若干意外キラキラ映画『ハニーレモンソーダ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

なかなか意外性のあるキラキラ映画でこのピチピチに弾けたタイトルからすればコミカルで爽やかで明るく朗らかそしてラブラブな内容を想像してしまうが実際に観ればイジメや育児放棄を扱った陰影のあるストーリーで映像的にもキラキラ的ファジーは当然あるが引きの絵や手持ちカメラを導入することで空想的ではないリアル寄りの高校生活を描き出しており、更にはダブル主人公のイケメン担当ラウールがいつも手に持っているジュースは『ハニーレモンソーダ』と言いながらもキリンレモンなのであった。

そこははちみつレモンじゃないんだ。まぁでも炭酸入ってないからなはちみつレモン。いやでもそんなこと言ったらキリンレモンもはちみつ入ってないだろ。ラウールが愛飲しているのはキリンレモンでイケジョ担当の吉川愛が愛飲しているのははちみつレモンで二人の愛が成就したときにハニーレモンソーダが誕生するという社を超えたコラボ演出とかはできなかったんだろうか…まぁできなかったんだろうが、とにかく、そういう意外性のあるキラキラ映画でした。

キラキラ学園に入学した石森羽花(吉川愛)であったがこれで私も高校デビューとハートをキラキラさせた矢先、同じ高校に進学していた中学時代のいじめっ子連中と再会してしまう。そこに颯爽と現れたのが校内を歩いているだけで追っかけ女子連がワーキャー騒ぎ(キラキラ的定番演出)部活でバスケをしているだけでも追っかけ女子連がワーキャー騒ぎ(キラキラ的定番部活)めっちゃモテているのになにやらワケあって今は付き合いナシ(キラキラ的定番設定)の三浦界(ラウール)であった。「お前、助けてほしかったら俺呼べ。いつでも飛んでいくから」くぅ~! ベッタベタにキラキラァ~!

そういう感じの導入で後の展開は『君に届け』風。いじめに遭いすぎて防衛機制により自分を石だと思うことにした石森ちゃん(石と同化してしまっているので部屋にも石を飾っている)であったが三浦くん&気の良いクラスメート+αたちとの交流を通して徐々にではあるが石化解除、実は自分もそれなりに問題を抱えていてハートを半石化していた三浦くんはそんな石森ちゃんのおかげで石化が解けていくのでした。かなり結末の方までファストにネタバレしてしまっている気もするがキラキラ映画に意外な展開なんかあるわけないし観に行く人もそこに期待することはまずないだろうと思うのでまぁいいだろう。よかったですよこの『君に届け』風。クラスメート+αたちの二人に対する距離感が近すぎず遠すぎずで、適度な温度感で見守る感じで。主演二人も初々しいしね。

しかし面白かったのはキラキラ映画としてはリアル寄せの作風で展開もシリアス系なのだが完全にそうというわけではないのでマジックのないマジックリアリズムというか、そんなこと大真面目にやられてもなみたいなシーンとか台詞がちょいちょい顔を出すところであった。たとえば三浦くんはバーテンのバイトをこっそりやっているのだがそのことを知った石森ちゃんに「俺はこっち側の人間なんだよ!」っていやバーテンを汚い仕事みたいに言うなよ、いいだろ別にバーテンで。石森ちゃん理解あるからバイト頑張ってねで終わるよたぶんそれ。

ティーン層に合わせたリアリティってことなんだろうか。それにしても無駄に大袈裟などうでもいいすれ違いが多かった。このふたり心は石だがその材質は豆腐なのでめちゃくちゃ些細なことで心が折れて相思相愛なのに一歩進んで一歩下がるを繰り返して全然接近してくれない。勢いで材質が豆腐の石とかわけのわからない表現をしてしまったが昔読んだ『ラッキーマン』に豆腐を鍛えて鉄にした鍛冶屋が出てきたから豆腐もがんばれば石になるのだろう(ならない)

すれ違いは恋愛映画のオモシロの核とはいえ大量投入されたびっくりするほど些細な理由でのすれ違いは回数を回すために解決も早い。石森ちゃん精神的に死ぬ→友達のサポートで恋愛戦線復帰→三浦くん精神的に死ぬ→友達のアドバイスで恋愛戦線復帰→石森ちゃん(以下同じ)みたいなのを延々繰り返すのでわりとアホらしくなってきてしまう。高校生サイズの恋愛リアルなのかもしれないがでもなー、一つの恋愛課題が平均5分で解決してしまうといまひとつ盛り上がらないからなー。恋愛そんなもんですなのかもしれないけどさー。

とはいえなのだがその高速解決はテンポの良さとも言えるのでテンポが良すぎて空回りしているような気もするがまぁまぁ面白く見られる。キラキラ映画っぽい要素は盛りだくさん。これは神奈川系キラキラ(主要キラキラ産地のひとつ)なので海に行くしアウトレットモールみたいの行くし観覧車を背景にした夜景告白やイルミネーションの祝福、浜辺に近いシャレオツカッフェでの仲間たちとのお勉強会など神奈川のキラキラを盛りに盛っており、汎用的キラキラ要素であるところの地元の祭りや親のいない家や少し離れた場所にいる相手に会いに行くための全力疾走などももちろん完備なのであったが、祭りに行く時の主演ふたりは他のメンバーと違って浴衣ではなく私服、全力疾走は男のみまたは女のみではなくそれぞれに単独疾走シーンが用意されているなど、キラキラ要素を継ぎ接ぎまくっただけに見えて細かいところでは今風の価値観にアップデートされたマイナーチェンジっぷりに唸らされる。祭り、浴衣着ないでも行けたんや。

あとこの映画わりと演技をしっかり撮る映画で顔面のアップが多用されるのですがそれが主演ふたりに留まらずかなり脇役が友達の話を聞いているときの表情の変化をカメラが切り取ったりするぐらいなので、主演二人もキラキラっぽい記号演技ではない厚みのある演技をしていて良いんですが、でもその厚みのある演技で「お前まだ自分を石だと思ってんのかよ」「…はい」「じゃあもう石でいいじゃん。石は石でもお前は宝石だよ」…みたいな、ド直球なキラキラ台詞をシームレスに言う。そのズレがなんだか可笑しかった。これも奇妙なラインのリアリティの一例。

高校デビューを視覚的に(派手なテロップやイケメンズスプリットスクリーンなど)表現したポップ系キラキラ映画オープニングがいじめっ子との遭遇でシリアス系キラキラ映画のトーンに転ずるあたり、キラキラ映画に見慣れた客向けのちょっとした仕掛けである。エンドロール中もずっと後日談が流れ続けるサービス精神で、総じて技巧的なキラキラ映画でおもしろかったです。まぁでも俺だったら「お前まだ自分を石だと思ってんのかよ」「…はい」の後には「じゃあもう石でいいじゃん。石は石でもお前は石ノ森だよ」って言うけどね。はい恋愛できない人の発想。

【ママー!これ買ってー!】


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『ハニーレモンソーダ』の監督は神徳幸治という人でこの人はこちらもタイトルと内容が大幅に乖離しているやさぐれキラキラ映画『honey』を監督した人なのであった。まさかハニー繋がりで監督の白羽の矢が立ったわけでもないだろうが…。

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