《推定睡眠時間:120分》
アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画なんか眠らずに観られたことがないが今回はレベルが違い136分の上映時間中おそらく120分は寝ているであろうという大快眠。環境音をBGMに取るに足らない低温の日常会話がカメラが動くこともなく延々と続けばそれは眠くなるだろうと思うがその中で時折どこからか響き渡るゴトッという岩の落ちるような謎のびっくり音も最初の一回二回はびっくりするもののそのうち馴れきてしまって身体と同期、逆にゴトッがゆるやかな刺激となって睡眠を促進するのであった。ちなみに俺の観た範囲ではどういう映画かというと主演ティルダ・スウィントンが自分にしか聞こえないゴトッ音をなんだろうなぁって不思議がりながら色んな人と話す映画でした。なんだよそれ!
もうね俺のこの映画の感想これだけで終わりですよ。書く? 寝てる間に観た夢の話とか。でも夢かどうかは実のところこれだけ寝ているとわからず寝ているといってもたまに目だけは起きて頭は寝たままとかですから夢だと思って映画を観ていたのかもしれません。二つ覚えてますが一つはコンビニの面接に行くシーンで俺がじゃなくて誰かが行く。ティルダ・スウィントンがコンビニの面接に行くことはないだろうと思うのでこれはまぁ映画のダラダラ会話に触発された俺の夢だろう。
しかしもう一つは意外と判断が難しい。特殊部隊のような連中が何が目的か民家に入ってきてそこに住んでいる一見普通の庶民っぽい人に銃を向けるのである。う~んそれはアクション映画じゃないし夢じゃないかな~という気もするが公権力による抑圧を表現したシーンだとすれば無いとも言い切れない。観た人どうでしたか。そんなシーンありましたでしょうか? っていうかどんな映画でしたこれ? 読んでる人に逆に映画の内容を聞く前代未聞の映画感想。
までもね、俺にとってアピチャッポン映画の面白いところってこれは言い訳じゃないですけど身も蓋もない現実を夢が浸食するところなんですよ。すごい凡俗なものの中に奇妙な異物が入ってきてそれが何かしらの夢のような記憶を喚起する…そしてまた現実に戻っていくサイクル、言い換えればレム睡眠とノンレム睡眠と覚醒とそしてまたレム睡眠っていうのがアピチャッポン映画のリズムになってるんですよね。だから気持ちよく眠れてしまうし、その目覚めはいつも最高だ。
遠くのゴロゴロ雷鳴がいまにも雨になりそうな空模様を告げている。目を覚ますともうあのゴトッは聞こえない。降り出した雨のさらさらしとしという音が夢と一緒に心身の疲労も洗い流す。そして映画館を出る頃にはすっかり解毒されている、そんな『MEMORIA メモリア』でありました。
【ママー!これ買ってー!】
睡眠解毒映画といえばタルコフスキーということで『ストーカー』を。環境音の使い方とか異物の扱いも似てるし。眠りは国境を越えます。