《推定睡眠時間:0分》
ZIKZAKとかいったかと思うんですけど冒頭に出てくる製作プロダクション的な会社のロゴマークがタモリ倶楽部のロゴにそっくりでちょっと笑える感じだったんですが笑えるとしたらそこだけで後は一箇所も笑える感じのないハードでアートなBGV、夭逝した音楽家ヨハン・ヨハンソンの遺言のようなSF映画? でした。
なんでも旧ユーゴスラビアの各所には名前の覚えられないスポなんちゃらという共産主義の理念に基づく独自の建築様式の記念碑? 集会スペース? まぁなんかそういうのがたくさんあって、これはその遺構を廃墟映像集的にわずかなパンニングとズーミング以外は使わないモノクロ、ヨーロピアン・ヴィスタ、フィルム撮影のゆったりカメラで捉えつつ、そこにヨハンソンとヤイール・エラザール・グロットマンの荘厳な劇伴が乗って、オラフ・ステープルドンの伝説的SF小説(らしい)『最後にして最初の人類』からの引用らしいティルダ・スウィントンのモノローグが流れる…だけ。あとオシロスコープの映像っていうか緑点がたまに入ってきます。でもそれだけ。つわものどもが夢の跡って感じですね。
感想。なんか怖かったよ。これは良くないわー精神衛生上よくないわー精神状態によってはー。俺めちゃくちゃカフェイン過敏なんでコーヒーとか一杯飲むだけでオシッコは繰り返しジョボジョボ出るし心臓バックバク鳴るし落ち着きが無くなって同時にものすごい落ち込むっていうか絶望的な気分になることがあるんですよね、体調悪いと。そうなると決まってこういうことを考えるんですよ。桜が咲くのは一年に一回じゃないですか。ということは仮に俺が寿命を全うしたとしても桜を見られるチャンスはあと100回もないわけじゃないですか。別に桜に思い入れはないんですけど100回以下ってめっちゃ少なく感じません?
たった100回以下、実際はせいぜい何十回か桜が咲いて散るのを見るだけで俺死ぬんですよ。これ書いてる今はカフェイン入れてないのでそう考えてもふーんですけどカフェイン鬱タイムに入ってる時にそれ考えると精神的にマジ死ぬ。でこの映画観たときなんですけど、うん、飲んじゃってたねコーヒー。困ったねカフェイン過敏なのに俺コーヒー好きだからね。まぁ体調が良いときは平気だし今日はそんな体調がいいわけでもないけどなんとなくいけるだろと思ったのが甘かったね。いやー…沈んだわー。共産主義の夢と共に精神陥落。
これは進化しまくってついに種の最後の時を迎えた人類が未来から現生人類に語りかけるっていうストーリーなわけですよ。我々はこんな感じで最後を迎えましたみたいな。それをティルダ・スウィントンが淡々と語って。で画面に映るのは異形の遺構だけで。人なんか一人も出てこなくて。動くものといったら遠くの鳥とか飛行機雲だけで。監督のヨハンソンはもう亡くなってて。呪いのビデオかよと思ったよ。そう考えたらオシロスコープ(これはスウィントンの声の振幅を示すものであったが)も心電図に見えてきたね。で最後それ動かなくなるんだよ。はい死にました人類死にました俺の精神も死にました。あー。さようなら!
じゃないんだよまぁ絶望気分はカフェインが抜けたら消えましたけれどもそういうわけで俺には怖い映画だったのです。あの「穴」にカメラがズーっと入っていくところとか怖かったなー。ある意味『2001年最後の旅』の行き着く果て。人類の進化の終着点という意味でも、人間なんかどうでもよくて建築物だけを撮るという意味でも。キューブリックだって人間をフィギュアとしか見てなかったでしょうから。ここにはフィギュアとしての人間さえいないわけですが。
だってあの未来からの声が録音されたものだったらどうします? 遠い未来から何度も何度も繰り返し同じ終末を過去に送信してて、その過去にももう誰も人間は残ってなくて、録音された人間の痕跡だけが過去と未来をループし続けてる…それは俺のカフェイン脳がおそろしいほどの音響に身を包まれながら勝手に作り出した妄想だが、いや、でも、これは録音音声ですとか言ってなかったかな? まぁどっちでもいいけど、そう考えたらたまらなく怖い。これはラヴクラフトを読んでいるときに感じる恐怖と少しだけ似ているかもしれない。
ラブクラフトといえば。基本的にはのっぺりと共産遺構を捉えていく映画なので一種の映像ダークツーリズムとして(本来は)のんびりと観られる映画なわけですが、一箇所だけ異様な迫力を持ったコズミックホラー的光景があって、どこの何の遺構(それとも現役なんだろうか?)だかは全然わからないんですが霧に包まれた並木道があるんです。道の向こうは霧に覆われて何も見えない。でもカメラが定点観測的にジーッとフィックスでそこを撮っていると、少しずつ霧が晴れてくる。すると霧の向こうにそんな形状のものがこの地球上に存在するとはにわかには信じられないような巨大にして異様な建物が薄らと…そこで、画面は唐突にオシロスコープに切り替わって、未来からの声は最終人類の絶滅が確定したことをわれわれに告げるのです。それはシラフで観ても恐怖以外のなにものでもなかったと思う。
【ママー!これ買ってー!】
こちらはナレーションも劇伴もなくカメラが動くことさえないハードコアな廃墟映像集映画。こちらは癒やしな感じです。
↓原作…と言えるのか?
私は中盤寝落ちしてしまったんですが、丁度目を覚ましたのが遺構にカメラが寄っていくところでした。まだ夢を見ているような気持ちのなかで突如訪れる無音、そして現れる真っ赤な太陽。本能的な恐怖を感じて気付いたら席から身体が外れていました。未だに身体が恐怖を覚えています。本当に怖い映画です。
原始的な怖さがありますよね。ホント、呪いのビデオかと思いましたよ…ラストも「無」っていう感じで。