中高年箱庭映画『ツユクサ』感想文

《推定睡眠時間:5分》

まぁ中高年映画なんですけどそれにしたって中高年寄せがすごくないかって思ったのが登場人物が一人としてスマホを持たないのはまだいいとして主人公の小林聡美がアニメのことを「テレビの漫画」って言う。小林聡美、年齢設定は49歳なんですけど49歳なんかもうバリバリアニメ世代じゃん。アニメを「テレビの漫画」とかゲームを「ファミコン」とか言うってそれ六十代以上のワーディングだよね。

古いなー。小林聡美が可愛がってる知り合いの10歳キッズは引っ越し先からメールとかビデオ通話とかじゃなくて葉書で「ぼく元気です!」的なのを送ってくるし、このキッズちょっと嫌なことがあった時にPC画面に表示されてるウィキペディア的なページの肖像画に物理で落書きをする、つまりモニターに直でマジックを…古いなっていうか、それは大丈夫なのか精神的に!?

などと思ってしまうのは俺がヤングメンだからで中高年ともなれば違和感よりもあるある感の方が勝るに違いありません。あるある感っつーかちょっと懐かしい感じっつーかね。舞台は一応現代のようだがとくに現代性は強調されてないから90年代ぐらいの物語に見えるし、それにこれはキャッチコピーによれば大人のおとぎ話です。おとぎ話というほど飛躍した内容は持たないどちらかと言えば日常系のユーモアドラマといった感じだが、まぁおとぎ話なら時代にそぐわないチグハグ描写のひとつやふたつあっても別に構わないだろう。運転してる車に親指大の隕石が直撃して車が横転、気を失っていた小林聡美が目を覚ますとなぜか車ごと横になっているのではなく横たわる車の中に直立している…という不思議な場面もおとぎ話ならオッケーというわけである。

さて主人公の小林聡美は断酒のために小さな港町にやってきた単身者。同僚の江口のりこと平岩紙、その息子の斎藤汰鷹と遊んだりしてまぁまぁ楽しい日々を送っている。だが小林聡美にはどうしても酒に逃げたくなってしまうような過去の傷があった。なかなかそのことに向き合えない小林聡美だったのだが、ツユクサで草笛を吹く路上警備員の松重豊と出会ったことから、傷と向き合っていくのであった。

お話もそう悪いものではないが面白いのはやっぱクセ者俳優たちの共演。独り言芝居のリアリティが怖い小林聡美、元ヤンムードを漂わせるダルい仕草がたまらない江口のりこ、バーのマスター泉谷しげるはいよいよ老人俳優の粋に達した円熟芝居、何度目の警備員役かわからない松重豊は変趣味の朴訥警備員がハマりすぎ、そしてベンガルの披露するラジオ太極拳体操!

いくらなんでも古いだろというところは台詞回しにせよ小道具のチョイスにせよ男女観にせよ中高年映画なので目白押しだが、箱庭世界的港町で観察するクセ者俳優たちの日常は素直に楽しかったのでよかったです。

【ママー!これ買ってー!】


『かもめ食堂』[DVD]

観たことないんですけどこれもたぶんこんな感じじゃないですかね。観たことないんですけど。

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