民衆は愚か映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』感想文

《推定睡眠時間:30分》

ジャッリカットゥの意味は知らないが語感が良いので面白い確定。なんとなく地方のヤンキーが後輩を恫喝して殴るときに言う方言っぽいですよね。お前マジでジャッリットゥよ? みたいな。そういう映画でしたよなんかほら前科者とか出てくるし。暴れ牛を捕まえられるのはアイツしかいねぇってんで前科者オッサンが呼ばれて村の男衆がタータタッタッタッタッタークッタッチャン! クッタッチャン! って盛り上がるんだよな。クッタッチャンっていうのは前科者の名前で日本語の感覚だと可愛いですけどなんかすぐ人とか殴るし拾ったナタと細い鉄パイプみたいので鉄砲の即席銃弾とか作る。撃てるんだそれ。なんていう種類の銃なんだろう。火縄銃?

宣伝素材だとやれ『マッドマックス 怒りのデスロード』がどうとか『アンストッパッブル』(トニー・スコット)がどうとか『ミッドサマー』がどうとかとキャッチーなタイトルと文句が並んでおりますが集客のためには正しいとしてもそこから想像される内容と実物はわりとかなり全然違い、俺の感覚では暴力性を大増量したパールフィ・ジョルジの『ハックル』とか、あるいは「もしアレクセイ・ゲルマンがアニマル・パニック映画を撮ったら?」みたいな映画だったように思う。タル・ベーラとかもイメージとしては近いかもしれない。

カーニバル的なというかさ。時計かメトロノームの音に合わせてカチカチと規則的に刻まれた村の日常が牛の逃亡で徐々に崩壊してって祭りになっていくんだよな。でも作りとしては非常に論理的っていうか寓話的でカオティックな感じではない。牛を追う男たちがわーわー騒いだり歌ったりしているわりにはそれを切り取るカメラは冷徹さを崩さなくて、黙示録の引用から始まる物語は収まるべきところに(?)収まるというか、案外キレイにまとまってそこに意外性とか高揚感とかはあんまりないんですよね。

その冷たさがおもしろかった。こういう人間が集まったらそりゃこうなるでしょ笑みたいな。舞台になってる南インドのケーララ州というところはインドには珍しくキリスト教徒が多い地域だそうで(イスラム教も多いらしい)、そのためかどうかは知らないが民衆を突き放すような視点がある。一口にインド映画といっても幅が広すぎるが日本によく入ってくるタイプのインド映画といえばやはり庶民目線で、神々のものがたりを描くにしても民衆が見上げる神々のおはなしという感じになるが、これは逆に神の視点から民衆の愚かさを眺める映画の観だ。

大量の牛追い男たちが懐中電灯を揺らしながら森を駆け下りてくる場面の光の乱舞、泥土の上に人間が群がってできあがる巨大人糞。牛の暴走っぷりもそれなりに迫力はあるが男たちが文明性に背を向けて牛を追っているうちに現出する神話的な光景の数々が強烈だったなぁ。

※自然音や男たちの叫びが文明の立てる規則的な音を飲み込んでいくサントラも良し。

【ママー!これ買ってー!】


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バカと人糞だけ三時間見せるゲルマン畢生の一作。

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