《推定睡眠時間:15分》
今どきサイキックパワーを持ったキッズなんて珍しくないので感情が昂ぶると周囲を燃やしてしまうキッズのチャーリーちゃんが徐々に能力を制御できなくなっていくサマを無駄にシリアスかつ長々と描く序盤を見ながらそんなのいいからさっさと同級生でもなんでもバンバン燃やしてよとか心ないことを考えてしまった。
こういうのはやっぱスティーブン・キング原作っていうのが悪いんじゃないすかね。キングってB級ホラーマニアだからプロットはありきたりで別に面白くない。面白いのはそのありきたりなプロットの中で展開されるリアルで凡庸なアメリカ人たちの人間模様とか「俺だったらこうする」的によくあるホラー映画アイディアのディティールを詰めるところで、そういうのって長編小説なら好きなだけ書けますけど映画なら大部分省かないと二時間弱に収まらない。つまりキングの小説の面白いところは映画には入らない。元から映画化に向いてないんですよねキングって。なのにやたら映画化されるんで今はそうでもないだろうが一時期はキング原作映画といえば基本ハズレみたいなこともあった(俺のビデオ屋体験に依る)
ていうわけでこのキング原作『ファイアスターター』2度目の映画化もぶっちゃけ冴えない。退屈な序盤を乗り切ってベタに悪い超能力研究をしている組織からサイキック殺し屋みたいなのが派遣されてきたところでいよいよ爆炎超能力戦争の始まりかと姿勢を正すとなんと(でもないが)爆炎少女プラス親の逃避行が始まってしまった。正した姿勢をまたずらす。いったいいつになったら炎と血の雨が降るんだろう・・・。
逃避行なら逃避行で別にいい。かなりベタとはいえ逃避行を通して親との関係を見つめ直すみたいなのがあってもまぁまぁいい。どこの家庭のサイキックキッズもそうであるようにこのチャーリーちゃんも親との仲はあまりよろしくないので上手く調理すればそれなりに泣ける感じになるだろう。だが上手くない! 上手くないんですこの映画・・・ダラダラ時間をかけて親子のどうたらをやるわりには台詞はつまらねぇわ子役の演技は平凡だわテーマの踏み込みは浅いわでそんなんだったら全部カットでいいよそのへん! そんなことより炎殺! 炎殺!
だいたい追っ手のサイキック殺し屋がどんな感じの超能力者でどれだけ強いのかもろくに見せないって致命的だろそんなもん。あれじゃあただの枯れたオッサンじゃねぇか。燃やせば死ぬだろあれさっさと燃やせ。燃えが圧倒的に足りないだろこんなタイトルなのに。
終盤になって覚醒したチャーリーちゃんがやっと良心の呵責など捨てて燃やし始めてからもさ、まぁ物が燃えりゃなんであれ気分はアガるけれども、その爆炎道中が単調で待ちに待ってこれかよって思ったよ。そりゃ9歳だか10歳だかのキッズに頭脳バトルは無理だろうけれどももうちょっとこうなんかあるだろ面白い見せ方が。悪いやつの一人が防火服着て後ろからチャーリーちゃんを羽交い締めにして服は燃えないんだけど内部温度が上昇して顔面がミイラみたいになって死ぬとか、集団で襲ってくる悪いやつの先頭に火炎波をぶつけてボウリングみたいに人間延焼を狙うとか・・・でもこれそういう面白いこと全然しなくてさ、敵が出ました、燃やしました、別の敵が出ました、燃やしました、また別の・・・の繰り返し。『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』の1面やってるんじゃねぇんだぞって思うよな。よなじゃない。
焼殺描写だってもっとしっかり見せてくれてもいいのになぁ。焼いた後の顔面ケロイドはよくできていたからもったいない。まぁレイティングの関係すかね。人が焼け死ぬところを直接撮ったカットみたいなのはほとんどなくて画面外処理されてしまいます。それじゃあどんなに恐ろしい能力なのかわかんないぞ。っていうかパイロキネシス以外にも何種類か超能力出てくるんですけどその撮り方が全体的に淡泊なので迫力がないことこの上ない。なにかを燃やしたり人の心を操ったりすることの怖さが伝わってこないというのはかなり致命的だし教育的にもよろしくないのではないだろうか・・・。
と文句ばかり書いておりますがそんなに嫌いな感じでもなく、このヘボさショボさ起伏の無さが80年代ビデオスルーホラー映画を思わせてあんまり面白くはないがなかなか味わい深いものがありました。ジョン・カーペンターが参加した音楽も息子のコディとダニエル・A・デイヴィーズの連名になってはいるがとくにメインテーマがこれはまさしくカーペンター! な80年代感です。それにしてもなぜカーペンター? と思ってしまうがこの映画リブート版『ハロウィン』三部作と同じブラムハウスの製作だし脚本を書いた人も『ハロウィン KILLS』と同じスコット・ティームズ、カーペンターはかつてキング原作映画の当たりの一つに数えられる『クリスティーン』を監督していたりするので、そのへんの縁で音楽を担当することになったのでしょう。最近は音楽家としての活動に軸足移してますし、カーペンター。
さすがにもう少しだけ超能力描写には力を入れてもいいのではとは思うが、そんなわけで良くはないが悪くもない映画って感じだったなこれは。ぬるーっと滑り込むエンドロールには脱力させられますが(それもまたビデオスルー映画の味だ)
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評判は良いが個人的にはキング原作映画の中でもカーペンター映画の中でもそんなに面白い方ではなかった。