ゴアっとさわやか映画『真・事故物件/本当に怖い住民たち』感想文

《推定睡眠時間:0分》

元ネタというかイメージの借用程度なのだが藤沢悪魔祓いバラバラ殺人事件を基にした映画ということで俺がその事件を知った根本敬+村崎百郎の『電波系』を読み返してみたら記憶の中ではもう少し大きな扱いだったような気がしたものの実際には現代日本(当時)電波事件簿のコーナーで三面記事的に触れられているだけでこの本の意図はそこにあるのだが「そんなもん大した事件じゃないよ」とでも言わんばかり、まぁ確かに動機には理解しにくいものがあるとしても身内の殺人だし一人死んでるだけなのでそれに比べれば責任能力の明確な秋葉原無差別殺傷事件とかの方がよほど悪質かつおそろしい事件といえる。

信憑性は知らないが藤沢の場合は他人を地獄にたたき落とすために殺しまくった池田小の宅間とか秋葉原の加藤と違って殺された人(「悪魔からこの世を救う曲を作れるのはお前だけだ!」と犯人にしてバンドメンバーであった男から説得され救済曲を作曲していた)が自分に悪魔が憑いたから祓って欲しいと言い出したのが事の発端と言うからその方法はともかく本人を助けるためにやっているわけで、動機が電波系だからと猟奇扱い(猟奇だが)するのもフェアじゃないというかなんというか、そういえば池田小とか秋葉原の交差点とかにお化けが出ましたみたいな話は探せば無いことは無いのかもしれないがあまり聞いたことはない。お化けもあんまりガチめに悲劇だと関係者に配慮して出てこないのか、あるいはオカルト関係者がクレームを恐れてネタにしても問題なさそうな猟奇事件を選んでいるかのどちらかなんだろう。

ちなみに、映画ではバラバラ殺人の背後に新宗教団体がいることになっているが実際の事件では犯人二人と被害者が揃って信者だった過去があるというだけでとくに事件とは関係ないことが明らかになっている。新興宗教=ヤバイというのも90年代悪趣味界隈の感覚を引きずった時代錯誤な見方のような気もするが(でも悪趣味界隈のライターは自分でどうヤバイのか確かめるためにその世界に飛び込むぐらいの気骨はあったのだが)インターネットの普及で宗教の必要性が廃れSNSのエコーチェンバーが疑似的な宗教となった今ではそのヤバさが自覚されることなくまさしくインターネット世界の悪魔祓いとして宗教=ヤバイもののイメージは残り続けるのだろう。

犯人二人ももう刑期を終えて出所しているしあんまり実在事件をネタに遊んでいると刺されるぞとまでは言わないがズタズタに遺族を含む事件関係者のマインドを切りつけてる可能性はあるので、やるならやるでその事件でなければ表現できないものは何か熟考して脚本を練った方がいいし、少なくともその加害性ぐらいは作り手に自覚して欲しいところではある。それこそ村崎百郎なんか救いのために電波系の話題を取り上げていたのにそれで恨みを買って刺し殺されてるしな。まったく因果な業界だよ。

というわけで『真・事故物件』ですがだいぶ苦言を呈す感のある前置きをしておいてあれですが面白かったね! マルチタレントのRaMuが元気に活躍する! ぼくRaMu好きなのでRaMuが元気でよかったです! あと血と内臓もドバっと出ます『地獄の門』の内臓吐かせ殺しみたいにドバっとね! ドバァ! そう来るかって感じだよファーストシーンを除けば途中まで血なんか全然出ない心霊系のホラーだからラスト15分くらいで急に血まみれになっちゃってびっくりするしそのまま『悪魔のいけにえ』というよりは『ヒルズ・ハブ・アイズ』の世界に突入して最後はみんなでイエーイみたいなね! 笑ってしまうよあのラストは。ゴア映画なのに後味さわやか。珍しいよね。

珍しいといえば日本でゴア描写を売りにした映画が劇場用映画として製作されるのも珍しい。Jホラーとか言って90年代後半からはやっぱ心霊ものとかサイコものが邦画ではホラーの主流だったわけじゃないですか。邦画ではっていうかアメリカ映画とか見てもわりと流れは同じでさ、80年代スラッシャーみたいに人死に描写の面白さで見せるホラーっていうのはメインストリームには上がらなくなっちゃったんですよね。

そんなことないだろ最近のアメリカのホラー映画わりと人死にまくってるだろって思われるかもしれませんけど今の人死にがたくさん出てくるアメリカのホラー映画ってそれをメインの売り物としては描かないじゃないですか。『ザ・スイッチ』みたいな映画は良い例ですけどあれなんか80年代スラッシャーのパロディとして人死にを出してるだけで映画の主軸は明らかに主人公の成長とか学園ドラマの方にあるわけですよ。インターネットが世界中を繋ぐ一方で個人をパーソナライズされた狭い空間に縛り付けてしまう現代ではこの流れはたぶんもう世界的に変わらない。

そりゃ自主制作とかミニシアター興行ないしDVDスルー前提の小規模映画ならスプラッター映画とかゴア映画も細々と作られ続けるだろうけれども、パーソナライズされた空間の居心地のよさを誰もが知っている時代にあって、その空間を少しだけ抜け出して映画館で観る価値があるとマジョリティに感じられるものは、自分の世界から少しだけ離れているが少しだけ近くもある人間ドラマぐらいしかない。だから今はホラーでもコメディでもSFでもなんでも人間ドラマが映画の中心でそれ以外の要素は全て副次的なものになる。心霊ものだって要するに人間ドラマなわけですよ。まぁ安上がりだから持て囃されるっていう身も蓋もない事情もあるんだろうけど。

とまぁそんなガッカリ世の中ですから久しぶりに映画館で見せ場がゴアっていう邦画に出会えてよかったよね。それも懐古とかジャンルのファン向けって感じじゃなくて今邦画でマス向けのゴア映画を作るとしたらどんな形があり得るかっていうのがちゃんと考えられていて、たぶんこの監督は映画版の『アイアムアヒーロー』は(きっと不満も抱きつつ)方法論として参考にしたんじゃないかと思うんですけど、あれと同じぐらいポップな映画になっていたから「これがゴア映画だ!」みたいな臭みがないっつーかさ、その臭みがイイっていうところもジャンル映画にはやっぱあるんですけど臭くないジャンル映画ってのも新鮮で面白いじゃないですか。荒削りで無駄なところと説明すべきところの整理が足りないように思うしゴアが見せ場って言ってもレイティングの関係かそこまで激しいゴアにはなってないんですけど、ともかくそういう映画。満足度を内蔵で表現すればそうだなぁ…膵臓!

【ママー!これ買ってー!】


『事故物件 恐い間取り』

『女優霊』の中田秀夫の心霊ホラーなのに幽霊表現が全然怖くなくてびっくりするがこれはこれでマスに合わせて調整した結果なんだろうとか思うのでそんな嫌いじゃないってかわりと普通に楽しめた。怖くはないけど。

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