スタアは大変映画『a-ha THE MOVIE』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『トップガン マーヴェリック』と主演トム・クルーズに対する観客の熱狂的な反応を見ていて思ったのだがトム・クルーズというのは80年代アメリカ(の陽の部分)を体現する存在であり、その時代を決して捨てずに言わば80年代のサイボーグとして第一線に立ち続けているからとくに同世代からの圧倒的な支持を集めていて、それは『コラテラル』とか『マグノリア』とかでスタアの誰もがそうするようにアイドルから演技派への転向を目指したトム・クルーズの俳優的挑戦が、無駄とは言わないまでも結果的には挫折したことを意味するのかもしれない。

スタアは時代を背負っている。デヴィッド・ボウイのような例外もいるとしても、スタアの多くはアイドル的に持て囃された時代に絡め取られて身動きが取れなくなり、開き直って同じ事をやり続けるスタアもいれば、それを嫌ってスタアの座を降りるスタアもいる。”TAKE ON ME”でお馴染みのというか俺もそうだが大抵の人は”TAKE ON ME”しか知らないと思われる80sバンドa-haもそのひとり(3人)のようだってことでこれはそういうドキュメンタリー。a-haの軌跡を辿りつつ活動休止を経て再結成した現在のa-haに密着する。

見ていて意外に思ったのはa-ha、かなり普通のバンドだった。天才型のアーティストじゃなくて当時のニューウェイブ/ポストパンクのシーンを研究してどんな音楽をやれば売れるかっていうのをクレバーに考えてて、その成果が”TAKE ON ME”。なんかすげぇバージョン違いがあるらしいですよこれ。ロック不毛の地ノルウェーで頑張ったんだなぁ。でもその頑張りのおかげでバンドとして次のステップにはなかなか進めなくなってしまったのだから皮肉なことだ。世界的に売れまくって生活には困らないんだから贅沢な悩みといえばそうですが。

再結成後の現在のパートではもう次のアルバム制作に入ってると意気揚々と語るメンバーと次のアルバムは未定だと語るメンバーの温度差なんかをそのまま捉える。バンド解散の理由としてよく方向性の違いとかっていうのが言われるがそれが具体的にどういうことなのかはこれを見てわかった。ファルセットの鳴る機械のように扱われることに不満を漏らすボーカルの人とややコントロール・フリークの気があるリーダー格の人の距離感ね。胃痛とまでは行かないけれどもこれは見ていてメンタルが絞られるところではあります。

俺はa-ha世代ではないので思い入れはないしその音楽も良い音楽だなとは思うもののそれ以上のものは感じないのだが、でもこれを見たらa-haが聞きたくはなったし、”TAKE ON ME”が世界的大ヒットを飛ばすまでの過程にはワクワクさせられたので、世代の人にもそうでない人にも面白いドキュメンタリーだと思います。

【ママー!これ買ってー!】


ハンティング・ハイ・アンド・ロウ 2015リマスター・エディション

“TAKE ON ME”はキラキラした感じですが全体的には北欧の憂愁を帯びたサウンドなメジャーデビューアルバム。

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