその広く映画一般として見れば普通としか言いようがないオチが珍しく映ってかつその普通レベルのオチでさえスピンオフに繋ぐことでなんとか許されているようなメジャー邦画の環境よ。どうなんですかそれは。なんか…大変ですね! いや~メジャー邦画作ってる人たちとか宣伝してる人たちって大変なんすね~。平和主義者だから喧嘩は売らないでそういうのに逃げます。
まぁでも本当大変なんだと思いますよ。その大変さが画面に出ちゃったらおしまいじゃん的なところもあるんですけど車がさ、これダブル主人公の岩田剛典くんと新田真剣佑が自動車整備工のキャラ設定ですから田舎の整備工場に事故車が持ち込まれるところからお話が動き出すんですけど、その事故車を「この高級車ですと」とか「さっきの高級車」とかって言うんですよね。あれがどこのメーカーのなんていう車か俺知りませんけど事故車だからブランド名が出せない。
苦しいなぁって思いましたよ。そこは直接「高級車」っていう代名詞を出さないで言葉の綾で回避する術もあるだろうし、それっぽい感じの映画オリジナル車ブランドをでっち上げてもいいし、なんならジェスチャー付きの「あれ」とか「それ」でもまぁ自然な感じで伝わるだろって思いますけど、でもそれよりわかりやすさっていうのをたぶん取ってるんですよね。「あれ」とか「それ」で伝わらない勘の鈍い人にも「高級車」って名指せばその台詞で言及されているものが何かっていうのはさすがに伝わるわけじゃないですか、基本的には。
で、これが台詞だけじゃなくて映画全体がそういう論理で作られているわけですよ。これ、苦しいでしょう。スピンオフドラマを前提にっていうかなんなら映画から作品に入ってもらってある意味本編のスピンオフドラマの方こそ見てもらいたい…みたいなお金を出す側の狙いはあるでしょうから、そこに合わせる形でわかりやすさっていうのもテレビドラマ基準なんですよね。日本のテレビドラマってとにかく全年齢対象で誰にでもわかりやすいじゃないですか。それが批判されたりもするぐらいで。
そう考えるとこのわかりやすさ縛りの中で「あ、そっち行くんだー」ってちょっと人を驚かせるようなミステリーをちゃんと成立させたっていうのは結構すごいことですよ。設定もなんか…裏の仕事がどうとかちょっとバカっぽいやつで。「そいつは裏社会に精通している」みたいな台詞とか一歩間違えばギャグじゃないですか。岩田剛典くんがその裏社会に精通している人物の下で働こうとして面接受けに行くと側近の男が拳銃突きつけてくるんですよ。そんな少年誌の漫画じゃねぇんだから…って思いますけどでもこれが、笑える感じにはならないんですよね。
透明感のある撮影にしてもベテラン勢のピンポイント助演を得ての主演二人の痛ましい演技にしてもクドいと言えばまぁクドいがサスペンスを醸成しつつ情報を的確に小出しにしてくる編集にしてもなかなか見せる。細かいところまで配慮の行き届いた映画という感じで、オチは普通というのはもう一度言っておくがかなり良質のやるせない系ミステリー、調子の悪い時だったら一カ所ぐらいは涙腺を突破されていたかもしれないと思う程度にはよかったですね。
せっかく二人とも「終わった人」を見事に演じきったのに美形をテレビ的に際立たせるためか剛典くん真剣佑くんはメイク厚めでなにやら歌舞伎のようになってしまっているというのはまぁ、ご愛敬ということで…あぁ、そういうテレビっぽさを全部抜いちゃえばもっと映画として面白かったのになぁ! なんか、そういうあたりもやるせないわ。
【ママー!これ買ってー!】
スピンオフドラマがなくてこれ一本で物語が完結してたらあの普通のオチにもっとグッときてたんですけど原作はそこらへんどうなんすかね。