《推定ながら見時間:60分》
世界中の科学者を集めても理由のわからない謎の泡降りまくり現象により水没した東京とかいう否応なしに『天気の子』を彷彿とさせる舞台設定なのだがファーストシーンが秋葉原の廃墟で電気街通りを一通りカメラが俯瞰するとアニメイトの看板のかかるラオックスをビルの上から見下ろす寡黙で一人を好むがスキルは一流なので仲間たちからは信頼されている主人公の少年の図になってなんかすげぇなって思ったよ、そのオタクへの媚びっぷり。
この主人公くんはパルクールの天才で仲間たちというのは水没東京でパルクール・バトルをするチームです。水没しちゃったので東京には人が住めなくなり大人たちに見捨てられたこの街を守っているのは今や孤児の少年たち。生活物資を賭けたパルクール・バトルで少年たちはシノギを削っているのですがいやもうキツイって! この…オトナのいない世界で僕たちが的な! しかもそれがまぁ他の場所もたくさん出てきますが秋葉原で!
それで主人公がクール系天才タイプでしょ! でこいつが落ちると死ぬ渦巻きポイントについ落ちちゃったところで助けに入って主人公チームに拾われることになるのが継ぎ接ぎのセーラー服をターザンみたいに着こなした言葉が喋れず猫みたいに四足歩行する野生の女子高生なんですよ! この野生の女子高生は言葉はほぼ喋れないですけどすごく綺麗な声で歌を歌えるのでウタって名付けられるんです! うわぁ! 揃ってる! なんか知らないけど揃ってるねえええええええ!
大丈夫かオタク。お前らめちゃくちゃ見下されてるぞ。確かに俺もオタク族は日頃から見下して嘲笑っているが搾取しようとはしてませんからね。でもこの映画の作り手はオタクはこういう設定好きなんでしょこういうエモでエクスタシーに達するんでしょどうせオタクとか特定のパターンに反応して金を吐くだけのマシーンでしょとオタクを舐め腐って搾取しようとしてますから。どっちがマシかという話なんですよ。心底バカにしてるけど金は取らない俺と表面上オタクさまは神様ですと媚びへつらっているが本心ではオタクを動く金としか思っていないこの手のアニメの作り手のどちらが…え、アニメの作り手の方がマシ? 俺は何も見せてくれないけどアニメの作り手はアニメを見せてくれるから? バカそんなだからお前らはオタクなんだこのクソオタクども! 脳内オタクとの妄想戦闘乙☆
まぁでもそれぐらいはついつい言いたくなってしまうぐらいオタクに媚びた映画でさ…オタクに媚びたっていうかアニメ映画を観る層に全力で媚びた感がすごいんだよ。だって先にも書いたけど基本設定は『天気の子』っぽいじゃないですか。それでウタちゃんのモチーフは『人形姫』であることが劇中で明示されるわけですけど童話モチーフっていったら『美女と野獣』をモチーフにした去年の大ヒット作『竜とそばかすの姫』を想起しないわけにはいかないし、人外なので人間的なコミュニケーションには難があるが歌だけはやたら綺麗に歌える設定はこちらも去年の話題作『アイの歌声を聴かせて』を思わせる。極小と極大を渦巻きで接続するラストはといえば『海獣の子供』じゃないかこんなもの。
つまり要するに、ものすごく売れたアニメ映画とかそこまで売れはしなかったが熱狂的なファンがついてカルト的に話題になったここ何年かのアニメ映画を器用かつ凡庸にパッチワークしてお子様とオタクの口に合う味付けをしてるんである。なんて客をバカにした映画だろう! と怒りたいところだが俺も売れた映画を予算1000分の1ぐらいでパクるアサイラム映画とかを好んで観るので怒るに怒れない。怒れないがでもこのオリジナリティのなさはさすがにどうかと思うぞ。アサイラム映画は安すぎてオリジナリティがあるからな。それをオリジナリティと言うとすればだが。
設定周りのデジャヴュ感は相当なものだがアニメなら設定よりも動きで勝負ってなもんで水没東京でのパルクール・アクションは夢もあり躍動感もありさすがに見せる。重力があるのかないのかよくわからない空間(※渦巻きがブラックホールみたいになっててその周辺は重力がない)なので宙に浮いてる泡を足場にしてポンポンポンっと飛んでいくのとかゲームみたいで楽しいよね。だが何かが足りない。たぶんそれはパルクール・バトルを「バトル」として捉える視点で、主人公のアクションは躍動感をもって描かれるのだが、たとえばチームメンバーの誰々が敵チームにタックルされて水に落ちた瞬間であるとか、チームが全体としてどういうフォーメーションと戦術で戦っていて現在はどういう戦況にあるのかといった俯瞰的な描写がない。一人称ではないがきわめて主観的な映画で、それは敵チームのキャラを記号的にしか立たせないことでの魅力の薄さを通して、パルクール・バトルそのものの妙な盛り上がらなさに繋がっている。
それにこのパルクール・バトルってシナリオ上の必然性がないんだよな。この映画のシナリオをざっくりまとめるなら東京の破壊と再生についての物語ということになるがそれなら別にパルクールじゃなくてもいいわけだし孤児が東京に集まって来るっていうのも単にそういうオタク受けしそうなシチュエーションを作りたかっただけにしか思えない、要素と要素が有機的に結びつかない。だから最近流行ったあんな映画こんな映画のパッチワークって風に見えてしまう。いろんな売れ線要素をエモの接着剤でくっつけただけって風に。
そりゃ売れた映画の売れた要素をたくさんくっつけてるんだから面白くないということはないが、取り立てて面白いということもないわけで、なにか鑑賞後に空虚な心持ちになったというのが正直なところであったよ、まぁ俺の場合は。
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原題『ATLANTIC RIM』! 何の映画の便乗作かは言うまでもないアサイラムの超子供騙しパチモノだが、どうせパクるんならこれぐらい潔くパクって欲しいし吹っ切れてほしい。ロボットが宇宙飛んでくからねこれは。
まあ売れもしないし話題にもならなそうなんだよな…この作品が比較されるべき対象は『ポッピンQ』だと思う
『ポッピンQ』は良い意味でもっと酷かった!
大宣伝売ってるからそれなりには売れるんじゃないですかね?
後、オタクオタク言ってますけどこの作品を見てうーんってなってるのは寧ろそのオタク層の方ですよ。物足りんとか薄味とか。10代向けと言った方が正しいでしょうね。
確かに10代向け。少年ジャンプの主要読者層を想定して作ってるのかなと思います。俺は雑なので10代のライトオタク(漫画とアニメ鑑賞が趣味という程度の人)とマニアックなオタクをあんま区別してないんですよ。マニアックなオタクはまぁさすがにこんなのでは喜ばないだろとは思う。
虚淵脚本に期待してたんですけどね。
プロデューサー主導のアイデアで、虚淵はそのアイデアを纏めた感じ?
作家性とかは本当に希薄なので、たぶんそんな感じじゃないかなぁと思います。名義貸しに近いかもしれない。キャラデザもジョークかよってぐらい既視感の強いものでしたし。
虚淵らしさの作風なら
「実は自分達は騙されていた。親切な人がことの張本人だと判明」
「信じてた仲間と些細な仲違いがデスマッチにエスカレート」
がある種のお約束ですが、お約束すぎて今更やっても面白くないかな?
俺はそれぐらいやって欲しかったですけど(せっかくのポストアポカリプス的舞台設定なのだし…)たぶん全年齢対象の少年ジャンプ的なノリで行きましょうみたいな発注だったと思うんですよね