見せてくれなくていいよ映画『砕け散るところを見せてあげる』感想文

《推定睡眠時間:0分》

SABUの監督作をそんなの多く観ているわけではないので何がSABU的とかSABU的じゃないとかは具体的には知らないのだが大丈夫なのか。大丈夫なのかSABUこれ、大丈夫…なのか? たぶんなんだが俺的には大丈夫じゃないと思う。うーんなんでしょう、うーん別につまらなくはないけどうーん、砕け散ってない? SABUの才能が砕け散ってない? そこは…見せてくれなくてもいいんじゃないかなぁ? なにこの微妙な気遣い。

いやそのSABUの映画ってあくまで全般的な傾向としてだと思うんですけど意表を突く展開とかちょっと風刺の入ったギャグとかスピード感溢れる編集とかそういうのが特徴じゃないかなぁって思っていたのでこの映画それが全部なくて、まぁ意表を突く展開はあるんだがそれがもうかなり序盤の方で読めてしまうし…過酷なイジメのようなシリアスな描写と日常語のオフビート会話のちぐはぐな組み合わせは試みとしては面白いものの…フィックス多用の長回し気味の撮影・編集にプラスして劇伴が極端に少ないサントラ構成というのもあって…いくらか笑える場面はあるとしてもかなり全面的に笑えない…。

お話としては学園もので三年男子の中川大志が激しいイジメを受けている一年女子の石井杏奈をひょんなことから助ける羽目に。で段々ふたりは仲良くなっていくのですがその先には巨大UFOが待ち受けているのでした。ま実物より面白そうにあらすじを書いてみたので諸々はしょっているが別にいいだろう。実際はもっといろいろあったりします。

学園ものっていうんで高校生たちのやりとりが多くこれは良い。会話がオフビートなら存在もオフビートで教室の片隅の小さい帰宅部グループ(というほど強い結びつきもないので好きなときになんとなく集まる仲間ぐらいな感じ)がメイン被写体、そこに悲壮感とかルサンチマンはとくにないしいわゆるスクールカースト的なものからも外れていて、大きな幸せはないが大した不幸もない、主人公は男子だが男子高校生的なマチズモもないので恋愛とか蔑視が絡まないナチュラルな男女の友達づきあいがあって、ささやかな理想高校生活という感じ。

しかしストーリーの主軸は犯罪的なイジメ被害を受けている一年の石井杏奈である。石井杏奈ねー。いや俺は石井杏奈の演技は好きですけどこの映画のやけに間延びしたカッティングだと何を言っても全部スベってるように見えるんで…突飛なことを急に言い出す不思議系っていうキャラ設定がかなりキツかった。

それでその父親が堤真一です。堤真一もよかったんですけどね。よかったけどサプライズを狙ったのかキャラの扱いが雑なのでなにそれみたいな…そのくせ伏線の張り方が下手なのでまぁどうせこういうキャラなんでしょうねっていうのが出てきた段階ですでにわかってるからね。そうなるとサプライズもなにもないので単なる薄い人になる。

あと最後のダイジェスト展開あれなんですか。たとえばですけど『メッセージ』みたいな怒濤のラスト感を出したかったのかもしれないが音楽も編集も盛り上がりに欠く上に「UFO」とか「雨」とか「ヒーロー」とかっていうそれまで場当たり的に繰り出されていたように見えたモチーフの数々がその一カ所に収斂…されることはとくになく、バラバラなまま提示されるのでだからなにみたいな。盛り上がらない。とにかくここで盛り上がらない…。

なにがいけなかったのか。まぁ長さはやっぱりもうちょい短い方がよかったかもしれない。長回しの多用っぷりからするとそこで緊張感を高めたりとか永遠のようにも思える輝かしい青春のなんでもない1ページを演出しようとしたのかもしれないが、ガンガン切ってカットも割って勢い任せに進めた方がよかったんじゃないすかねこういう変調アリのサプライズ映画の場合は。ダラダラと話を進めると観てるこっちも冷静に台詞の意味とかを考える余裕ができちゃうのでこの先こうなるんだろうなとか思っちゃうんで。あとギャグも笑えなくなるし。内省的なモノローグも流れを停滞させるだけだ(と俺は思う)

なんなんかな、そこはなんか俺の作風よりも俳優さんたちの演技をしっかり撮るぞ! みたいなSABUの優しさ? とか意気込み? があったのかなぁ。でもそれで映画としてショボくなったら本末転倒じゃんね。いや別にショボいとまでは言わないし繰り返しにはなりますけど別につまんなくはないんですよつまんなくは。キャラクターは個性豊かで面白い、台詞回しも面白いしまぁストーリーも…ストーリーはそこまで面白いものではないが…とはいえ個々の描写は気合いが入っているのでチープなものにはなってない。

だけどですねこれが127分も続くとどーしても! どーしても白けてくるんですってば! どうして劇伴をここまで抑えたのか(おそらく宇宙船の効果音の存在感を出すためだと思うのだが!)わからないんですがこうも静かにやられると笑えるものも笑えなくなるんですってば! だからね! なんか、よくわからん映画でしたよ。これ本当に完成版? ラフカットじゃなくて? みたいな。編集クレジットもSABUだったので不本意な編集ではないのだろうが…そうなるとますますわからなくなってくる。もうバラバラだ。観終わって砕け散ったのは俺のメンタルでした。

※中川大志のクール系同級生役の松井愛莉はたいへんよかった

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たぶん砕け散るところがたくさん見れると思います。

↓原作


砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

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