まとめサイトとかを見てるとよく出てくるエログロ&コンプレックス刺激系のC級WEB漫画みたいなストーリーだなぁと思ったら原作は実際にWEB漫画だったらしくやっぱりな! 感がすごいのですが面白いのは漫画の手法をそのままアニメに落とし込んでいるのでカメラがびっくりした人物の目にズームするところで集中線が入るとか瞳が簡略化された形に変わるとかそういう演出がある。個人制作の無予算3DCGアニメみたいなキャラクターのゴリポリ動作に最初は面食らうも大胆な漫画演出でかなり安っぽさというか動きのつまらなさをカバーしているので発想の勝利…とまで言えるかどうかは正直微妙だが面白い発想ではあったと思う。
しかしこれはちょっと変な先入観を持って観てしまったなー。なんかさ、二系統の先入観がネットにあったんです。ひとつは「激ヤバ!」みたいな。まぁインターネット的にはいつものやつだから細かい説明はいらないだろう。でもうひとつは「ルッキズムの問題に切り込んだ!」っていうやつで、俺「激ヤバ!」の方は話半分って感じだったんですけど「ルッキズムの問題に切り込んだ!」の方は頭の片隅に置いて観に行っちゃったんですよね。
あのですね、結論から言うと、なんでこんな程度の話で「ルッキズムの問題に切り込んだ!」とか持ち上げられなきゃいけねぇんだよっていうか、それで持ち上げてる奴バカだろぐらい思って、なまじそこに期待がなかったわけでもないものだからだいぶガッカリしたわけです。いやいやこんなのエログロ&コンプレックス刺激系のC級WEB漫画でしかないから…そういう漫画にはそういう漫画の良さがあると思いますしむしろこれはその良さがよく出た映画だと思いますけど、これで社会問題がどうたらとかそんなのレディコミを女性差別の現実を描いた社会派ジャンルとして読むようなものでしょう…そりゃそういう評論もできなくはないだろうけど!
『整形水』は肉を溶かす水を使って贅肉を剥がすと美人になっちゃう(更には拾ってきた肉を付け足して爆乳にもできる!)とかいう脳内「ドーン!」不可避な初期設定からしてWEB漫画的ファンタジー以外の何物でもなかったし、ブラックなメルヘンとして楽しめましたけど、ルッキズムの問題をテーマにやるっていうんならそれがどう社会的に醸成されるかとか、その責任はどこにどれぐらいあるのかとかは考えないとダメだよな。そりゃ『整形水』にもそういう視線が全く無いわけではないですけどあるって言っても主人公の太ったメイクさんが女優に罵られるとかコンビニで男店員に笑われるとかそのレベルですからね。
だいたい主人公のキャラクターにしても見た目に悩む人の血肉が全然通ってないじゃないですか。行動がいちいち「デブはこんなもんでしょ」だし、整形水で超アニメ顔のパーフェクトボディを手にしたこの人が不安からか鏡を見ると自分の顔が崩れて見えるようになって…とかそれは何年前のサイコ表象なんだよ。ゼロ年代でしょ。よくてゼロ年代で基本90年代のサイコ感でしょ。ブラックなメルヘンと考えれば『ドリアン・グレイの肖像』の引用なのかもしれないけどさぁ。
エログロ+厭展開が面白いっつってもコンビニのカップ焼きそばみたいな面白さって言うかさ、まさかそう来るとは思わなかったー! とかそういうのないから。カップ焼きそばを食べる人は激辛MAX的な企画モノを除けばいつものカップ焼きそばが食べたいからカップ焼きそばを食べるわけじゃないですか。あぁいうチープなのが小腹が空いた時には食いたくなるんだよなっていう。これもそういうタイプでストーリーに気の利いたところは全然ないですからね。でも「これこれ!」みたいな。あくまでそういう面白さの映画で。
せっかくテレビ局が舞台として出てくるんだからアイドル的な女優の抱えるプレッシャーとかパワハラの常態化したテレビ業界の男社会とかをちゃんと描けばよかったのになー。そしたら「ルッキズムの問題に切り込んだ!」映画としてはもう少し面白く見れたのに。でも、だから、そういう映画じゃないわけですよ。コンビニの映画って感じ。レディコミとかゴシップ誌とかカップラーメンとかサプリメントとかエログロ青年ホラー漫画とかコンビニに置いてあるやつの織りなすC級文化圏から生まれたWEB漫画、の映画。
C級文化の映画としては面白いわけだから変に箔を付けようとして社会派っぽく売らないで欲しいよなー。ったくどいつもこいつも薄っぺらいくせに社会派ぶりやがって…モンドセレクションじゃねぇんだぞ社会派のレッテルは。それはともかくなんですが俺の中に韓国映画に出てくる室長の役職を持つ男は全員悪い説があり、『整形水』の室長もちゃんと悪かったのでその仮説がまた一歩確信へと近づきました。本当なんでどの映画でも悪いの室長。韓国映画人の室長クラスに対する怨嗟と軽蔑はどこから来てるんだよ…そのルーツを探求した映画、観てみたいよね。社会派の映画とはたぶんそういう映画のことを言う。
【ママー!これ買ってー!】
言うまでもなく『SAW』シリーズとは一切関係がないばかりかストーリーにも映像にもスタッフにも『SAW』を彷彿とさせる要素がミリ見当たらない映画なので逆にこの映画を観て『SAW』の直球便乗邦題を思いついた人はすごいのではないかとか思ってしまう。内容はちょっとだけデヴィッド・リンチ系の不条理ノワールという感じでなかなか味のある拾いもの。えー、なんで『整形水』の関連作品がこれなんだというのは観ればたぶんきっとおそらくわかると思います。