【ネッフリ】『ラブ、デス&ロボット』シーズン2感想文

《推定ながら見時間:全8エピソード計20分》

前シーズンの感想→【ネッフリ】『ラブ、デス&ロボット』を見た!

エピソードリストを観たら8エピソードで終わりだったのであれこんな少なかったっけと思って前シーズンを確認すると18エピソード。減ったなー。何があってそこまで減ったの。予算削られたんだろうか。そういえば前シーズン配信時にはユーザーの視聴傾向に合わせてエピソード順が変わる面白い試みがあったがシーズン2では少なくともラストエピソードは固定されているようで、その点でもなんというか前シーズンに比べて遊びがないというか、実験精神が薄いというか、いやまぁだから要するに予算がなかったんでしょうねたぶんね。前シーズンはあんだけ話題になったんだからそんなケチくさいことしないでもと思うがそういうところは案外シビアなネットフリックスです。

というわけで若干の今更感もありつつ全8エピソード観たんで感想書く。各10分程度のショートショートが8エピソードしかないので今回はすぐ観終わってしまった。その10分の内の3分はスタッフ・キャストのクレジットなので実際は全部合わせても70分ぐらいしかなかったんじゃないか。なんか世知辛いな、実験SFアニメのシリーズなのに…。

『自動カスタマーサービス』

掃除も洗濯も身の回りのことは全部ロボットさんがやってくれる便利な近未来であったが任せすぎてロボット暴走。ぶっ壊れて飼い主のババァを排除すべきゴミと認識してしまった殺人ルンバとババァの死闘が始まった。

頭だけクソでけぇ戯画化された人物デザインがそれなりに印象的だがなんか前シーズンでもこんなの観た気がするなぁとか思ってしまうベタな風刺&ブラックユーモア編。「ちょっと、お宅のロボット狂って殺しにかかってきてるんですけど!?」「ロボットが狂って殺しにかかってきているのですね。では、緊急停止ボタンが押せる場合は1を、押せない場合は2を、担当者にお繋ぎする場合は3を…」とまぁこんな感じです。

ブラックなギャグとスラップスティックなアクションの連続でまぁまぁ面白いが最大の見所はおそらくロボ攻撃で破裂する金魚や粉砕されるクッションの超写実的な描写。各エピソードでアニメーション的こだわりポイントが明確に異なるのがこのシリーズの特徴と言えるが、いや~このエピソードの破裂っぷりはビューテホーでしたね。このエピソードも何も他のエピソードには破裂描写自体ほぼないわけですが、とにかくこの見事な破裂っぷり、ねっちゃりと飛び散る血液や舞い散る羽毛に注目です。

『氷』

夢の宇宙植民も実際にやってみれば聞いていた話とはほど遠い。まずこの星はめっちゃ寒いので適応手術を受けなければマトモに活動できませんしあとめっちゃ寒いですしめっちゃ寒いです。とにかくめっちゃ寒い星に出稼ぎにやってきた兄弟ですが弟はさっさと適応手術を受けて異星生活をエンジョイするものの兄貴は踏ん切りがつかず現人類機能を維持。そのせいで生活は他の人より倍大変だし「まだ人間かよw」的な感じでからかわれたりするのであった。あぁ、こんな生活嫌だなぁ。

グラフィック・ノベルをそのまま映像化したような絵柄のエピソードで、大したことは起こらないが異星移民の孤独が詩情豊かに描かれて結構沁みる。未適応の人類と適応済みの人類の距離の見せ方がいいんだよね。未適応人類の視点で描かれる物語だから最初は適応人間がなんとなく不気味に見えるんですけど、その不気味がある体験というか、物体というか、その程度の差異なんか軽く凌駕する光景を経てあんま気にならなくなってしまう。それで現実が何か変わったわけではないんですけど、世界の見え方が少しだけ変わるんです。いぶし銀のSFだな。地に足の付いた版のロジャー・ゼラズニィ短編って感じ(原作は別の人)

アニメーション的見物はたぶん気体描写。煙とか白い息とかそういうのおもしろいです。

『ポップ隊』

『ブレードランナー』風の雨降り近未来都市に赤子の泣き声がこだまする。そこに突入したのは警察の人口調節部隊、どうやらこの世界では人類の長命化が一般的になったので資源を食い潰す新生児などは望まれていないようです。よってガキは見つけ次第捕獲、たぶん処刑。しかし果たしてそれでいいのだろうか…。

絵が『ブレラン』風ならストーリーも『ブレラン』原作者ディックの有名短編『まだ人間じゃない(人間未満)』を思わせるディック風エピソード(でも原作は『ねじまき少女』のパオロ・バチガルピ)。ディストピアムードの漂うサイバーパンク都市で展開するハードボイルドものがたりは素直にカッコイイも手堅くまとまっているので驚きとかはとくにない。空気を味わうエピソード。

『荒野のスノー』

ワケあって異星に隠遁していた逃亡者が地球政府の使者に見つかってしまいます。いったい彼はどうして逃げているのだろう?
ハイパーリアルな3DCGアニメで肌の繊細な表現などそれなりに見物ではあると思うが、これも空気系のエピソードなのであまり印象に残らなかったなぁ(異星人デザインもコクがないというか…)

『草むらに潜むもの』

夜行列車に乗っていた男がふと窓の外に目をやるとなに畑だか知らないが背の高い草の間に何か光るものが。おやぁ? と思っていると列車停止。すぐに発車しますから遠くまで行かないで下さいねの絶対に守られない車掌警告を男は案の定ガン無視、畑の迷宮に足を踏み入れて謎の怪物に襲われるのであった。だから遠くまで行くなとあれほど!

原作は大御所ジョー・R・ランズデールだがなんで数あるランズデール短編の中からこんなのを選んだのかわからないほどめっちゃ普通のエピソード。原作は未読なのでそっちではもう少し陰惨な暴力描写があったり気味悪さがあるのかもしれないが、映像化されたこれはもう…とにかく普通である。ストップモーションアニメ風の演出なのか人物の動きがカクつくのは少しだけ面白かったかもしれない。あとは普通。

『聖夜の来客』

クリスマスの夜、サンタさんを待ちわびる子供が見たものは…これ以上は口外不可の完全ワンアイディア短編。そのワンアイディアはちょっとだけ笑ってしまったのでまぁまぁ面白かったがどう面白いのか言えないのが悔しい。80年代SFホラー映画とかが好きな人は何かを思い出してニヤニヤできるかもしれない気の利いた愉快なエピソードです(ネタバレギリギリの書き方だ)

『避難シェルター』

自機の破損により戦線を離脱した宇宙戦闘機のパイロットが異星の放棄された避難シェルターに向かうと警備ロボットがすっかり狂って味方なのに敵認識、絶体絶命状況の中でパイロットは生き延びる方策を練る。

クレジットに「原作:ハーラン・エリスン」の文字を見た時にはエリスンなのにこんな地味なと思ったがよくよく考えてみればエリスンらしいダンディズムが漂っていたしほぼほぼ台詞なしで進行する硬派な作りもわりかしそれっぽい感じ。頑張って勇敢に戦ったのに自陣営に救援を求めれば敵と誤認される皮肉には(原作の書かれた当時の)アメリカ社会への痛烈な批判も見える。この映像化では原作の持っていたであろう攻撃性はだいぶ削がれているように思えるが、時代性を剥ぎ取ったら普遍性が残ったという感じで戦争の寓話として悪くない出来かもしれない。

特筆すべきは光の表現の面白さで、冒頭に「光の点滅に敏感な方は注意してください」みたいな警告が出るぐらいなのでストロボが多用されて結構目に痛いのだが、なにも意味も無くストロボで遊んでいるわけではなくストロボの直線的な光と懐中電灯の輪郭の曖昧な光の対比であったり、肌に反射する光と無機物に反射する光の質感の違い等々を見せる。それがすごい。シンプルな内容だが噛めば噛むほど…的なエピソード。

『おぼれた巨人』

浜辺に巨人の死骸が漂着した。最初は珍しがる人々であったが次第に関心は薄れ死骸は解体、後には鯨の骨に見えなくもない巨人のあばら骨だけが残るのだった。

シーズン1に比べれば全体的に地味というか玉石混淆ともバラエティ豊かとも言えるシーズン1に対してシーズン2はエピソードの完成度にそこまでのバラつきがない代わりに意表を突かれるようなところもなく通して観ればやはり退屈の観はあるのだが、このラストエピソード『おぼれた巨人』だけは別格の完成度で、シーズン1も含めて『ラブ、デス&ロボット』の現時点での最高傑作エピソードだと言い切りたい。

いやもう素晴らしいの一言ですよ。実写だとどうしても難しい現実と虚構の狭間を見事に埋めてきた感じで、浜辺に横たわる巨人の違和感のない違和感が実に気持ち悪くも陶酔的、その顛末は絶対にあり得ないノスタルジーを強烈に喚起して脳が異世界に連れてかれます。

J・G・バラードの同名短編が原作だがバラードの映像化作品の中でもその世界観の映像への落とし込みという点ではトップクラスの出来じゃないだろうか。洞穴のような鼻腔の闇、切断された足の断面、見世物にされる巨大なペニス。死骸の上でくつろぐ人々の姿はまるで昆虫のようだ。自分では何もすることのできない巨人の死体が人間たちに解体されることで逆に人間世界の自明性を解体してしまう。その思考の揺さぶりは前衛SFアニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』ならではだなぁとか思うのでした。

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通りすがり
通りすがり
2021年7月8日 3:53 AM

vol.3が2022年公開予定ですよ、話数が少なかったのは単純に製作期間足りなかったんだと思います