『ゴアフェス Vol.2 〜ゴー・ビヨンド〜』雑感(感想と思い出語り4本)

池袋の老舗名画座・新文芸坐といえばサブカル色の強い攻めたオールナイトが売りの一つだが、その新たな(諸事情により継続が怪しくなってそうな秘宝系ホラー映画オールナイトに代わる)ホラー映画オールナイトの名物企画になりそうなのがこのゴアフェス、普通は映画館ではかかったりしない世界中の自主製作ゴア映画なんかを集めて深夜のスクリーンを血と臓物で染めちゃおうじゃねぇのよという誠に健全かつお行儀の良い企画です。

ぶっちゃけ俺はゴアにはそんなに興味はなくて、ホラーは好きだから日本未公開のホラー映画をオールナイトでやるなんつったら観に行きますけど、血がドバァとか臓物グチャアとかそういう描写を観て「おおっ!」ってなったりとかしない。ホラー映画なら人は多く死んで欲しいですが人が死なないホラー映画も別に嫌いではないし、人が死ぬ場合でも淡泊に死んでもらって全然構わないっていうか、なんかとりあえずスクリーンのこっち側の現実世界とは別のもの見せてくれたらなんでもいいですよぐらいな感じある。

低いでしょ、温度。でも大丈夫ちゃんと楽しみましたから。おれ温度の低いホラー映画好きなんでこれが平常値なんで。だいたいインディーズ映画なんか温度を上げると逆に楽しめませんしね。なんだかんだ次回もやったら行きますよがんばれってことで温度低く上映作品4本の感想。ゴア監督たちの自主精神に倣ってこちらも読んでる人の目など一切気にせず自分の思ったことをただつらつらと書き連ねる自主感想で行きたいと思います。

『バーニング・ムーン』(1992)

てっきり観たと思ったけど観てなかった。俺の世代っていうか学校的にはこの監督オラフ・イッテンバッハといえばなんといっても『新ゾンビ』の人で、ちょっとチャリを走らせたところにあるビデオ屋のホラーコーナーに『新ゾンビ』の派手なビデオジャケットが面陳されてたことを覚えてる。表より裏ジャケットの血まみれでチェーンソーを振りかざすスーツのオッサンの姿がインパクト大だった。それを知ってあの映画はヤバそうだぜみたいなことを学校で言うスクールカースト低めの男子がいて、それでそいつと別の戦隊ヒーローマニアのやつと一緒に借りに行って、で三人で俺の部屋に戻って『カーレンジャー』とかのビデオと『新ゾンビ』観たんじゃないかなぁ。

俺はその当時まだ本格的に映画を観るようにはなってなかったんですけどそれからそのビデオ屋にはたまに行くようになったから、脳内で映画の面白さが爆発するのはその数年後に観た『ロスト・ハイウェイ』と『アタック・オブ・ザ・キラートマト』と『肉弾』とかそのへんなんですけど、わりと映画好きになるきっかけのきっかけみたいな映画ってことで『新ゾンビ』は単なるゴアゾンビじゃなくてちょっとだけ特別なポジションなんですよね、俺の中で。だからと言って好きな映画というわけでは別になく、その時の『新ゾンビ』の感想としては「やたら風呂敷広げるわりにはダラダラしてんな~」みたいな。たぶんこれは今観てもあんま変わらないんだろうなっていうのは『バーニング・ムーン』もそんな印象だったことが裏打ちしてます。

でもつまんない映画ではぜんぜんない。オラフ・イッテンバッハという監督の映画を俺は熱心には追いかけてないですけど、それでもまぁ個性の強い人だからイッテンバッハといえばこれみたいな要素がいくつかあって、その中でも大きなものは家族破壊と地獄絵図。この二本が『バーニング・ムーン』は全開。とくに後者は和製アングラゴアの『ラッキー・スカイ・ダイアモンド』とかを彷彿とさせるような見世物小屋的な幻想ゴア地獄で素晴らしい。それを観るためだけの…と言ってもまぁ過言ではない映画かもしれませんが、ただちょっとだけ補足しておきたいのはこれストーリーなんかゴアシーンの繋ぎとしてあるだけみたいな一見どうでもいい感じですけど、世の中に居場所を無くしたイッテンバッハ本人が演じる不良が絶望した脳みそを抱えたままドラッグ打って見た死と破壊のビジョンていう体のシナリオで、何も考えてないようでいてそこはちゃんと映像作家として作品を作ってるんですよね。だからそういうところも結構面白くて…ダラダラしてんな~とは思うんですけど、イイ映画なんですよ。

『キャット・シック・ブルース』(2015)

監督によれば三池崇史の名古屋カルト映画『牛頭』の影響を受けたとのことで笑えるというよりも困惑させられるシュールなユーモアと容赦ないゴア&殺人のカオティックな融合は確かに『牛頭』っぽいし陰惨な殺人劇に底流する詩情がラストで一気に噴出して泣かせる構成も『牛頭』、というよりは『牛頭』と同じく海外で人気の高い三池カルトの『殺し屋1』を思わせたりする。殺人鬼のルックスもどことなく『殺し屋1』だし愛猫を失った泣き虫殺人鬼とファンを自称する男に愛猫を殺され自分は強姦された猫ユーチューバーの女の対決の図式にも『殺し屋1』のマゾヤクザと泣き虫サド殺し屋の関係性が下に透けて見えるので、『殺し屋1』の影響もかなり強いんじゃないだろうか。妄想と現実が交錯するあたりも似てるし。

人が死にまくるイイ映画だがゴア映画かというと実は結構微妙なラインで、決してゴア描写に手を抜いているわけではないのだがゴアが見せ場になる映画というよりもこれはストーリーが面白い映画で、その一部として激しいゴア描写を導入しているように見える。どういうストーリーか。これはなかなか説明の仕方が難しいので俺の解釈でざっくりまとめちゃうと、猫ユーチューバーの罪悪感が生み出した妄想の話なんじゃないかな、やっぱり。最初のシーンで猫ユーチューブを見てた人が「つまんねー笑」って言ってたら猫殺人鬼に殺されちゃうでしょ。あれは猫をダシにしてセレブユーチューバーになったものの最近は飽きられてきて焦りと苛立ちを感じてる女主人公の心象風景だと思うんですよね。

だから猫殺人鬼は女主人公の妄想の中の存在で、女主人公がファンに強姦されてそのビデオがネットに流出しちゃうのは今まで自分が愛猫を見世物にしてネットでやってきたことを今度は自分が体験するっていうこれも妄想で、じゃあ何が現実に起こったのかっていうと、愛猫は死んじゃったのかもしんないね。それはもしかしたら具体的な死じゃなくて抽象的な意味での死で、昔は愛猫と損得勘定抜きで楽しく暮らしてたのに、いつしか愛猫をネットでイイねを稼ぐための道具としか捉えなくなってしまって、愛猫との絆を自分から一方的に断ち切ってしまったことに気付いた時に感じる取り返しのつかない「死」。

えー繰り返しますがこれはあくまでも俺の雑な解釈でしかないので、なんかそのうち日本でもソフト出るみたいですから、これはゴアとかホラー好きはもちろんのこと猫好きとかポエティックな映画が好きな人にも見てもらって、各々自分の眼と脳で解釈してみてくださいって感じっすね。これは面白い映画、よくできた映画、痛ましくて不愉快でコミカルで残酷な叙情の映画。

『ダード・ディボース』(2007)

イッテンバッハ映画なのにストーリーがしっかりしていることを肯定的に受け止めるか否定的に受け止めるかで評価が割れそうな映画で、俺はどちらかといえば後者なのでこれはぶっちゃけ寝た。家族破壊も地獄絵図も出てきますけどまぁ洗練されちゃって『バーニング・ムーン』とかのパッションはないよな。巧くなったとも言えますけど、サスペンスVシネの大枠に豪華なゴア描写をソーセージみたいに詰め込んだだけの映画とも言えるので、商品としては完成されていてもゴア作家の作品としてあまり面白いものではない。でもゴア描写そのものを楽しみたいんだというゴアファンには逆にウケがいいのかもしれないなこういうのは。ゴアの起承転結があるというか、『新ゾンビ』とかみたいに一気にゴアが押し寄せる感じじゃなくて順番に色んなゴアが来るんですよね。コース料理型ゴア、とでも言おうか…。

『バイオレント・シット 残虐!地獄の鉄仮面軍団』(1999)

作を重ねるごとに巧くなっていくイッテンバッハに対して何作撮っても全然巧くならないジャーマン・ゴアの代表監督といえばアンドレアス・シュナース! シュナースは思い入れあるなー。例の『新ゾンビ』のビデオ屋にシュナースの『ゾンビ2001:ザ・バトルロワイヤル』っていうのが置いてあったんですよ。でこれがR-15。俺の記憶では『新ゾンビ』のビデオにはそんなシール貼ってなかったし中一でも普通に借りられたわけだから『新ゾンビ』は年齢指定がなかった。ってことは『ゾンビ2001:ザ・バトルロワイヤル』、『新ゾンビ』よりも過激な超やべぇ映画じゃん…って思うよね。借りたよ親のカード使うとかなんか裏道使って。観たよ。超クソだったよ。ゾンビとされるマネキンがマネキンを隠せてないからチェーンソーで切るシーンで白い粉みたいの上がってたよ。俺激震。これはトークショーでも誰かが言っていたが、こんなクソみたいなものが海を渡って極東の冴えない中学生に届いたのかっていう…なにか世界の広さと人生の可能性に触れた気がしたんだよいやマジで!

本当にもうシュナースは撮影がとにかくダメだし編集もダメだしシナリオもダメだし演出もダメだし、ゴア描写はあるけどゴア技術は『ゾンビ2001:ザ・バトルロワイヤル』の頃はまだ無いからコンドームに血糊入れたやつみたいな内蔵をただ引っ張ったりなんかしてるだけのショットを延々やったりしてつまんなくて…まぁだから今までに観たことのないその酷さに世界が変わるぐらい衝撃を受けたわけですけど、それで同じ監督とは知らずに悪名高い当時のアルバトロスによって『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のパチモノ扱いでリリースされたこの映画『バイオレント・シット 残虐!地獄の鉄仮面軍団』、当時のビデオ題『悪魔のえじき ブルータル・デビル・プロジェクト』を借りてきたらアッ!!!! シュ、シュ、シュナース!!!! 確かに技術的には相変わらずのへっぽこだがびっくりしたね、あまりの面白さに。

あのシュナースが、あのシュナースでも、あのシュナースなのに面白い映画を作っている…この二度目のシュナース的転回によっていつか映画監督になってやろうと密かに思い始めたので、どんなにクソみたいな映画でも人の一生を左右することがある。イイ話でしょ? どうなんでしょうね、もしシュナースの映画を一本も観たことのない人がこの思い出語りを読んだらやっぱ「シュナースの映画ってすごいんだなー」って思うんですかね。だとしたらごめんいやマジでシュナース映画はクソだから信じられないレベルのクソ。これは違うけどね。『バイオレント・シット 残虐!地獄の鉄仮面軍団』はクソはクソでもクソを投げる奇祭みたいな感じなので楽しいですがただまぁそれも普通の映画と比べてじゃなくてシュナースの初期作と比べてなのでまぁあれだよそこらへんは察せ。

でも、見直して気付いたのは、これってたぶん『モータル・コンバット』(ゲームの方)をシュナースなりに映画化した作品なんですよね。残酷すぎて笑っちゃう陽気なゴア描写とかニンジャとのカンフーバトルとか、あとブーメランギロチンとかさ。脊髄抜きだってあるわけだし。そう考えると案外ちゃんと作られてて、むしろ『モータル・コンバット』の自主映画化版としてはかなり再現度高ぇなって感じになる。これは人生三度目のシュナース的転回なのだろうか。さておき、何度観てもやっぱりたのしい『バイオレント・シット 残虐!地獄の鉄仮面軍団』なのでした。

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