《推定睡眠時間:0分》
なんだか90年代のアメリカン・ファミリー・コメディのようでいやもちろん良い意味でなのだがあんま最近の映画っぽくない。お誕生日ホームパーティの光景なんかこういうのよく観たな~って感じです。なんかアメリカっぽいドタバタ展開になるんだよ。こんな他愛のない映画なのに結構派手にドタバタしてセット色々壊すのでアメリカ映画はえらい。
で物語は老ロバート・デ・ニーロがセルフレジの導入されたスーパーで暴れるところから始まります。年寄りともなると傲慢になるし短気になるし新しいことが覚えられなくなりがちなのでセルフレジのカードスキャナーが何らかの理由でクレジットカードを読み取っていないらしい音を発しているが知るかカード通したんだからそっちで勝手に会計してろってなもんで未会計の品物を堂々手に持って店を出たデ・ニーロは万引きのかどで店員さんに追われ確かにセルフレジは不親切だが店員を呼ぶボタンも基本的には付いてるし大体近くに店員さんいるんだからわからなかったら聞けばいいじゃないと思うのだが年寄りともなると自分の非を認められなくなるし無茶な主張を押し通そうとするし暴力的になるので店員さんにバイオレンスを放ってしまいます。
う~ん老GUY! でもデ・ニーロはギャングだからこれは老化現象というよりは平常運転なのかもしれないなって別にこの映画では元ギャング設定ではなくカタギなんだがそこはやっぱねちょいちょいセルフパロディっぽいの入れてくるんでギャング感出ます。孫から奪った部屋でシャンソンかなんかのレコードをかけながら安楽椅子に腰を下ろして感傷的に夕陽を眺める…ギャングじゃん。ほぼ『アイリッシュマン』じゃん。別にギャングじゃなくても黄昏れたりはするだろという気もするがひげ剃りネタも入ってくるのでデ・ニーロのひげ剃りといえばアル・カポネを演じた『アンタッチャブル』、やはり狙っている。『ミート・ザ・ペアレンツ』以降のデ・ニーロ出演コメディ、だいたいセルフパロディが入ってる説。
それでそんなデ・ニーロが例の万引き暴行事件を知った娘のユマ・サーマンにいやもう放っとけねぇからと同居を求められます。サーマン家はザ・WASP的なアメリカンハウスなので屋根裏部屋なら即日引っ越し可能という程度には余裕であったが高齢者に屋根裏部屋の階段はキツイしな、じゃあほら長男、お前今日から屋根裏部屋でそこ明日からおじいちゃんの部屋な。とこういうわけで部屋を奪われてしまったかわいそうな中一長男くんだったがその部屋はガキの分際で俺の住んでる安アパートの2.5倍ぐらいの広さを誇っていたのでとくにかわいそうになどならない。
ということがあってさ~と学校で仲良しキッズたちに愚痴った長男くんにお前が何を知ってるんだよとしかこちらとしては思えないが俺はわかってるぜ的な謎の自信が言動の端々からにじみ出る窓際ブレイン男子デブは戦争を提案する。合衆国憲法にはな、侵略されたら応戦していいって書いてあるんだぜ、第××条○○項。
かくして長男くんの『ホームアローン』の如し領土奪還作戦が始まりクッキーに歯磨き粉を混ぜたりベッドに大蛇を仕込んだりそこそこの殺意がデ・ニーロを襲うのであったがキャリア的にその程度の殺意にひるむデ・ニーロではないので長男部屋の家具を触ったら壊れるようにサイレント解体する、学校に持って行くバッグにチャックを開けたら爆発するよう細工する、などの…素人じゃないねそれね? なんか兵役経験のある人設定らしいです。『ディア・ハンター』でベトナム行ってるしな(その時の戦友クリストファー・ウォーケンも出演して対孫戦争に参戦、ってやっぱセルフパロディじゃないか!)
と書けば狂騒的スラップスティックに思われるかもしれないがスラップスティックなのは先に触れたホームパーティの場面ぐらいでノリとしては案外日常の延長、戦争メインの物語というよりも戦争を軸としてデ・ニーロとユマ・サーマンそしてサーマンの夫ロブ・リグル(5本に1本ほどのペースで父親役を演じる父親俳優である)のギクシャク関係が徐々にほぐれていく過程であるとか、サーマン家の長男くんのとくにドラマティックなことは起こらず恋愛とか喧嘩とかもない(上級生のイジメ絡みはある)のほほんとした中学生の日常が描かれたりする。ギクシャク関係が云々というのも家の中ではということで外に出ればデ・ニーロの方もウォーケンとチーチ・マリンと毎日遊んで過ごす老人中学生っぷりであった。
なので領土奪還作戦を通して長男くんが戦争の悲惨さを学んだりとか白々しい教訓も付いてくるがとくにシリアスになることもエキサイティングすることもなくちょっと変わった中流家庭のアメリカ白人+のユーモラスな日常がたのしいリラックスムードの映画って感じだったな。俺はもう映画老人なのでこういうゆるい映画はとてもよいんですよとても。すべての面で掘り下げが浅いが何事も深けりゃいいってものじゃないんです。浅さは個性。
デ・ニーロのセルパロとかウォーケンの変人芝居はいつもと同じなのでいつもと同じ程度の面白さだがユマ・サーマンのわりかし弾けたコメディアンっぷりはちょっと見物、長女の男友達をぶん殴って追い払おうとするとする武闘派ママも『キル・ビル』の人なので…という説得力で笑ってしまう。ロブ・リグルの安定の父親芝居も安定っぷりが逆に笑えたよな(義父のデ・ニーロに名前を間違えられた時の気まずい空気!)
長男くんの中学生友達の一人のアホキッズとかもキャラ立っててよかったですよ、基本アホで使えないが得意分野になると急にハイスペックを晒するのでびっくりしてしまった。ちなみにこの姉がまた暇を見つけては意地の悪い笑顔を浮かべてアホに嫌がらせをしにくる人で良いんです。良いよね。羨ましい。ドキドキしちゃう。こんな風に姉に嫌がらせされたいじゃないですか…嘘ですけどね。嘘じゃないが中学生設定のキャラゆえロリコン枠に入れられると何らかの支障が出るので嘘ということにします。いや、ロリコンとかそういうことじゃなくてさ、女の人から面白い実験動物みたいに扱われて笑顔で嫌がらせを受けるっていうシチュエーションなんですよ! 力説されても、と思われるかもしれないが…そんなことはいい!
えー、というわけで、ゆるくもおもしろい映画好きならニヤリポイントもたくさんの安心安全安定なファミリー・コメディが『グランパ・ウォーズ』なのでした。でもぶっちゃけデ・ニーロの嫌がらせよりも姉の嫌がらせが見たいので続編はデ・ニーロはいなくてもいいので『シスター・ウォーズ』でおねがいします。
【ママー!これ買ってー!】
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『グランパ・ウォーズ』はネズミが重要な役目を果たす映画でもあったのでクリストファー・ウォーケンが怪人ネズミ・ハンターを演じた『マウス・ハント』なども頭に浮かぶところではあるが。