SCP的ADV風映画『きさらぎ駅』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『真・鮫島事件』に続く永江二朗監督の2ちゃん都市伝説シリーズ第二弾ということでうん、期待値ゼロ! 別にこの監督が嫌いとかじゃなくて『真・鮫島事件』が嫌いとかでもなくてっていうか観てないから好きも嫌いもないですけどだって、今更感がすごいじゃないですか! きさらぎ駅でしょ? それ何年前の話だよって思うじゃないですか! それも大して面白い話でもないじゃん所詮2ちゃん都市伝説なんて。そんなこと言ったら清水崇の村シリーズだってそうですけどあれはちゃんと題材相応につまんなかったからね。なんだそのアゲてるのかサゲてるのかわからない言い方は。

っていうわけで期待値がゼロだったわけですが観てみますとこれが意外といろんな工夫があって面白い。そうだよね、やっぱ作ってる人たちも「今時きさらぎ駅、やる?」みたいなのあったんだろうな。単にきさらぎ駅ネタの映画を正攻法で作っても面白くなるわけないし怖くなるわけもない、ってことで作ってる人たちが取り入れたのはおそらくホラー映画界にちょっとした新風を吹き込んだアメリカのあるアイディア系ホラー映画(タイトルを言ってしまうと軽くネタバレになるので伏せておく)と、それからもうひとつはゲームです。コンピューターゲーム。具体的には一人称視点のADV。

たとえが古くてすまんねと先に謝っておくがたとえばほら、『Dの食卓』とか『MYST』とか。本当に古いな! しょうがないじゃん最近のゲームなんかほとんどやってないし・・・までもSteamにこういうタイプのホラーADVって最近たくさんあったりするよね。話題を呼んだやつだと『還願 Devotion』とか『港詭實錄 ParanormalHK』とか『夜勤事件』とか。この映画の作り手の人たちもたぶんそういう流行ってるホラーゲームをプレイしてて、これは映画に使えるぞと思って取り入れたんだと思います。

どういうことかというと、これ民俗学を学んでる主人公の恒松祐里が卒論のためにきさらぎ駅からの生還者として知られる佐藤江梨子にインタビューするところからお話が始まるんですけど、佐藤江梨子が話すきさらぎ駅紛れ込み体験の回想がすべて一人称視点で撮られていて、でそこにちょうどいいところに置かれた武器の棒が出てきたりゴールらしい光の扉が出てきたりっていうゲーム感。この一人称視点の映像から謎解きをする展開もあって、すごいゲームっぽい映画なんですよね。怪異が起こる時にどこからか聞こえる和太鼓の音がどんどんと高鳴っていくとかの音響演出は名作ホラーゲーム『サイレントヒル2』の敵遭遇時を思わせるところでしたし。

これはなかなか考えたなと思ったし、なんとなくゲーム風っていうんじゃなくて移動時のカメラの縦揺れとか細かいところもちゃんとゲームっぽく作り込んでて、単なる客の分際で偉そうなこと言いますけど感心した。シナリオ的にもその撮影スタイルに合うようにか、あるいはこういうシナリオだからこういうスタイルを取ったのかはわからないですけど、2ちゃん都市伝説っていうよりはSCPなんですよね。

SCPってあれですよクトゥルー神話の亜種の創作遊びみたいな。調査報告書の文体で色んな怪異を記述してあたかも事実のように見せるっていうネット小説版のモキュメンタリー。2ちゃん都市伝説だと不条理で奇妙な話とか怖い話って感じですけどSCPはSF寄りだからレトリック的に用いられることがほとんどだとしてもロジックがあって、だからゲームには落とし込みやすいし、この映画の一人称ADVスタイルも違和感がなかった。

よくできてますよねぇ。低予算でロケ地とか撮影日数とかその他諸々そんなに自由がない中でこれは発想の勝利、笑点だったら座布団三枚ぐらいあげてもいいよな。ただまぁ、ぶっちゃけ怖くねぇ。いや上手いなぁとか技ありだなぁとかは本当すごい思うんですけどただ怖くねぇんですよねこれ、ホラー映画なのに。それは演出力の不足っていうよりはゲーム性の導入の起因するもので、ゲーム的に面白くみせちゃうと映画的に怖いムードっていうのは作りにくくなるなぁって思った。

ゲームのような映画じゃなくて映画のようなゲームってことで名作ホラーゲームの『零』ってあるじゃないですか。オバケを写真に撮って倒していくやつ。あれって闇に包まれた日本家屋が舞台でその雰囲気が素晴らしいんですけど、でもオバケとの戦闘になると「今ゲームやってるんだなぁ」って気になっちゃって、せっかくの没入感と恐怖が消えちゃうところあるんですよ。ゲーム的な面白さとゲーム的ではない恐怖って基本的にはトレードオフで両立できない。で、同じ問題はこの映画にもあると思った。

だから良く出来てるとは思いつつホラー欲はあんまり満たされなかったなぁ。怪異もバラエティに富んでいるし、音楽も音響演出も凝ってるし、佐藤江梨子も恒松祐里も最近の邦画の名バイプレーヤーとなりつつある芹澤興人も良い演技をしていて、本当どこも手を抜かない良く出来た映画なんすけどね。せめてクライマックスぐらいはもう少しホラー映画らしく怖い感じに盛り上げてくれていたら、と思う。

【ママー!これ買ってー!】


NEBULA -ECHO NIGHT-

一人称視点のホラーADVといったら『エコーナイト』シリーズだよな! 古い! 古いよ! ひょっとしてぼくもうとっくに死んでいてそのことに気付いていないオバケなんですか・・・?

Subscribe
Notify of
guest

4 Comments
Inline Feedbacks
View all comments
匿名さん
匿名さん
2022年6月18日 5:48 PM

夜勤事件作ったメーカーが幽霊列車って作品作ってましたがもろにきさらぎ駅でしたね。
犬鳴きトンネルも作ってましたな。

cannon
cannon
2023年11月9日 2:05 PM

きさらぎ駅つまらなかった〜!とゆうレビューを聞いていたので期待せずに見たら、だいぶ面白かったですね。エンドロール後のエピソード含めよく出来てたと思うけど、元ネタへの愛が強いと許せなくなるみたいですね。都市伝説映像化系の作品の中ではかなりの良作だと思います。

怖くない原因はCGのショボさにもあると思いますが。。あえてプレステ2あたりのゲーム風味にしていたのか、あるいは予算の問題なのか不明ですねw

ネタバレになるアメリカのアイディア系ホラーって、誕生日に殺されるアレかしら?嫌いなカップルがいちゃついてるところに中指立てて笑顔で墜落、のところが好きです。
確かに分析、攻略とゆう行為とホラー的な恐怖は共存し難いですね。
きさらぎ駅も、特殊効果や演出にもっと予算をかけられたならば、それらが共存する傑作になったのか…?想像してみるのも面白いです。