《推定ながら見時間:20分》
素性の知れないあの隣人はもしかして吸血鬼とか魔女とかの物の怪のたぐいなのではないか…という郊外住人の不安を描いたアメリカのホラー映画は『ハロウィン』(1978)を嚆矢として80年代に量産されたが月日は流れて現在2021年ということでその頃に郊外のお隣さんホラーをリアルタイムで楽しんでいたかもしれない30代の若造も今や70代、郊外住宅地でよく知らない人と一緒に暮らすことで生じる不安は長く住んでいるうちに解消されたが家で介護するのはちょっとという家族の要望で養老施設を新たな住まいとしたところ今度は養老施設でお隣さん恐怖再燃! 時代が変われば恐怖の舞台も変わるものだ。
ってなわけでブラムハウス・テレビジョン製作のアマゾン配信映画は施設に入ったらヤバかったというお話。構図的には『フライトナイト』みたいなお隣さんホラーなわけですからもうそういうの今までに何百回観たことかと思うが養老施設が舞台ってだけで結構新鮮味があって面白くなるもので(『プレスリーVSミイラ男』という養老施設ホラーの決定版が既にあるわけだが)、郊外ホラーの場合は主人公が子供だから親なんかにいくらお隣さんのヤバさを訴えても信じてもらえないがそのへんは養老ホラーでも変わらず今度はお隣さんのヤバさを訴えると認知症扱いされて信じてもらえない。
これは切実。良くも悪くも子供はある程度大人に信じてもらえないことに慣れているかもしれないが老人の場合はこれまでは信じてもらえた子供や周囲の人々に信じてもらえなくなるわけだからダメージがでかい。M・ナイト・シャマランの『ヴィジット』あたりがブームの先駆けになったんじゃないかと思うが昨今流行りの認知症ホラー(メタファーを含む)はよく知っているはずの両親や祖父母が知らない人になってしまうことの恐怖が子供や孫の目線で描かれることが多いが、『呪われた老人の家』はアンソニー・ホプキンスがえらい賞を獲って話題になった『ファーザー』同様に認知症になった(と医者から言われる)老人の目線で描かれるわけで、観ている方も老人を襲う物の怪らしきものが幻覚なのかホンモノなのかよくわからず足場がおぼつかない。このへんは郊外舞台のお隣さんホラーよりも一歩進んだところと言えるので歳を取るのもそう悪いことばかりではない。
劇場公開を想定していない配信(テレビも?)映画なのでジャジャーンみたいな効果音をでっかく鳴らす安易な恐怖演出が多くゴア描写などはなし、事ある毎にフラッシュバック的に伏線映像をもう一回出してくれる新説設計で説明台詞はかなり丁寧、演技も演出も脚本もザ・シンプルだがなかなか怖く観られるのは認知症に伴う現実崩壊の恐怖が、そうしたテレビ的な見せすぎるところは見せすぎつつ見せないところは徹底して見せない(レイティング的に見せられない)作りによって真に迫ったものとなっているからだろう。
オチも厭な後味が残って良かったですよ。これもテレビ映画ですけど家ホラーのカルト作『地下室の魔物』をちょっとだけ彷彿とさせたりもしたな。住居とか家族を題材にしたアメリカの劇場用ホラー映画ってなんか最近A24とジェームズ・ワンのせいで(要出典)無駄にイイ話だったり無駄に重い話だったりになりがちですけど、これはランタイムも90分に満たない潔さだしサクッと軽い。でもだからこそ映像にならないエグさがあって、そういうのがあるとどんなに安っぽくてもホラー映画観たな~って思いますよ。その感じ、ホラー映画に大事だと思うな。
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かわいいよねグルート。なぜグルートなのかというのは観ればわかります。
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