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最近のマーベル映画は人間VS人間っていうのをやらなくなっちゃってマーベルがニューエイジ映画であることからすればそれは当然だしマルチバース路線に舵を切ったのもまた当然、なぜならマルチバースにしか答えはないから。なんの答えっていかにみんなで争ったりせず平和に暮らせるかってことで、そしたらヴィランっていう存在は否定するしかないし、狭い世界にみんなぎゅうぎゅうになって暮らしてるから争いも起こるのでみんながみんな自分らしく楽しく暮らせる世界を見つけたらいいねって話になる。『エターナルズ』で開かれたMCUのフェーズ4だかなんだか知りませんけど超先回りしてフェーズのオチを想像ネタバレするとフェーズ4のいちばんでっけぇ敵とヒーロー軍団がみんなそれぞれ異なるマルチバースに移住します。そうすれば誰も死なないでみんな平和に暮らせる。想像って書いたけどマーベルがニューエイジ映画である以上はそれ以外に着地点なんかないので確定予言って言ってもいい。っていうかそのためにマルチバースが導入されたとさえ言える(商業的な都合もあるにしても!)
俺は最近のインターネットリベラルと違ってニューエイジ思想とは一定の距離を取りたい老害リベラルなので作を重ねる毎にニューエイジ化の度合いを深めるMCU映画にはぶっちゃけ着いていけないところもあった。だってつまらないじゃないですか平和主義と平等主義が行きすぎてせっかくのヴィランを否定したりなんかしちゃったら。そりゃ現実の世の中を善と悪の二項対立として見ちゃうような人は困りますけどどうせ映画の中の世界なんだから良い奴は良い奴で悪い奴は徹底して悪い奴でいいでしょうが。ヒーローとヴィランの殺し合いなんか存分にやってもらいたいよ。それは現実がそうだからって思ってるんじゃなくてむしろ逆に現実はそうじゃないってわかってるからこそフィクションとしてやってほしいんだよ。そんなこともわからず現実とフィクションを混同する幼稚な観客が増えましたねまったく。
と、くどくど文句を垂れるわけですが! この映画はそういうところが! 実に! 上手かったね! ドクター・ストレンジとワンダのガチガチバトルが対マルチバースのヒーローズとのバトルにスライドしていって最後は…という展開の面白さ! どうせマルチバースの出来事だしとばかりにヒーローズもその取り巻きもジャンジャン死んでいって盛り上がるよな! それも脳みそ爆破死とか目玉に電柱ぶっ刺さり死とか比較的悲惨度の高い死が多い! そんなことはないがこれぞ映画だぐらいは酒など飲めないが酔った勢いで言いたくなるぐらいだ。
このMCUらしからぬ血の気の多さはやっぱ監督サム・ライミっていうのが効いてるんだろうな。別にサム・ライミそんなに好きな監督じゃないしライミライミと『地獄部隊サム・ライミ』じゃあるまいし言いたくないのだが(ならそんなタイトル挙げるなよ!)ちょっとしたヒーロー殴り合いでも怒濤の勢いでカットを繋げるアクションのテンションの高さにしてもなんでもないようなシーンでもいちいちぐるぐる回転ドリー・イン/アウトを使ったりするカメラワークのケレン味にしてもあぁこれはMCUにはないライ味ライ味、ワンダの襲撃シーンは『スペル』を思わせるホラー演出でライ味だしブルース・キャンベルが画面に現れて『死霊のはらわた2』のVS右手バトルをドクター・ストレンジの後ろの方で披露するシーンを見ればそれは若干呆れつつもライ味ですなぁと喜ぶしかない。
これは明確に言っておいた方がいいと思われるがストーリーとかはかなり大味である。アクションを通したテーマの展開は上手いのだがアクションとアクションの間を無味乾燥な説明台詞で繋ぐ作りなのでアクションとドラマの融合を是とするMCU映画として観れば結構ダメな映画なんじゃないかぐらいには思う。しかし、しかしだ! こう面白くアクションアクション&ホラーしていたらやっぱ楽しいの観客感情がうむむ完成度的にはどうなのかなぁの評論家思考を凌駕しますよ! そのアクションにしてもあるいはホラーにしてもなのだが内容としては大したことはやってない! パワーとパワーが正面からぶつかり合うとか横から急に出てきてびっくりするとか単純なのだが、ただそれを面白く撮るんだよねぇこの映画は!
無駄に利発そうな気に食わないMCU的キッズが主要登場人物として出てきた時には大丈夫か俺こいつに感情乗せられんぞと思ったがそんなものは杞憂だった。なぜならこの無駄に利発そうな気に食わないMCU的キッズは途中から単なる置物になるからだ。そういえばこれは興味深いポイントなのだが多様性最重視のMCU映画にあってこの映画の多様性表現は異質で、マイノリティ属性を背負う脇役が物語の中でクローズアップされたかと思うとその直後に死んだり別の平行宇宙に飛ばされるなどしてフェイドアウトしてしまう。ちょっとおちょくってないかサム・ライミお前。ニューエイジ映画たるMCU作品でポリティカル・コレクトネスをギャグにしてしまっているのだとしたらなかなか恐れ知らずである(※作品とライミの名誉のために付け加えておきますが序盤の結婚式のシーンに出てくるアジア系エキストラ参列者の人はストレンジを食う勢いで目立ってましたのでマイノリティを蔑ろにしているわけではたぶんありません。活躍するのはアメリカ白人ばかりですが)
MCU的なドラマツルギーとライミの個性はまったく噛み合っていない、と繰り返しそのことは書いておこう。ただし噛み合ってないからなんなのよとも書く。噛み合ってないけど面白いじゃんテンション高くて。それにゾンビも出るし(出るんだよ!)。娯楽映画こんなもんっすよと言わんばかりの余韻ぶち壊しオチも含めて、なんだか縁日の屋台みたいな映画だね。むろん、良い意味で!
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前作はかなり真剣に怖いゾンビホラーだったが続編というよりもリメイクに近いこちらは半分くらい同じことをやっているのに振り切れてスプラッターコメディに。『ワンダヴィジョン』が表向きの予習作品なら裏の予習作品はこれ。
「全ての次元(マルチバース)の征服を目論む敵が現れ、ドクター・ストレンジとアベンジャーズが立ち向かう、そして異なる次元を最終的に一つの次元に戻す」
フェーズ4のオチですが、上記のような予想が某掲示板であってベタですけどこういうのもよくないですか?
PS.X-MENがマーベルに合流する噂がありますがX-MENって見てます?
個人的にはそういうのも好きなんですけど、マーベル映画を貫く思想から今後の展開を予想すると、並行宇宙を統合するような方向には行かないんじゃないかって思います。多様性の尊重とか異文化の尊重っていうテーマはマーベル映画ではめちゃくちゃ強いんですよね。だから世界の多様さを具象化した並行宇宙の存在は悪いことじゃなくて良いこととして作ってる側は捉えていて、それを一つにまとめることで否定するとは考えにくいなと。
X-MEN見てないんですよ…『フューチャー&パスト』あたりから見てみようかなと思ってるんですけどね。
>>多様性の尊重とか異文化の尊重っていうテーマはマーベル映画ではめちゃくちゃ強いんですよね。
確かにブラックパンサーの辺りからその傾向ありますよね。まぁそれはニューエイジの影響というか最近の映画界全体で流れがそっちに寄っていってる感じですかね。もっとシンプルなヒーロー活劇でいいんですけどねぇ、、
ちなみに私はx-menファーストジェネレーションが一番おすすめできます。
そうなんですよ。全体的には別に今の傾向でいいですけど、シンプルなヒーロー活劇も何本かは作って欲しいなぁとおもうんですよね。『アクアマン』とかわりとそんな感じですけどファンタジーだしなぁみたいな。
じゃあ『ファースト・ジェネレーション』観てみます!