幸福の映画『宇宙の法 ーエローヒム編ー』感想文

《推定睡眠時間:30分》

やばかった。あまりにも説法的な会話シーンが多いのでかったるくて寝てしまい目を覚ましたら地球の聖戦士がパンダに変身してニャルラトホテプ的な巨悪と戦っているところだった、と書けばそれだけである程度はやばさが伝わるだろうか。なぜパンダに変身するのか。思うに『らんま1/2』のパクリである。その裏付けとしては地球防衛のために銀河のあっちの方から地球に飛んできた主人公(千眼美子)の衣装がどう控えめに見てもワンダーウーマンのパクリであり、ニャルラトホテプ的な巨悪に唆されて地球に「コロナウイルスとよく似た形状の彗星爆弾」と「核兵器」を打ち込もうとする異星の敵はかなりサノスっぽい顔をしており、一方地球側の登場キャラとしては「スタンリーマン博士」なる人物が存在する、という点を挙げれば充分だろう。あと風貌からしてイエス・キリストもアモールの名前で出てきます。

観てないし観る気もないけどどんな映画か知りたいだけの人の好奇心もここで既に充分に満たされている可能性もあるがしかしこの映画のやばさはそんなものではないので書き続けよう。あのですね、逆にですね、この『エローヒム編』でシリーズを初めて観た人は「ひでぇw」ぐらいで済むかもしれないですけど、俺はこのシリーズは一作目の『UFO学園の秘密』も二作目の『宇宙の法 ―黎明編―』も劇場でしっかり観ているので、もうね、そことの完成度の落差にガッカリ感ハンパないですよ。

確かに前二作も主にキャラデザの面で他作品のパクリっぷりがシャレにならないレベルではあったが一本のアニメ映画としてはちゃんと観られるようにプロの仕事で作られてはいたからなぁ。プロの仕事というのはつまり起伏のある三幕構成になっていたり観客の関心を引くためのハラハラ感とかがあったりするシナリオであったり、感情移入ができたり応援したくなるようなキャラクターであったり、ダイナミックなアクションとか独特の美意識に基づく美術とかシーンの印象を強める音楽とか…まぁ色々あると思うんですけど、そういう娯楽映画としての基本的な部分が前作から比べてガクっとレベルが落ちててマジでキツく、幸福映画は公開されれば観に行っているのに今回は珍しく途中で帰りたくなってしまった。

だって3DCGの風景ショットとか本当にこれがあの法シリーズの最新作かっていう学生レベルの完成度なんだよ。インディーゲームでももっと作り込んでるだろぐらいの。玉座に座って動かない地球主神エロヒム(一般的にはユダヤ教における神の概念だが幸福的にはまた別なのだろう)の顔だけ随所に出てきてしかも毎回何も言わねぇし(最後の方になると急に「神を試すべからず」とかのたまう)

アニメーションなのに歩行シーンすらマトモに設計されていないしキャラクターの顔面正面アップの絵とかばっかで本当に萎えるし。口だけ動かして合わないリップシンクで説法的な台詞を長々と言うんだよ。そこに歌もの幸福ソングが流れて…今回それ多かったなー! 「ことあるごとに」という言葉はこの映画の音楽のためにあるようなものでことあるごとに歌もの幸福ソングなんだよ!

歌ものといえば従来は幸福実写映画での使用率が高かったが(これは幸福映画にも信者集会用と外部布教用の二系統があり、実写の方は信者集会用のものが多いことに由来するように思われる)今回は歌ものを流しまくりで幸福シンガーの名前が何人もエンドロールに乗る。説法の多さも従来の布教映画路線から信者向け映画への方針転換の結果だと思えば納得はできるが、観ているこっちは信者じゃないのでまったく面白くないしたぶん信者の人もあんま面白くない。

いったい法シリーズに何が起こったのか。これは邪推だが脚本におそらくシリーズで初めて大川咲也加がクレジットされたことが関係しているのかもしれない。大川咲也加は幸福実写映画の脚本(と初期は歌も)を担当していたが脚本家の能力は乏しく基本的には父親の原作にある説法を並べるだけみたいな淡泊な脚本を書いていた。そのことから咲也加の脚本家としての特質というのは父親の言いたいことを上手く整理して代弁するという点にあるのだろう俺は思っていて、今回もそうして説法大放出展開になった可能性がある。

ただ、咲也加脚本にもそれだけではないものがあるかもしれないとは今回の『エローヒム編』を観て思った。というのは幸福の科学って自己啓発本で布教するニューソート/ニューエイジ系の宗教ですけど、父親の隆法は自身の大学時代の挫折経験からか学歴志向が非常に強くて、それから自己啓発本で布教するぐらいだからビジネスでの成功っていうのも自伝映画とかで再三アピールしてますけど、咲也加脚本の映画ってその面は少なくてスピリチュアルな要素が強く出る。

隆法がニューソートを思想基盤とするなら咲也加はニューエイジが基盤って感じで、だからたぶん法シリーズに出てくるUFOとか宇宙人とかチャネリングとか超古代文明論(※説明していませんでしたが法シリーズは竹内文書をベースにした超古代文明が舞台なので五色人などが出てきます。プレアデス星とかベガ星がどうのはチャネラーが共有する世界体系)とかは咲也加の好きなことっぽい。なんせ今回ワンダーウーマンが持ってきた宇宙金属としてヒヒイロカネも出てきますからね。オウムが探し求めて布教の足がかりとしたヒヒイロカネが。別にヒヒイロカネを探す人なんていくらでもいるんでそれでどうこう言うともりはないですけど、でも、ねぇ。

そういうオカルト/スピリチュアルと、これは明確に中国の武力に日本が脅かされているという構図を超古代文明に置き換えて語っているし、地球に敵対する異星が送り込んできたコロナウイルス形状の彗星兵器に関して地球の科学者が「人工的に作られたものだと考えられます」とかわざわざ言うわけだから婉曲的な陰謀論の主張と考えてもまぁまぁ差し支えなく、法シリーズ一作目『UFO学園の秘密』では中国国家主席と合衆国大統領(オバマ風)が共に敵性異星人レプタリアンであると説かれるのでむしろそう見るのが自然なわけですが、そういう対中国プロパガンダと復古主義的オカルティズムが結びつく。これかなり不健全だと思いますね俺は。

ただまあ俺はスノッブなので無責任な傍観者として言えば、これはアニメ映画としてはクソみたいな完成度だけれども、その政治的危うさが面白い。最近の幸福映画って全体的にはソフト路線に転換してたんでこういう攻撃的な映画は久しぶりだなーっていうか、たぶんまぁ衆院選近いからで、来年2月公開予定の幸福実写映画はタイトルが超ストレートに『愛国女子』っていうぐらいだから中国(と北朝鮮)の脅威を過度に煽って国政進出を狙ってるんでしょうね。それは前の衆院選の時もそうだったんですけど、ただその時との違いは上に書いたようなことで、それが信者の人にどう受け取られてるかはわからないけれども…という感じになる。

そういう意味では続きが観たくなる映画だよな。今後幸福はどんな方向に転ぶのか。こんな強いクリフハンガー、たぶん他の映画にないだろ。

※ところでこのシリーズを観る度に「いやお前絶対『ペルソナ』シリーズか『真・女神転生』シリーズやってるだろって」って思うんですが今回はミカエルとの確執に端を発するルシファーの堕天も少しだけ描かれやってるだろー、お前らやってるだろー、もしかしたら偶然のネタいろいろ被りかもしれないけどアトラスゲーやってるなら唯一神は倒しにいくべきだろーよー。って思いました。

【ママー!これ買ってー!】


幻影の偽書『竹内文献』と竹内巨麿 超国家主義の妖怪

読んでないのでノーコメントですが河出書房から出てる本なので記述に関してはまぁまぁ信頼していいんじゃないでしょーか。

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