《推定睡眠時間:0分》
いや怖かったよこれ! まぁ冒頭から登場人物の一人のババァが聖書っぽいのを読み上げてるし書いていいでしょって思うんですけど(それもネタバレだと感じるやつはこっから先は読まない方がいいぞ!)悪魔っぽいものが田舎の農家で悪さをする映画なんですけど、悪魔って言われても俺含めてキリスト教をガワだけしか知らない大抵の日本人はピンと来ないわけじゃないですか! 悪魔って言われてもねぇそもそもイエス様のえらさだってよくわからんしねぇみたいな! 俺もそう思うんですけどこれは悪魔っていってもスピリチュアルな感じの登場人物が勝手にそう言ってるだけで正体は実はよくわかんない! だから怖いよね!『死霊館』シリーズみたいに悪魔がもっと自己アピールをしてくればあーはいはい悪魔さんですねって悪い意味で腑に落ちる感じがありますけど腑に落ちないんですよこの映画は!
確かに悪魔っぽいけど! こう、色んな嫌がらせをしてくる! 消した電気をいちいちつけるとか閉めた扉をいちいち開けるとか! 地味にかなり厭! それからあの手この手で人を惑わせる! もうね悪魔っぽい何かだから人にトラウマ的幻影を見せることぐらいお茶の子さいさいですよ! 追い込まれるな~! これは追い込まれますよ舞台だって周辺に隣家のないテキサスど田舎の木造農家とかでしょ~! 電波もあんま飛んでないっぽいからツイッターで文句言うとかできないしね~! それでこの悪魔っぽい何かはそうやって人を追い込んで自傷行為をさせる! 結構序盤からヒエ~ってシーンがあってそれはですね、う~ん、これは言わないでおこうか! とにかく、あれは痛い自傷でした!
怖い映画だから無駄にビックリマークを連打してしまう。いやぼくも大人ですから何も家まで悪魔っぽいのついてくるんじゃないかとかそんなこと思いませんし怖いからビックリマークを連打してるんじゃなくて面白い映画だから観てない人は観てくれみたいなそういう意味でのビックリマーク連打なわけですがただあれだね、この内容はビックリマークを連打する感じではまったくないね。怖いシーンの半分くらいは自傷っていう映画だもんこれ。
やっぱ自傷っていうのがポイントだよな。なんかそう書くと自傷を推してるみたいで語弊がありますが自傷は超よくないですから自傷したくなったらちゃんと近所のメンタルクリニックに行った方が絶対にいいんですがこれはぼくときみとの約束ですがいやだから逆にっていうかさ、この悪魔っぽいのは直接殴ってこないところが卑劣で怖いんだよな。スーパーナチュラルなアタックは全然してこないんですよ。とにかく自傷一本槍で人を殺す。自分で自分を殺させる。そうなってくるともうさ、その悪魔っぽいのって本当に実在するの…? それあなたの幻覚とかじゃないんですか…? みたいな感じになってくるじゃないですか。で、繰り返しになりますけどそれがよくわかんないっていう、そこがイイんですよね~実に気持ち悪くてさ~。
一応あらすじとか書いときます? あらすじったってあってないようなものですけど、まぁとりあえず書いておくと、これはですね流行りの家族ホラーの一種でした。A24が『ヘレディタリー』とか『イット・カムズ・アット・ナイト』とか『ウィッチ』とか家庭不和ものの面白いホラーをヘタに何本も作ってしまったせいで目下の所アメリカン・ホラー業界のミニブームとなっている(家の外で起こるホラーが好きな俺として大いに不満だが!)家族ホラーですが、『ダーク・アンド・ウィケッド』はその中でも「家族」よりも「ホラー」に比重が置かれた映画で、ある意味で今日の家族ホラーの原点とも言える『エクソシスト』みたいなところがちょっとある(『エクソシスト2』『エクソシスト3』っぽいシーンもある)。
なんかですね例のテキサスど田舎の農家に寝たきりの夫とまだ動けてる妻の老夫婦が住んでるんです。で妻の方は家の外からやってくる(と少なくともこの人は思ってる)何かにとても怯えていて、その何かが今にも夫の魂を抜くんじゃねぇか抜くんじゃねぇかと気が気でない。何かっていうのが悪魔っぽいものであることはもうバラしてしまったが、まぁとにかくそういうわけでかなり限界状況。そこになぜか来るなと電話で言ったはずの息子と娘が来てしまって、惨劇が幕を開けるとこういう次第。
そういうストーリーはありますけどこれはでもストーリー展開がどうこうっていう映画ではあんまりない。とにかく最初から最後まで状況が一切好転しないでひたすらネガティブの坂を転がり落ちていくだけなのでその潔さは素晴らしいも単調といえば単調で、ただそれがかなり怖く面白く観られるのは繊細な恐怖演出のおかげ。田舎の木造家屋のミシミシいう床の軋みとかさ、怨霊の叫びみたいな風の音とかさ、寝たきりの老父が咳き込む音とか、静寂を切り裂く電話のベルとか、薄暗い中でタンタンって音を響かせながら野菜を切る老母の背中とか、何に怯えたのか一斉に駆け出す家畜の山羊とか…ひとつひとつは単なる田舎の生活音とか生活風景なんですけど、そのありふれたものを使ったムード醸成が上手いんだよな。
ありふれた光景でムードを作っておいてそこに不意にありふれてないものが闖入するっていう恐怖シーンを重ねていく作りで、ここがまたよくできてるなぁって思うのはそういうのって久しぶりに実家に戻った時に感じる居心地の悪さとかだったり、しばらく見ない間にすっかり老いて違う世界に片足を突っ込みかけてる両親を見た時の厭さのホラー映画的な表現だったりもする。だから家族ホラーとしてもかなりレベルが高くて、現代社会において家族っていう集団が持つわりと普遍的な恐怖に触れているっていうか、たとえば寝たきりの老父が体現する「死」っていうもの…現代社会って死を病院とかの専門領域に押し込んで日常の中では見えなくしてしまいますけど、田舎の実家っていう場は日常の中で人が直接的に死と対面せざるを得ないある種の穢れた場になるんですよね。そういうのを描く。だから本当にもう…他人事じゃなくて厭な気分になる!
この書き方だとなんか観念的な雰囲気ホラーっぽく読めてしまうかもしれませんしストーリーがどうこういう映画じゃないとか自分でも書いてしまったが、実は終盤の展開に関わる伏線は比較的明瞭な形で序盤から引かれていて、最後は結構唐突に終わってしまうのだがその終わり方の意味は伏線をたぐり寄せれば明らかになるっていう少しだけ頭を使うどんでん返しの仕掛けがあるからシナリオもよく練られている。なんとな~くこの部分を見過ごして雰囲気ホラー認定を下す粗忽なお客さんもそこそこいるんじゃないかな~と思うのでそういう人のためにささやかなヒントを書いておくと、そうだなぁ、これはつまりなんの話かと言うと、死から隔離された死耐性のない現代人が家族の死とどう向き合うか、向き合えるかというお話で、あのラストはその一つの解を示したものなわけです。
トライバルなドラムが印象的な音楽も怖いしボロ家の美術は死臭を放って嫌悪感があるし長女のマリン・アイルランドのお芝居も痛々しくて観てるこっちのメンタルゲージをすり減らすし! 家族ホラーとかつまんねぇなっていつも思ってますがこれはわりと文句なしに面白かったです。
【ママー!これ買ってー!】
音の設計とかシナリオとか結構『サイレントヒル2』っぽい。映画版じゃなくて原作ゲームの方の。
サイレントヒルっぽい劇伴わかります!
ただ自分的には雰囲気ホラーの域を出なくて(途中寝ちゃってたのもあって)終わり方も唐突だなって思ってたんですけど、どのあたりが伏線になってるんですか?
それはここに書くとネタバレっぽくなるので、フィルマークスの方にネタバレ解釈を書いてますので、よろしければそちらをどうぞ!
https://filmarks.com/movies/93665/reviews/123603119