《推定睡眠時間:0分》
『アベンジャーズ』シリーズにも参戦しているとはいえついこの間まで『アースフォール JIU JITSU』とか『スカイライン 奪還』みたいなどちらかと言えばV寄りのV級映画すなわちVシネ的映画で大活躍していたフランク・グリロが単独主演で共演がメル・ギブソンとナオミ・ワッツとミシェル・ヨー! しかも監督はリメイク劇場版『特攻野郎Aチーム』のジョー・カーナハン! 映画館で予告編を目にした時にはしみじみしてしまった。いささか往年の感が出てしまっているとはいえあのフランク・グリロがこんな豪華メンバーを揃えた映画で主演を張る日が来るとは…。
いいですよねフランク・グリロ。ネオテニー帝国ジャパンと違って胸板の厚いオッサンでもちゃんとスタアになれる健全なるアメリカではあるがさすがにグリロのスタア街道は険しいだろう、と思わざるを得ない全身から発散されるストリートの獣臭が良い。それに名前も良い。なんかドイツ料理みたいです。フランクグリロ。おいしそう。おいしそうなので全国津々浦々から集められた謎の殺し屋軍団に来る日も来る日も料理されるフランク・グリロです。ループする一日の中で300回ぐらい殺し屋に殺される熊人間フランク・グリロ! あははっ!
とネタ映画を期待して観に行ったんですが確かに確かに冒頭のドット絵ロゴとか残酷バ格ゲー『モータルコンバット』パロディ(実写取り込みのフランク・グリロがキャラ選択画面に!)とか軽妙なユーモア多数ではあるものの意外や絵の面白さとか残酷ギャグよりもストーリーで見せる正統派のループSF、まさかこんなシリアスなお話だとは思わなんだ、こんな先読みを許さない波乱万丈の展開だとは…。
主人公のロイ(フランク・グリロ)は元デルタフォース。どういうわけかは知らないが謎の超科学装置を研究してる元妻ジェマ(ナオミ・ワッツ)に会いに行った翌日から死んでも抜けられないループに突入、個性豊かな正体不明の殺し屋連中に朝っぱらから殺される日々が始まった。元とはいってもそこは軍人だから殺し屋連中を殺し返すぐらいは楽勝である。というわけであの手この手で殺しにかかって来る殺し屋どもをぶっ殺しながらループの謎を解き同じ毎日から脱出しようとするのだったが、そこでロイ壁激突。どんなに先に進んだと思ってもなぜか必ず12:47頃になるとどこからともなく現れた殺し屋に殺されてしまうのだ。
リアルクソゲーに挑戦することだいたい150回。これが有野晋哉であったら見かねたADがアシストしてくれるところであるがロイ課長に攻略法を教えてくれるADはいない。有野晋哉であったらギブアップの選択肢もあるがロイ課長にギブアップはない。だが、有野晋哉に挑戦中のヤケクソ飲酒は不可能だがロイ課長には酒がある。クソゲーにすっかりやる気を無くしたロイはいつしかケン・チョンが経営していて剣の達人ミシェル・ヨーが毎日来る中華料理屋で酒に溺れるようになってしまう。そんな不毛な日々の突破口となったのは『ストリートファイターⅡダッシュ』とかが置いてあるレトロゲーム専門のゲームセンターであった。果たしてゲームセンターには何があるのか。頓挫したかに思えたロイの挑戦が、今再び始まる…!
いやぁ、ゲームって本当に楽しいものですね。もうゲームですよ。冒頭は『モータルコンバット』パロディですけどその後ロイが通りかかった車を奪うところは『GTA』とかのオープンワールドを意識してるんでしょう。厳重警備の建物にされこれ策を練って侵入するところはステルスゲー『ヒットマン』シリーズのイメージなのかもしれない。敵の殺し屋軍団の中にはフランク・グリロそっくりの通称「ロイ2号」がいるがこれは格ゲーの2Pカラーのギャグじゃないですかね。
最近のアメリカ映画はゲーム映画の花盛り、ゲームの映画化では『ソニック・ザ・ムービー』や『モンスターハンター』に『名探偵ピカチュウ』もあったし新映画版『モータルコンバット』の公開だって間近に迫ってる、『コンティニュー』みたいなゲームネタを散りばめた映画だとダニエル・ラドクリフの『ガンズ・アキンボ』や『アンダー・ザ・シルバーレイク』もあるが、大きな話題を呼んだのはNetflixドラマ『ブラック・ミラー』の長編エピソード『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』で、これはゲームネタがあれこれ仕込まれただけではなく作品自体が視聴者の選択で展開が分岐するという文字通りのゲーム映画になっていた。
とこのように活況を呈しているゲーム映画の世界ですが『コンティニュー』が百花繚乱のゲーム映画の中でも異彩を放つのはわれわれは(主語がでかいなまた)なぜコンピューターゲームをするのかという根源的な問いを宿していて、その答えも出しているところ。なぜ人はゲームをするのか…そんなもの暇つぶしに決まっている! 暇つぶしと聞けば反射的に無為無益を紐付ける生産至上主義の紳士淑女もいらっしゃるであろうがしかし、暇つぶしに価値を置けない人生とか逆になんなのかという話です。
この主人公のロイさんは今までの人生であんまり真面目に暇つぶしをしてこなかった人なのでした。そのせいで家族とかを失ったロイさんは地獄ループの中で暇つぶしの大切さを学びます。するとどうだろう、毎日同じはずの風景もなんだか違う側面が見えてきたぞ! そしてループ脱出の手がかりも! 同じ毎日の中で必ず訪れる死を何度も繰り返しながら少しずつ強さを得て物事の多面性を学び真実に迫っていく…というのは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『ミッション:8ミニッツ』などの例を挙げなくともループSFの基本形だが、『コンティニュー』はその循環する時間の中での人間の成長過程をコンピューターゲームをすることになぞらえているのが面白い。
ゲームをすることは全く全然時間の無駄遣いなんかではないんですねぇ。というかむしろ、自分の行為や選択を時間の無駄とか無駄じゃないとか生産的だとか生産的じゃないとかそういうつまらない考えから解放してくれるのがゲームなのです。ロイさんもそうやって解放されていく。どうせ人生ゲームみたいなもの、なんでも試してみればいいじゃない。無数の選択肢が用意された現在を遊びながら無責任に生きることは過ぎたことを悔やんでたらればの自分に固執するよりも健康的だし、そっちの方が結果的に周りの人のタメになったりもしますよね、わりと。才能ある人に研究室で好きな実験させてたらノーベル賞取っちゃったみたいな。
というわけで映画の方もびっくりするぐらい全編あれをするかこれをするかの連続。ゲームの精神でもってループ世界をオープンワールドに遊び倒す約100分間はジョークもアクションもミステリーも人間ドラマもフランク・グリロの首の切り落としも満載で飽きることがないがその核にあるのはゲームをするように人生を楽しむべしという力強いゲーム世代のゲーム賛歌とライフハックメッセージ。徒歩がダメなら車で走れ、車がダメならヘリを飛ばせ、進行に影響する場合もあるので酒場の変の人の会話は面倒くさがったりせずミッションが終わる毎にちゃんと聞いておくこと、謎解きに使うかもしれないから所持アイテムはしっかり確認しておくこと! 人生で必要なことは全部ゲームで学んだろ!
とこれだけ言っておいてあれなのですがアクション要素はもう少しだけ欲しかったっていうかミシェル・ヨーはソード・アクションを披露するものの客演という感じだし、強いのは中ボスでラスボスのはずのメル・ギブソンは…まぁでも、そういう映画でもないからいいか! ジョー・カーナハンはバイオレンス・コメディ大好き人間と見せかけて(大好きですが)ツイストの効いた人間ドラマの面白さで勝負する人! そしてこれは『スモーキン・エース』のような殺し屋大乱戦映画と見せかけてその実、カーナハンが監督・製作・脚本の三役を手掛けた入魂の一作『THE GREY 凍える太陽』同様の、「君たちどう生きるか?」映画なのです。あのエンディングはそれを観客に問うものだったのでありましょう。
【ママー!これ買ってー!】
ゲームセンターCX 24 ~課長はレミングスを救う 2009夏~ [DVD]
有野晋哉がレトロゲームのクリアを目指す「有野の挑戦」の24時間スペシャル版。風邪で意識が朦朧とする中スタジオとは名ばかりの小部屋に軟禁された有野が同じミスと的外れな選択を何度も繰り返しながら一歩ずつ名作『レミングス』のクリア(※TAXINGモード)に近づいてくその姿はフランク・グリロと重な…らないな! あと番組公式応援歌の「ラストコンティニュー」は普通に良い曲です。