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めちゃくちゃパンフレットが欲しい映画だったんですけど作ってないらしくていやそれは痛恨のミスでしょ20世紀スタジオさん! そりゃコロナ禍で公開延期が続いてそもそも公開できるかどうかもわからない中で作れなかったとかそういう事情もあるのかもしれませんけどこれはパンフレット欲しいって! 単純に面白いっていうのもありますけど『レディ・プレイヤー1』系統の引用オマージュ&イースターエッグ大量映画だし、最近のゲームは全然やってないのでそういう小ネタ系の解説をパンフレットで読みたかった…! どうせ映画秘宝とかに攻略記事載ってるだろうけどな!(でも応援のために買いたいって気持ちもあるの!)
はいそれで映画の内容ですけれどもいいね! そんなのもうみんななんとなく知ってるね! よし大胆に飛ばそう! そこは大胆に飛ばしてこの映画の何が俺の脳に刺さったかというと『ゼイリブ』だったね~! 飛ばしたね~! 本当に大胆に色々飛ばして急に『ゼイリブ』とか言い出すから何を言ってるのかわからない感じになっちゃったね~! ごめんじゃあやっぱちょっと話戻すわ! はい最近のコメディ系ハリウッドアクションでありがちなクライマックスから始まって主人公のメタ的なナレーションで「事の始まりは…」って回想形式でストーリーを展開するやつの文章版! ちなみに『フリー・ガイ』はその形式じゃないから安心してね! なにこの感嘆符乱発テンション! どうした! どうもしねぇよ!!!
なんかですね冴えない銀行員のガイさんというのがおるんですよ。この人の住む街はテレビをつけると今日の銃弾予報というのをやってて外に出れば道路を戦車とかロボットとかが闊歩してたりやたら強盗とか銃撃戦が巻き起こったりの紛争状態でよく巻き添えを食らって死ぬのですがガイさんも街の人たちも全然気にしない。お、そろそろ銀行強盗の時間だな。手を頭の後ろに回して伏せるか。
それにしてもさっきすれ違ったあのサングラスかけた女の人カッコよかったな~。ちょっと好きになっちゃったかもしれないな~。あ~。通勤路で売ってるかオシャレな靴ほしいな~。なんでか知らないけど毎日こうやって働いてるのに一切お金が増えないから買えないけど欲しいな~。たまには違うコーヒーも飲みたいな~。コーヒー屋さんはなぜかいつも同じホットコーヒーしか売ってくれないけどカプチーノも飲んでみたいんだけどな~。なんでだろうな~。なんで…え、マジなんで!?
目覚めてしまった…この不自由な世界に! 果たして自分がグラセフ系オンゲーのNPCでしかなかったという絶望的な真実に直面したガイさんに未来はあるのであろうか。まぁ『ナイト・ミュージアム』のショーン・レヴィ監督作だからないってことはないだろ。そういうことを言うんじゃない!
ループ構造を取るゲーム題材の映画といえばジョー・カーナハン×フランク・グリロの『コンティニュー』も記憶に新しいがアチラがループによって主人公が死なないのをいいことに殺人バイオレンス盛り沢山のある程度大人向け映画だったのに対してコチラは似たような設定でもファミリー向け。ということで上のあらすじから主人公ガイさん(ライアン・レイノルズ)が色んな手法で殺されまくる楽しい映画を想像してしまう心の腐った愉快なみなさんもいらっしゃるかと思いますが基本的にそういうのナシ! 血も出ません! 血が観たい人は大人しく絶賛公開中『ザ・スーサイド・スクワッド』を観に行くが吉!
こっちはそういうのじゃなくてゲーム的な絵作りとかシナリオ(『クリスマス・クロニクル』とかアニメ版『アダムス・ファミリー』のマット・リーバーマンによるもの)の面白さで見せる。さすがショーン・レヴィ映画ということでいかにもハリウッドな大味感があって細かい設定の部分はわりと雑なんですけど、細かいことを気にしないことでダイナミックな展開が可能になってもいて、まああああこれが面白いのですよ。グラセフ系のオンゲの世界だから普通に会話してる背後で常にガチャガチャと大騒動が起こっていたりキャラがバグってガガガガって同じ動作繰り返してたりさ、ゲームっぽいオブジェとかスポットとかアイテムで画面が埋め尽くされていてゲームのオモチャ箱をひっくり返したみたい。人がびよ~んと50メートルぐらい飛んでいくような素っ頓狂かつ無邪気なアクションとか愉快で愛せるキャラクターも満載。ちゃんとCG大スペクタクルも実装してます。
でそれはゲームの中の話なんですが実はこれはゲームの中の世界の話とゲームの外の世界の話を同時進行させる映画で、ここが想定外に面白いところだったんですけどゲームの外の世界ではこのゲームの開発・運営会社スナミで働いてる元ゲームデザイナー現バグ処理係(ジョー・キーリー)とその元相棒でスナミを自作インディーゲームの盗作で訴えて裁判中のゲームデザイナー(ジョディ・カマー)っていうのが出てきて、そのバグ修正と盗作訴訟にガイさんが絡んでくる。
かつ! これはオンゲーですから世界中にプレイヤーがいて実況動画なんかを日夜YouTubeにアップしてたりするもんですからガイさんそこも巻き込んでしまう。なんかいつもわけわからん行動取ってるあいつ何者なんだよっていうんでネットでガイ動画人気に火が点いて、しかもそれが端緒となってゲームシステムや運営方針の批判を招いたりしてしまったものだからスナミの一番偉い人もうカンカン、あいつさっさとなんとかせいやー! と出てくる社長は意識高い系砂漠フェスのバーニングマンから帰ってきたばかりで考え事をするときには座禅を組んで瞑想を始めるタイカ・ワイティティ! ということでもうしっちゃかめっちゃかなことになっていくのです…!
これだけ要素を詰め込め込んでいると収拾がつくのかそれはしかも2時間弱のランタイムでと思ってしまうが、いやーこれは見事に着地したなー。着地も見事にしたし伏線の張り方も巧いのなんの。よく練られたシナリオでゲーム内に生きるガイとゲーム外に生きるゲームデザイナー等々だと持ってる情報量が全然違うわけですけど、主人公はガイだから基本的にはガイの目線でストーリーが進んでいくわけです。そこで生じたナゼの数々がゲーム外のパートで徐々に明かされていくのが面白いし、ゲーム外のパートで色んな事情がわかってくるとそれを知らないゲーム内のガイの行動が可笑しく見えてギャップで笑えたり、あるいは切なくなったりもしてっていう感じで、レベルの異なる二つの世界の絡みっていうのがこの映画はとにかくよく出来ていた。しかもそれがちゃんとSFとして昇華される!
ゲーム題材の映画(ゲームの実写化ではなく)というのも最近は多くなってきましたけどゲームプレイヤーの感覚とか考え方を取り込んだっていう意味ではこれは『レディ・プレイヤー1』より遙かに成功してるんじゃないだろうか。俺はネタバレ保守なので具体的には言いませんがゲーム世界に隠された「穴」の在処とかすごい納得したんですよ。それが現実的かどうかは脇に置くとしてゲームの論理としてこういうのあるなーっていう。『レディ・プレイヤー1』の「穴」は俺は納得できなかったですからね。いくらなんでもそれは誰か気付くだろみたいな。えー、どっちも観てない人に配慮に配慮を重ねた結果漠然としたことしか書けず申し訳ありませんが…。
でそこに、資金力に物を言わせて斬新なインディーゲームを作る中小スタジオを買収することしか頭になくて、後はひたすらユーザーを囲って人気タイトルのDLCとか続編ばっか延々と作ってる開発力も思想もない大手ゲーム会社の批判であるとか、オープンワールドと言いつつお前らゾンビみたいに与えられたミッションこなして運営の養分になってるだけで全然オープンしてねぇじゃんみたいなプレイヤー批判もあって、単に楽しいだけの映画では終わってないんだよな。
NPCなのにめっちゃ自由に生きてるガイさんと自由にプレイできるのにNPCみたいな遊び方してるお前らどっちがNPCなんだと。他のプレイヤーと競って競って運営にノセられるままゲーム世界にのめり込むことだけがゲームプレイなのかと。大手とは異なるゲームの在り方を日夜模索し続けるインディーゲームクリエイターへのリスペクトも込めてそういう問題提起もしっかりしてるんですねぇこれは。気合いの入った社会派ゲーム映画だ。
俳優陣もライアン・レイノルズを筆頭にみんなのダチ公リル・レル・ハウリー(今回は泣かせる役柄!)、『スプリー』で大量殺人系YouTuberを演じたばかりのジョー・キーリーが今回は安全だがヘタレのギーク、ジョディ・カマーはコスプレと素顔の二段構えでそのギャップに萌える、タイカ・ワイティティはやりたい放題で大いに笑わせてくれてそして! これはね、書けませんよ。これは書けませんがちょっとびっくりしてそれから大笑いする豪華ゲスト出演陣が二人(三人?)とか出てくるのでサービス満点、懐かしいですねこの初代プレステ宣伝文句! いやいやそんなことはどうでもいいんだがゲスト俳優の一人とライアン・レイノルズの漫才は最高だったよ。別のゲストの人は一瞬出るだけですけどその一瞬が逆に効いてる。おもしろかったなーあそこはー。
かくも要素テンコ盛りであるからジャンルも基本はヒューマンコメディだが派手ぇなアクションもありラブストーリーでもあり(これも泣けるのよ~)そしてなにより意外にも巨視的なスケールの本格SFでもありというわけでもうお腹いっぱい、最後はもちろんハリウッド式にハッピーハッピーということでいやぁ本当によくできたゲーム映画、感心することしきりの…あ、大事なことを書き忘れていた! 『ゼイリブ』!
そうでしたこれはゲームだけではなく様々な映画オマージュや引用もあり、『トゥルーマン・ショー』がまずは連想されるところなわけですがその後に来てまさかの感があったのがジョン・カーペンターのカルト古典『ゼイリブ』。あのね、言っとくけどガワだけ借りたオマージュではないですからこれは。こんな真剣に『ゼイリブ』をオマージュした映画は映画オタクの撮った自主映画とかでもないんじゃないかというぐらいの本気っぷりで、そこはもう『ゼイリブ』は心の一本候補ですから大興奮でしたね。
はいオマージュですよ~面白いですね~っていう感じではやらないんですよね。シナリオの中に自然な形で『ゼイリブ』オマージュが溶け込んでいて、いやまさかこんな形で『ゼイリブ』精神を受け継ぐ映画が現れるとは思わなんだ。俺の中ではそれだけでこの映画を推すに充分です。偉大なる『ゼイリブ』の価値がわかるクリエイターなんか信頼するしかないでしょうが!
※でも一番おもしろかったのは映画が終わって出る「字幕監修:ファミ通」。いるのか? っていう意味で。
【ママー!これ買ってー!】
その抽象性から時代を超えて、いやむしろ時代を経てますます存在価値の増す偉大なる『ゼイリブ』であった。
まったくの同感です! 素晴らしい『ゼイリブ』オマージュでしたね。下手な人なら、きっとグラサンかけるかけないのケンカを本筋と関係ないところでこれ見よがしにやるんでしょうが・・・。支配者への反抗に際してグラサンかけると言えば『マトリックス』もそうですが、この映画は『シェンムー』(←古!)的ゲームの浸透を利用して、超効率的に『マトリックス』を再構築していると感心。ラストはアメリカ映画らしく、旧政府打倒/新政府樹立ではなくリバタリアニズム。国家とは国民の収奪システムとも言えますが、徴税には戸籍が欠かせず、素性を隠さないことが良いとされてきた旧世界はコロナで終わったこととリンクしているように感じました。
あと、この映画ではLGBT的なキャラを全くイジリ感なく扱うことに成功しているようにも思っていて、ゲスト登場シーンはエロチカ先生っぽいギャグだし、主人公はピコピコ止まりのヒロインとオタク青年をパコパコできるまでに促し、自分は相棒とハグしてラスト。主人公はもしかして、と思ってしまうのは・・・いや、ただ単にBLバイアスがかかっているのかもしれませんね(笑)
プロットはめちゃくちゃ王道なのにすごい色んな角度からの読みができる映画で、俺は観てる間は気付かなかったんですけどあのサングラスは確かにマトリックスですし、サングラス繋がり(?)でゼイリブももってきて、そういう色んな要素の扱いの面白さ、巧さにこれは非常に感心した映画でしたねぇ~