キラキラ珍味映画『君が落とした青空』感想文

《推定睡眠時間:0分》

まずタイトルがすごいでしょこれは『君が落とした青空』って! なにそのスケール感。ガンダムの宇宙世紀シリーズの最後の方に絶対あるだろそういうタイトルのシリアス回。戦争反対平和主義の男とジオン憎しで連邦に共鳴する男パイロットの幼馴染がいて故郷の町を守るためについに出撃した男パイロットの戦闘によって皮肉にも町は破壊され「君がッ! あの青空は君が落としたんだ!」「…空の向こうの宇宙では今も戦いが続いてる。あんなにも澄んだ青空の向こうで。君には見えないのだろうな」…みたいな! なんかそういう想像を掻き立てるタイトルですよねうんでも原作は知りませんが少なくともこの映画版に関して言えばとくに意味のない雰囲気タイトルなのであんまり青空も落ちるも関係なし! 潔い! 潔いよ! 雰囲気良ければなんでもよし! これぞキラキラって感じだよな!

だがその内容はキラキラ映画界の爛熟を感じさせるこれぞの王道に見せかけつつのキラキラアクロバティック! なにせこの主人公女子高生、現TOHOシンデレラ福本莉子だがこの人は映画が始まった時点で既に付き合っている設定! キラキラ映画といえば主人公が意中の人と付き合うことが物語の目的となるケースが99%であるからこれはもう異色中の異色! しかも付き合ってる彼(元ジャニーズJrの松田元太)とは一か月に一回ファーストデーにシネコンに映画を観に行く以外のデートは一切せずお互いの家に遊びに行ったりももちろんしない状態が2年続いているってなんだよその設定! 2年て! 名画座のロビーで情報交換してる映画マニアのオッサンじゃねぇかよそんなもん!

だが驚くべきはそれだけではない! この二人が付き合うきっかけになったのは「え? 映画好きなんですか? じゃあ、見たい映画がもし被ったら一緒に行きません?」「いいですよ、せーの…」ははは、もしここで幸福の科学映画のタイトルを二人同時に言ったら面白いですよねですが当然ながらそんなタイトルではなく二人が同時に言ったのは「『君の膵臓が食べたい』!」キラキラ映画で!? キラキラ映画の登場人物がキラキラ映画観に行くの!? なにそのゾンビ映画の登場人物がゾンビ映画を観てゾンビの行動を予測するみたいな自己言及性! これ初だろたぶんキラキラ映画で! キラキラ映画で映画デート行く時なんかだいたいなんかよくわからん洋画の恋愛ものとかだもん!

それでこいつらまた別のキラキラ映画もイオンシネマに観に行くんですけどそのポスターデザインがキラキラ時間SFの佳作『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のパロディなんだよ! この映画自体も時間SFだからオマージュなのかな! キラキラ映画って良くも悪くも若年層向けの即席娯楽だから普通映画オマージュとか出てこないんですけどこれはそのへん遠慮しないので他にも時計塔に落雷があって時間なぜか逆戻りといううーんそれはうーん『バック・トゥ・ザ・フューチャー』! 理科室の掃除シーンも出てきますが理科室といったらはいはい来ました『時をかける少女』ですよねってバカヤロウ!

そんな小ネタはどうでもいいんだがいやよくないんだがこれだけ小ネタ拾えるキラキラ映画というのもそうないからこちらとしても触れないわけにはいかないんだがとはいえそんなことばかり書いていてもしょうがないので感想的本筋に戻ろう。謎の映画館オンリー交際を始めて早2年。彼氏が別の女と一緒に外を歩いてたのを目撃したこともあってこのままでいいのかなーとブルーな主人公ちゃんは今日も朝から不機嫌で昨日の残りのカレーを「パンがよかったぁ!」とかいうテメェ高校生にもなって甘ったれてんじゃねぇよカレーは栄養もあるしスパイスで元気にもなるしあと付け合わせでサラダも作ったんだからせめてそれは食えよお前食わねぇから足も腕もガリガリじゃねぇか死ぬぞいざ災害などが襲ってきたらよくねぇだろそれじゃあよ! な理由でカレーを食わずに学校に行って(中略)映画館デートの帰りに信号を見ずに横断歩道を渡って冷蔵車に轢かれそうになった主人公ちゃんを助ける形で彼氏は轢死したわけですがそこで時計塔に落雷ドーン! で時間がバーン! 目が覚めたら再び同じ11月1日ファーストデー!

「またカレー?」鈍い主人公ちゃんは今日もお母さんの作ったカレーを食わずにいやだから食えっていうのカレー食ったところで轢かれても死ななくなるわけでもなかろうけれどもカレーとかそういうのをちゃんと毎日食べて肉と栄養をつけておけばそれは何かのときに役に立つから食えよお前弁当も食ってなかったじゃねぇかよこれあげるーとか言って! いいからお前は黙って飯を食って適正カロリーを摂れ! それはさておき朝のテレビで今日もまた11月1日のファーストデーであることを知った主人公ちゃんであったがそこで即「ループしてる…!?」とはならずに学校に行って午前の授業を終えたところでようやく「同じだ!」と気付くっておせーよ! 「彼を助けないと…映画館デートを断れば彼は死なない!」なんでだよ! 別に災害とかで死んだんじゃねぇよお前が信号無視して横断歩道を渡ろうとしたせいで助けに入った彼氏が死んだんだから横断歩道渡らなきゃいいだけだろ!

どうもこの主人公ちゃんは行動が無駄に迂遠なのだがただまぁその理由は最後まで見ればわかるからいいとしてもせっかく同じ一日を繰り返してるのに同じ一日で何をするかといえば普段あんまり聞けない男友達とか別クラスの彼氏と仲良い女子の本音を聞き出すだけで終わってしまってそりゃ同じ一日を何に使うかはあなたの自由ですけれどももうちょっとなんかあるんじゃないの!? その一日の無駄遣いを何回か繰り返して主人公ちゃんは悟りました。「ファーストデー以外にも映画には行けるよ!」いや他に悟ることあれや! 勇気を出して彼氏に投げかける台詞ゆえこれがもっとあなたのことが知りたいしコミュニケーションを深めたいですの意であることはわかっているがだとしてもファーストデー以外にも映画に行けることはみんな知ってるしなっていうかお前ら学割あるじゃん!

終盤で明かされる衝撃の真実のびっくりするほどのどうでもよさ、細かいことはエモで誤魔化すのであんまり筋が通らない脚本、恋のライバル女子のそのキメキメ化粧で学校来る女子高生はいねぇだろ的な韓国アイドル風メイク、TOHOシンデレラが主演で映画館にたくさん行くことを推奨するお話であることから拭っても拭い切れない映画館宣伝臭(しかし映画館ロケ地はイオンシネマ)、『君の膵臓が食べたい』と『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』を引用しているからかスペシャルサンクスにキラキラ映画界の巨匠二人、月川翔と三木孝浩の名前が挙がっているほか監督名のみなぜかローマ字表記という類例のないエンドロール、等々…ちゃんとした映画を観たい人にはおすすめできませんがキラキラ映画の楽しみ方さえわかっていればどこを食べてもおいしい珍味、なんじゃこりゃという面白い映画でしたなこれは。上映前予告とかも男性アイドル系の変なやつばっかりだし。知ってる?『東西ジャニーズJr. ぼくらのサバイバルウォーズ』って!

【ママー!これ買ってー!】


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邦画SFをけん引しているのはキラキラ映画だということがこの映画と『Orange』を観ればわかります。偉大なりキラキラ映画。

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暗面堕つつ
暗面堕つつ
2022年2月19日 11:46 PM

まるで別冊マーガレットで連載するかの如くキラキラ映画を監督していた月川翔先生はここ数年どうしたんですかね?
年2本ペースの量産体制で高品質な作品を産む稀有な存在が現れたと思ったのですが。先生、新作楽しみにしてます!笑