2021年映画これ面白かったベスト10!

最近よく思うのは新コロのせいもかなりあるんでしょうけど世界的に映画が内向き志向っぽくなってるなぁっていうことで、『ドライブ・マイ・カー』の欧米での絶賛ムードっていうのもあれが本質的には外を向いていない、内を向いているんだけれどもそこに限定された多様性を見出すことである種のエクスキューズになっている、根源的な他者は視界から追い出す代わりに…なんでそんな話になってるんだよ新年早々はいみなさんあけましておめでとうございます死ね! うそうそ死なないでいいからねウンコ踏むぐらいでいいですからウンコぐらいは踏め! でも最近、道端にウンコ落ちてないですよねぇ…見た目だけ綺麗になったもんだよ世の中も! けっ!

まぁそういうわけで(?)2021年に映画館で観た映画の面白かったやつマイベスト10のコーナーなわけですがあれだねなんか意識してそうなったわけじゃないんですけど最初に20本ぐらい選んでそっから削って10本にしたら結構ワールドワイドな感じになった。それは俺なりにそういうことなのかなっていうのはあって、映画を観る楽しさの一つに普段自分が触れる日常とは全く異なる世界や論理に触れることっていうのは間違いなくあるじゃないですか。映画の創始者(の一人というか二人)リュミエール兄弟も最初に何をやったって色んな場所の記録映画を撮って興行の売り物にしてた。映画って旅行の代わりだったんですよね、最初は。

なんかね、知らない世界を観るっていう映画のそういう原初的な面白さをどこにも行けないコロナ禍だから逆に求めてたのかもしれないって思った。それは俺の場合で世の中的にはたぶん逆なんでしょうね。自分の知った物語とか知った光景とか共感できるもの安心できるものをコロナ禍だからこそみんな映画に求めてそれで『鬼滅の刃』とか『呪術廻戦』とかがアホみたいに売れたんじゃないすか。こんなものは文化の退行現象であって誇れるところは一つもないばかりかむしろ恥ずべはいはいはい腐しタイム終わり腐しタイム終わり腐し終わりあけましておめでとうございます! ございます!!! じゃあベスト10短評をどうぞ!!!!

※タイトルのリンクを踏むと観た時に書いた感想に飛びます

2022/01/05 追記:
ベストに入れられなかったけど超よかった映画残り10本(+1本)を足してランキング形式にした完全版をnote有料記事で公開しました!『2021年この映画を観てくれベスト20』良かったら買って下さいね☆

熱量ベスト『ジャスト6.5 闘いの証』

イランの刑事映画ですけどいやこれがすげーんだわ『ダーティハリー』とか『フレンチ・コネクション』とか70年代のニューシネマ系刑事ドラマを彷彿とさせる荒々しさで人が画面からツバと汗が飛んできそうなほど登場人物たちが怒鳴りっぱなし走りっぱなしキレっぱなし嘆きっぱなし! だがその背景にある警察や司法の慢性的な腐敗こそがこの映画の真に描くもので、個人がどんなに悪を成そうが善を成そうが腐敗したシステムの前では何の意味もないという冷徹な対比が、その絶望的な社会批判が、たいへんな徒労感を伴って迫ってくるというのがこの映画のすごいところなのだ。

戦慄ベスト『アイダよ、何処へ?』

ボスニア紛争の最中1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を題材にした…と言われてもまるでピンと来ないが、ピンと来ないからこそ自身もボスニア紛争サバイバーであるヤスミラ・ジュバニッチ監督はこの映画を撮り上げたのだろう。お前らがよその国の出来事だからと知らぬ存ぜぬを決め込んだおかげで何人死んだと思っとんねんてなもんで映画に込められた怨念たるや凄まじい、直接的な暴力描写はごく僅かだが、画面に漂う暴力の空気はむしろ作り物として暴力描写やゴア描写よりも恐ろしく、刻々と情勢が悪化し避けられない虐殺へと向かっていくサマは思わず目を背けたくなるほどだ。スレブレニツァの虐殺の首謀者の終身刑が確定したのは去年2021年のこと。虐殺は今もボスニア・ヘルツェゴビナ社会に重い影を落としており、「私たちは忘れない」を強烈に印象付けるトラウマ的ラストは、映画を超えてこの作品を虐殺の慰霊碑のようにしている。

終末ベスト『グリーンランド ―地球最後の2日間―』

隕石が落ちてきて世界が滅亡する映画ではネットフリックス映画の『ドント・ルック・アップ』が最近話題になったが俺としてはこっちを推す。よくあるディザスター映画と言ってしまえばそれまでだが、よくあるやつでも細部を徹底して詰めればここまで面白くなるのかという驚きは、むしろ王道だからこそ大きい。もちろんこの映画を新型コロナ禍の映画的表現として解釈することも『ドント・ルック・アップ』同様に可能で、日常と非日常が奇妙に同居する中で刻々と最期の時が迫ってくる独特の緊張感は新型コロナ禍の経験がもたらしたものとも言える。貧乏アパートの屋上で隕石落下をまるで花火にように眺めて酒宴に興じる貧困層を肯定するでもなく否定するでもなくただ終末の一風景として捉えたシーンは、奇妙にリアルで美しい。

衝撃ベスト『JUNK HEAD』

これはびっくりしたなー。「一人で作った」という触れ込みは配給会社の誇張で実際は数人のチームで作ったストップモーション・アニメですけど、まぁでもチームっていうのは技術的なサポートでクリエイティブ面では監督・堀貴秀の一人映画と言ってもまぁまぁ差し支えない。その脳内を開陳したのがこの映画という感じなのですがー、いやー、美術・世界観の作り込みが尋常じゃない! ただでさえ手間のかかるストップモーション・アニメをたった数人のチームで、しかも基になった冒頭10分はすべて映画制作経験のとくにない監督が一人で作ったというのだからどうかしているとしか言いようがないだろこんなものは。それでいて独りよがりなアウトサイダー・アートとかではなく笑えてハラハラしてちょっとだけ泣けるような一大エンタメSF巨編という…色んな意味で規格外すぎる映画だと思う。2021年の邦画では一番の衝撃作だった。

豊穣ベスト『ほんとうのピノッキオ』

美術がすごい映画といえばこの映画の美術には感動した。イタリア映画人の職人魂を久々にストレートに見せつけられた感じで、とにかく絵で見せるというのを徹底してる。カメラワークとか雰囲気で誤魔化したりは決してしない。人間カタツムリも巡業人形小屋もお屋敷の廃墟もものすごい職人仕事で全部作っちゃうし全部見せる。なんでもないエキストラでも汚しのメイクをしっかりつけておとぎ話の世界を再現するのだからその異世界っぷりには陶酔させられる。特殊メイクとCGの融合も異世界の表現という意味ではハリウッド映画よりも素晴らしく、おとぎ話らしい不条理や死の雰囲気にあふれたストーリーも最高。

唯一無二ベスト『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』

地下鉄サリン事件被害者の監督が奇しくも同郷だったオウムの後継団体アレフの広報担当・荒木浩と里帰りの旅に出るという掟破りのドキュメンタリー、と聞けばなにやら火花がバチバチしてそうなイメージもあるが実際に観ると拍子抜けののんびり映画。二人でユニクロに行って年中同じ服を着てる荒木に新しい服を買ってやったりしますなにその平和感。しかしのんびりとしているからこそ逆説的に地下鉄サリンの過去と責任がそこに重くのしかかる。アレフは今でも麻原を崇拝しているので荒木は今一つ地下鉄サリンの責任を認めきれない。一方監督の方も直接責めるべき相手を(既に林郁夫を除いて首謀者・実行犯は死刑になったので)失って怒りや悲しみの感情のやり場がないようなところがある。そんな中で監督はどうにか荒木をアレフから脱退させようと旅の折々でマインドコントロール崩しを仕掛けていく。荒木を還俗させることができれば自分にとっても荒木にとっても救いになると監督は考えているように見えるが、一方で荒木の方は信仰を捨てればオウムで生きた十数年間をすべてドブに捨てることになるからそう簡単に還俗ができない。のんびりした映画と見えて、その水面下ではものすごい精神の格闘が繰り広げられている、静かに凄まじい映画なのだ。

極私的ベスト『水俣曼荼羅』

『ゆきゆきて、神軍』の原一男が実に15年もの歳月を費やして水俣病とその患者(未認定患者含む)の現在をカメラに収めた上映時間6時間超のドキュメンタリー超大作。曼荼羅の名は伊達ではなく水俣病に関わる職業も立場も性格も生活水準もまったく異なる実に多彩な人々が時に繋がり時に対立し時に妥協し時に不平不満を爆発させて織りなす水俣人生模様は筆舌に尽くしがたいものがあるが、「水俣病」のテーマに還元されることない個々の人生の浮き沈みや哀歓を捉えることで、ユーモアとヒューマニズムあふれる普遍的な人間賛歌になっている点がまったく素晴らしい。原一男はニュージャーナリズム系の人なので考証よりも現場での取材を優先しており、したがってこれ一本観れば水俣病のすべてがわかるという作りには全然なっていない。科学的なミスリードないし先走りと見える箇所もある。それでもというか、だからこそというか、原一男がその目で見て共に過ごした水俣の15年の記録は、比類なき価値を持つのではないかと思う。本人曰くこの映画は「水俣病映画の中継ぎ」。水俣映画の完結編を撮る人が出てきて欲しいとのことなので、俺は見てるからみんな頑張れ。

不安ベスト『海辺の彼女たち』

失踪技能実習生の旅路をダルデンヌ兄弟風のドキュメンタリータッチで綴ったサスペンスドラマ。逃走の過程と辿り着いた先で彼女たちの身に降りかかる出来事は悲惨だとしてもドラマチックなものではなくごくありふれたものなのだが、それも当事者の目からすれば予期せずして降りかかる理不尽な罰であり、そこから眺める日本は言葉も通じず文化もわからず誰に頼っていいのかも誰を信じたらいいのかもどこに逃げ込んだらいいのかもわからない完全な異国。外国の人にしてみれば日本こそが外国なのだ、という当たり前だが日本に住んでいる人間には中々気付けないこの事実を『海辺の彼女たち』は失踪技能実習生の目線から日本を捉えることで観客に突きつける。その不安たるや、不安の中に一筋の光のように入り込む詩情たるや、無上のもの。

構築度ベスト『ドライブ・マイ・カー』

公開当初は三時間もあるしなんか俺に合わなそうだしって思ってスルーしてたところ海外での受賞ラッシュ等々で確変状態で入ってしまいこれは絶対ムカつくやつと判断しめちゃくちゃに貶すつもりで観に行ったら確かに受賞ラッシュが巻き起こるだけのことはあるなと説き伏されてしまった。俺はこの映画っていうかこの映画の評価のされかたみたいのには文句もあって、それは観た時の感想文の方に書いたので暇で死ぬか殺すかもしくは全身液状化するしかない人はそっち読んでくださいなんですけど、まーあここまで微に入り細を穿って練られた映画、一つの台詞に三つぐらいの意味を含ませる多声的で重層的な構造を持った一分の隙もない映画というのもそうそうない。車のエンジン音を核にした効果音の演出や独特の間を持ったダイアローグも素晴らしく、2021年の公開作では世界的に見ても屈指の完成度を誇る一作じゃないかと思う。

自由ベスト『クレイジー・ワールド』

自由に好きなことをやればいいじゃない、どうせ作り物の映画なんだし。考えてみれば当たり前のことをとかく先進国と呼ばれる国の映画の作り手は忘れがちであり、観客もまた枠にはまった映画体験をそれこそが映画体験なのだと転倒した考えを抱いているが、世界がクレイジーであるように映画もまたクレイジーであることをこのウガンダの超低予算ご近所映画は全力の路地裏アクションと世界スケールの爆笑で教えてくれる。いやもうすごいよなんですかこれは、VJエミーなる謎の人物がハイテンション実況解説をしながら進行するだけでも我々基準では規格外なのに、確信犯的なチープCGで色々爆破しまくる爆発的演出、撮影技術が伴ってないだけでアクション的にはかなり本格派のカンフーの連続、ドリフみたいなギャグのつるべ打ちにすごい映画もあるもんだな~と思っていると突如海賊盤警察が画面をジャック! 海賊盤でこの映画を観ている不届き者を撃ち殺すべくダンボールで作ったロボ海賊盤コップを世界中に派遣したところ現地の海賊盤ユーザーにDVDとかフランスパンを投げられて対海賊盤戦闘ヘリ撃破爆発! 「貴様! 海賊盤ユーザーだな! 」「いや、私はこの映画の監督のナブワナという者で――」「逮捕だ! 処刑だ!」「そんな!」なんなんだこの寸劇は最高! 爆笑!

自由だわー。ウガンダ映画自由だわー。でもその自由な遊びっぷりは夢を壊すようであれなのですが周到に計算されたもので、注意深く見ていけば破天荒な筋書きやギャグの一つ一つにウガンダの社会問題が時に諷刺的に時に教訓的に込められていることがわかりますし、同じナブワナ監督の『バッド・ブラック』では路上で寝転んでる人に対してVJエミーの「死んでいるのか? まぁウガンダだしな!」の破壊的自虐ジョークが入るようにこのポンコツ・フリーダムな笑いが世界市場を明確に意識したものであることもわかる、VJエミーの実況にしたって一つには教育を受けていない子供にも映画を楽しんでもらうため(ナブワナ監督の初期作ではVJエミーが活動弁士のようにリアル実況解説を付けて貧困層の子供たちに映画を見せていた)、一つにはアフリカの口承文化を映画に取り入れたものだったりする。

やってることはバカバカしくても作ってる方はバカじゃない。こういう映画を観ると先進国と呼ばれる国々で日々量産されている超大作映画の方がずっと映画的に貧しくてバカに思える。映画で何が語れるか、何を語るべきか、誰に向けてどのように語るのか。ここには映画草創期の作り手たちが持っていた情熱と実験精神と創意工夫がある。その奇想天外摩訶不思議っぷりに笑えて笑えて観終わった後は俺もいっちょなんかやってやるかって元気になる最高の映画なのでスパ必見オブザ2021!

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