未体験映画2022感想文『デモニック』ほか三本

先週あたりに疲れてきたので次からは本数減らして観たいやつだけ観ますと書いたんですが結局今週も四本でした。未体験ゾーン感想文その3ぐらいです。

『マーズ』

《推定睡眠時間:20分》

火星が舞台ですけど主人公一家が普通に外に出てブタとか飼ってたのでテラフォーミングできたんですねへーと思っていたら一家の親父が壁に書かれた「去れ!」の落書きにえらい気を尖らせてなんかご近所さんと揉めてるらしいんですけど銃を手に監視するようになってえーそんなに激しいご近所トラブルなの…? いったい何が起こってるの…? さっきまで平和そのものだったのに…という疑問の答えは書いてしまえば一応ネタバレになるだろう。一家のただ一人の幼い娘の視点で幕を開けるこの映画は人物ごとの章立て構成になっているので事態の全貌が明らかになるのは中盤以降、序盤は娘と観客が何が起こっているのかわからないことの不安を共有することになる。

ぶっちゃけ申して大したネタの映画ではないので事の次第がわかってもでしょうねぐらいな感じなのだが、火星の大地にふさわしく乾いたバイオレンスや火星ハウスのデザインがかっこいいのでどちらかと言えばそっちが見物。愛犬ロボットもクラシカルな造形と挙動も『サイレント・ランニング』を思わせてかわいいです。ソフィア・ブテラも母親役を演じてアクティブに動きつつも今までにない表情を見せる。オチにはいやもうちょっと捻りあれよって思いましたが。

『プロジェクト:ユリシーズ』

《推定睡眠時間:45分》

なんかこれも『マーズ』と同じようなっていうか、こっちは地球が舞台なんですけど環境破壊とかなんか適当な理由で地球すっかり終わってて、で金持ちは他の星に脱出したんですけどやっぱ地球が恋しいのか帰還計画が持ち上がって先発隊に続いて主人公の乗る第二陣数人が再び地球の地表に降り立った。これが物語の設定で、すごい壮大な感じですけど後は地球に残ってた荒廃貧民たちの暮らす廃船の中だけでお話が進むほぼ密室劇なので、眠いなぁこれも。

テイスト的にはユーモアのない『スノーピアサー』とか奇抜さのないアルトマン『クィンテット』みたいな。『マーズ』と同じく未来世界の美術はなかなか良く出来てますけど、シナリオに突出したところがなくて手垢の付いたいつもの終末未来&愚かな人々の諍いって感じで、それを興味深く見せるような笑いとか恐怖とか変キャラとかの工夫なり誤魔化しなりがないわけですから、真面目に作ってるのはわかるがそんなに面白くはなかった。でも干潟の映像とかはすげぇ綺麗に撮れててよかったです。

『デモニック』

《推定睡眠時間:5分》

たぶんこれが未体験ゾーン2022いちばんの目玉。濃いファンの多いニール・ブロムカンプ待望の新作長編映画でしかもジャンルがSF+オカルト。それにも関わらずなぜか一般劇場公開には回らなかったという事実が全てを物語っているので観に来られなかったブロムカンプのファンの人はそんなにガッカリしなくてきっと大丈夫。むしろ期待を胸に劇場に足を運んでガッカリするよりもレンタル開始を待って配信やらDVDやらであんまり期待せずに観た方が面白く観られるんじゃないだろうか。ガッカリとか書いちゃったよつい。

までも見所はかなりありましてこれまた大したネタでもないくせになかなかネタを明かさない系の筋運びに(いいよそういうの…)ってなるんですが、そんなストーリーのガッカリ感をカバーするのは仮想現実世界の奇抜な映像。ロトスコープとかで実写にデジタルの塗りをかけてるんですけどその表現がゲーム的なんですよね。廃墟に舞うホコリの過剰さとか、画一的な草木の揺れとか、劇的にして動きのない光の差し込みの…ゾッとさせられる非現実感。仮想世界全体が不気味の谷みたいなもんで、その表現力はさすがだと思う。

ただ問題はこの怖い仮想世界が最終的にあんまストーリーに関わって来なくて、この他にも「おおっ!」ってなるところはあるんですけど、それもあんまストーリーに関わって来なくてっていう…だからなんか、デモ版みたいな映画だと思ったな。もう少しシナリオを練っていれば傑作になってたような気もするので、もったいないなぁっていう感じの映画でしたね。あとこれ人の話をちゃんと聞かない登場人物多過ぎ。話を聞け。

『ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス』

《推定睡眠時間:0分》

第一次世界大戦下のハンガリー。白兵戦で大砲を食らって死んだかと思われた兵士が謎の少女のお導きで奇跡的に生還。復員した彼は遺体写真家として各地を巡業していたのだが、訪れた村であの少女を発見する。ところでこの村は毎日が『死霊館』という静かにして賑やかな一大怨霊地。あまりにも心霊現象が多発するので村人らは「戦争とかスペイン風邪でたくさん死んでるし、それに比べれば幽霊は危害を加えてこないから…」ともはや怖がることもない。よせばいいのに村に仕事場を構えた主人公はそこで壮絶な心霊現象と対峙することになるのであった。

コミカルなところは全然ないのに笑ってしまう。いくらなんでも心霊現象起こりすぎである。『死霊館』の脅かし悪魔とかこれを観た後ではなんて慎ましい悪魔なんだと思えてしまうほどで、場所を問わず昼夜も問わずもうひたすら心霊現象の嵐、不穏な影はあっちにもこっちにもたむろし寝ようと思えばドタバタと走り回る音と女の叫び声が響き渡りポルターガイスト現象は各戸で観測されグラモフォンには怨霊ボイスが録音され村人たちは宙に浮き壁にめりこみ謎の力に引きずられ尋常ならざる変形死体と化し建物は刺々しく形を変え壁からの謎の漏水で地盤沈下を起こして地面に埋没し昼は夜となり風は竜巻となり死体はゾンビとなって起き上がりって黙示録かよ! もうそこに住むのやめろよ無理だろ!

とにかくしっちゃかめっちゃかでストーリーなどあってないようなものだ。一応臨死体験をした主人公が「なんでお前だけ現世に戻れた~」って感じで霊たちの羨望もしくは恨みの的になっててそれで心霊現象激化みたいなことらしいが詳しいことは語られないのでよくわからん。最終的に何が解決したのかもよくわからないが(解決してない気がするが)、でもそれがむしろ独特の味わいになっていて良し、死体写真のモチーフと戦争のトラウマと土着の怪異がカオティックに入り乱れる一種のカーニバル文学的な映画として、案外近いのは『フルスタリョフ、車を!』とかではないかと思う。おもしろかった(あと冥界の活人画はアーティスティックでかっこいい)

【ママー!これ買ってー!】


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というわけでなにがなんだかよくわからんフルスタリョフを。

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