《推定睡眠時間:15分》
俺が面白いなと思ったポイントを書くとこの映画とかガイ・リッチー作品が好きな人には悪口として読まれてしまいそうなんだがいや別に悪口とか皮肉っていうわけじゃなくて本当に単純にそこ面白いなって思ったんですよ。面白いなと思ったしそここの映画の結構本質的なところだと思うんですよね。つまり、イギリスっ子の排外主義。もう変な外国人とかめっちゃむかつく。ユダヤ人も中国人もロシア人も全部信じられないし全部嫌い。なんか国の形とか変わっちゃいそうだから外国人とかぶっちゃけ入れないでほしい。EU離脱上等じゃねぇかここはグレートブリテンだ!
だからロンドンを裏で仕切る麻薬王にハイエナみたいに群がる犯罪外国人どもはぶっ潰しちまえという話なんですけど皮肉なのはさ、その麻薬王っていうのが単身イギリスに渡ってきて一代でその座を勝ち取ったアメリカ人のマシュー・マコノヒーなんです。俺たちのロンドン! みたいな感じでマコノヒー配下のチンピラども外国人相手に暴れるんですけどもう既に俺たちのロンドンじゃないんですよね。いやお前アメリカ人に仕えて頭上がらないじゃんっていう。
その皮肉は脚本も書いてるガイ・リッチーが狙ったものだと思うんだよなぁ。俺これ観てて連想したのは軽妙なタッチに反して東映実録ヤクザものだったんですよ。『仁義なき戦い』シリーズとか『北陸代理戦争』とか『沖縄やくざ戦争』とかああいうの。東映実録って実録ってぐらいだからヤクザ集団を通して同時代の社会の仕組みとか社会問題とかあるいは社会の空気を描くようなところあるじゃないですか。で、『ジェントルメン』も東映実録ほど社会派っぽさが前に出るわけではないですけど、やっぱ今の時代のロンドンがこういう物語には封じ込められてるような気がしたんです。
年下相手にのみ威勢のいいチンピラくずれのボクシング・コーチとかいう今回も最高にクズで痺れる役柄のコリン・ファレルは「俺たちのロンドン」を象徴するような存在だが俺たちのロンドンに帝国を築いたアメリカ人麻薬王には逆らえずその不満の矛先はもっぱら外国人に向かう。ストリートのガキどもはジェントルな大人どもの言うことなんか全然聞かずただ面白いというだけの理由で大人の秩序を散々かき乱すが武器とカネを独占してるジェントルメンども相手に下剋上などどうせできないと知っているから本気で逆らおうとはせず自分たちの居場所を作って満足してる。メディアは腐って信用できないしジェントルメンどもの関心は結局のところカネだけだ。
これが素晴らしき「俺たちのロンドン」の今の姿というわけで軽妙な抗争劇の裏側には東映実録に通じる社会へのどうしようもない諦観が張り付いている。やっぱイギリス映画すからねー。イギリス映画そういうところあるよねー。こういう冷笑的な視座と内に秘めた感傷は『アウェイデイズ』とか『トレインスポッティング』みたいなイギリス不良映画のそれかもしれない。コリン・ファレルのポジションとかイギリス不良映画によく出てくるダメな先輩不良ですしね。東映実録映画×イギリス不良映画。ガイ・リッチーの出世作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』も陽気なクライム・コメディっぽいムードで進行しつつも若者の受難物語みたいなところがあった。
だからそこがなんか面白くて…それこそ『ロック、ストック』とかと比べると脚本上であったり編集上であったりな小細工をいろいろ入れるっていうのは共通してますけど全体的にはずっと抑制されていて、悪く言えば盛り上がりそうで盛り上がらないんですけど、下剋上展開をやらないその盛り上がらなさに(下剋上を狙うのはかつての麻薬王と同じように血気盛んな外国人ばかりだ)現代イギリス人への皮肉な眼差しを感じて個人的には『ロック、ストック』より好きだし、安易なカタルシスに逃げないのでギャング映画としてちゃんと作られてるなって好感が持てた。
カタルシスがないってわけじゃないですけど微妙にしこりを残すといいますか。ハッピーっちゃハッピーエンドなのかもしれないけどうーんこれでよかったのかなー? みたいな。結構投げやりに終わっちゃうんすよね。わりとみんな不満を抱えたまま線香花火が消えるみたいに終わっちゃう。見た目は軽いが中身は案外渋いんですよ。『ジェントルメン』ってタイトルもそう思えばなかなか含蓄を感じたりするじゃないですか。麻薬王は元々アメリカからの留学生だからこの人はイギリス純正のジェントルメンではないし、その周辺のギャングとか準ギャングもジェントルメンではないんですよね。もちろんストリートのガキどもがイギリス的ジェントルメンに育つ気配なんか全然ない。
これは「もうイギリスはジェントルメンの国じゃないんだよ」って皮肉なんだと思う。ジェントルメン復権を目指した(?)『キングスマン』に対抗するかのようにスパイ映画『コードネーム U.N.C.L.E.』を撮った(そのポスターがミラマックスのオフィスに貼られている内輪ジョークあり)ガイ・リッチーなので。ロンドンにジェントルメンはもういない。いるのは経済強者の外国人と日和見主義の恥知らず、そして外国人排斥で日頃の鬱憤を晴らす捨て犬のような貧乏オッサンたちばかり。
切ないなーこれは。ユーモア満載で笑えるけど切ないっすわー。アメリカ映画みたいに都合よく危機を切り抜けるマシュー・マコノヒー、パン屋でガキに説教するハンチング帽のコリン・ファレル、いかにも悪いヘンリー・ゴールディングとエディ・マーサンらのコンゲームを彩るのは卑語だらけの下町台詞とオフビートなギャグの数々。あと『孤狼の血』よりも全然気の利いた豚小屋シーン。あと漫画みたいな大噴射ゲロ。
なんだか愉快だけれどもそのすべては保守的で嘘つきなオッサンどもが自分を良く見せるために書いた架空の娯楽シナリオでしかないのかもしれませんよと釘を刺す皮肉屋ガイ・リッチーであるが、そんなろくでもないオッサン連中に抵抗の機会を奪われたストリートのガキどもの表現行為をエンドロールに持ってきたのは、若い世代へのエールって気がしてちょっとだけ優しさを感じたな(そういえば東映実録もズルい大人と怒れる若者の対立がお話の基本だし、そしていつも若者は大人に利用されて辛酸を舐めることになるのだった)
【ママー!これ買ってー!】
クズなコリン・ファレルといえばやはり『ダブリン上等!』が決定版。「俺は女を差別しねぇ。だから女も平気で殴る!」の冒頭がクズくて最高。
こんにちは。
やっと見ました。面白かった!台詞回しが好みです。そして衣装が良い!グレードの高さは勿論ですが、キャラを特徴づけてて理解しやすかったです。
確かに、あれ?英国人はどこにいるのよ?と、英国に因縁の国々のヤツらを見回していたら(ロシアの御曹司は可哀想だったな…)、麻薬王の片腕こと、チャーリー・ハナムが(多分、そうで)、尻拭いばかりしてました
彼、『パピヨン(2017)』に出てたんですね。見たし、カワイイ〜って思ったのに分かんなかったです…
衣装シャレてましたね。パッと見て階級がわかる使い分けで気も利いてました。個人的にはやはりコリン・ファレル推しなのであのカジュアルズ的な下町不良親父ファッションにヤラれました。実用性とファッション性と微妙なダサさを兼ね備えた…笑
英国人は主役って感じじゃないんですよね。新聞の編集長とかコリン・ファレルとかもなんかのおこぼれに与ろうとする情けない人たちで、チャーリー・ハナムも自分が主役になろうとはしない。ちょっと英国オッサンの悲哀を感じたりもしました。「パピヨン」、そういえば見てない…
>そんなろくでもないオッサン連中に抵抗の機会を奪われたストリートのガキどもの表現行為をエンドロールに持ってきたのは、若い世代へのエールって気がしてちょっとだけ優しさを感じたな
最後の方はウンコ我慢しながら観ててエンドロールになったら即トイレに行ってしまったんですがそんなのあったんですね!例の落下事故からの本職ギャングとガキのチンピラの追いかけっことか好きだったけど良いように大人に使われるだけじゃあんまりだなぁとか思ってたのでそこ観たかったですね。
まぁエンドロールのためだけにもう一度劇場に行くかというとアレですが、配信とかで機会があればチェックします。
いや、表現行為ってあれっすよ、あの劇中で撮ってたラップのMV。あれがまた流れるだけなので大したものではないです笑