《推定睡眠時間:20分》
かなり重要なところで眠ってしまっているのでそこをキーに物語が進んでいくところの「ノオミ・ラパスが近所で見つけた男は本当に元ナチなのか?」がなんとわからないままエンディングを迎えてしまうという緊急事態に居眠り鑑賞のプロとして大いに焦ったものの「事件の細部はどうしたことか思い出せない…」というノオミ・ラパスの台詞をなぞるかのような核心不詳はむしろこの映画を観るに当たってはよかったのではないかと即座に思い直してもやもやを抱えたまま納得してしまったので人間のメンタルの可能性は無限大です。ちなみに事の真相は上映後に席を立とうとしたら近くに座ってた二人組マダムが話してたのを盗み聞きしたのでなんとなくわかりました。ありがとう知らない二人組マダム。
それにしてもでございますよ。ノオミ・ラパスがこの脚本をいたく気に入り(この人は毎回気に入ってる気がするが)製作総指揮としてもという触れ込みであったからさぞやノオミが暴れまくることであろうと思いきや! た…足りない! ノオミの暴走がちょっと足りないんじゃないかなこれは! たしかに! 公園で聞いた指笛の音色からこいつは十数年前に私と仲間たちを襲ったナチのあいつらに違いないと断定し拉致を実行に移すまでが異様に早いのはさすがノオミの暴走っぷりだし! そうして家に連れ帰ってきた近所の男をとりあえず地下に入れておいて夫が外出している隙にすかさず気迫拷問をかけるあたりもさすがなのだが!
これサスペンスですけどそれ以上に夫婦愛の映画っていう感じがあるのでハートウォームな感じでは別にないんですけど夫の存在がノオミの暴走にストップをかけてしまうんだよな。おもしろいよね、ノオミの拷問を知った夫が「俺がいない間に拷問するな!」って怒るの。いやどんな夫婦の会話だよ! 笑っちゃいますけどここでノオミ「ごめん勝手に拷問して…」って引き下がっちゃうからなぁ。どうせなら自分の行動に文句を言う夫も一緒に地下に監禁してしまえばいいしそれぐらいの暴走はノオミ的にデフォルトだろうと俺としては思うが! でもなんか、そういうことじゃないんだろうね。ちゃんとした大人のミステリー映画にしたいってことなんでしょう。
ミステリーとしてはそこまで小難しい理屈も驚くような飛躍もなくサスペンスとしてもぶっちゃけ演出は凡庸でつまらないわけではないがさほど面白いものでもない。それをある程度救っているのはやはりノオミ・ラパスの存在感で男の拉致&殺害を決意するや時間にしてものの数分で郊外ママさんから仕事人スタイルへ変貌を遂げまるで躊躇なく近所の男を一撃で仕留めて馴れた手つきで車のトランクに沈めるとかそのへんは心の中で歓声上がる。予期せぬ男の介入で夫婦仲がどう変化していくかに焦点を絞った脚本ゆえノオミと夫(クリス・メッシーナ)の出番は半々でノオミのスタア映画になっていないのは作り手とノオミの誠実さかもしれないが、でも誠実さをちょっとぐらい捨ててノオミの暴走をもっと見せた方が面白かったのにねぇ。俺はそれが観たかったからちょっと残念ですよ。
とはいえなんですけど、ビターな後味の夫婦ドラマとして観れば心理描写がやや足りないような気はするとしても悪い映画ではないし、だいたいノオミ・ラパスって『ミレニアム』でドラゴン・タトゥーの女を演じてハリウッドに出てくる前はこういう半径五メートル規模のご家庭ミステリー/サスペンスに好んで出る人だったんだよな。最近でも『アンストッパブル』とかはノオミらしい家族サスペンスの小品だったし、『マヤの秘密』もその系列に属する一本って感じです。
脚本を気に入ったというのはそういうテイストもあるだろうし、あとこれPTSDが題材になってる映画で、舞台設定が1960年代(ぐらい)のアメリカ郊外とかって結構凝ってるんですけど、なんでわざわざそんな昔かってPTSDが一般に認知されていない時代にそういう状態にあった人(これがノオミの役)が直面する無理解とかコミュニケーションの断絶を描くため。主人公のマヤはまたナチに襲われた過去とは別に複雑なバックボーンを持ってる人でもあるんでそのテーマ性とキャラクター設定は面白いよな。断絶を乗り越えるために夫は妻と共同で近所の男をどうにかしようとするっていうのもノワールみがあって渋いところ。だからこそ案外その掘り下げが浅い点がもったいなくも感じるわけですけど(でもこういう題材の映画なら「癒やし」に話を持って行くのが最近の風潮なのでそこに行かなかったのは立派)
まぁいいんじゃないすかこういうのも。二本立ての一本として新橋文化で観たらおおこれいいなってなってた感あるよ。そうね、名画座二本立てで観たい映画だねこれは。もしくはレンタル屋で何気なく借りたらかなり面白かったってパターン。二本立てとレンタルビデオ屋で輝く女優ノオミ・ラパス。いやこれは別にバカにしてるとかではなくてむしろリスペクトだから…。
【ママー!これ買ってー!】
それにしてもこの邦題、絶対こういうやつの方を連想するじゃん。こっちのマヤは全然関係なかったよ。
こんにちは。
え?足りない?ええー、指切り落としんですよおお!!
しかし、アメリカの中流家庭の地下室は、ほんと怖いですね。
https://eiga.com/amp/movie/79221/
失礼!
◯指切り落としてんですよ
でも夫に配慮して暴走を抑え気味だったじゃないですか!ノオミ・ラパスが本気で暴走したら指の一本や二本じゃ済まないですから!最初殺す寸前まで行ってたし!
それにしてもアメリカ人は地下室に人を監禁しすぎですよね笑