《推定睡眠時間:10分》
こういう映画は観客が温まってる劇場で観なければ魅力半減なのできゃぴきゃぴしい女子高生などがわんさと押しかけ満席とまでは行かないもののキャパ400ほどのシアターの8割埋まるというキラキラ映画の総本山渋谷のシネコンに汚いオッサン単身乗り込んだわけですが、薄い! 客席の反応薄かった…。
まぁキラキラ映画にも色々あるがこれはなんか真面目で地に足が付いているというか、年上消防士(岩本照)と付き合おうとする女子高生(生見愛瑠)の話ですからぶっ飛んだことをすればいいのに、そうじゃなくて年上への恋をきっかけにこの主人公女子高生は救命講習受けたり救命士になるための勉強を始めたりするんですよね。この映画はプラトニックですよ。女子高生がチュッチュとか求めないし消防士の方も女子高生に懐かれちゃったうっほーいと鼻の下と股の下を伸ばしたりせず、周りの消防士男性も含めて主人公女子高生の成長を見守る感じになるんだな。
でそれを通して最近のキラキラ映画のトレンド、主人公女子高生に惚れられる男が主人公との交流の中で普段は面に出さない弱さや痛みをさらけ出しそれを見つめることでこっちはこっちで人として一歩成長する、という展開をやる。この映画は恋愛よりもそうした成長物語に比重が置かれているのでどうもそれが女子高生プラスマイナス5歳ぐらいが大半と思われるキラキラ観客の反応が薄かった理由のようだ(でも上映後は超ガヤガヤしてました)
大事な人を失いふわっとした喪失感の中に生きている男女が過去を乗り越えていく過程を描くヒューマンドラマとしては監督がテレビドラマ畑の人ということもあるのか手堅くまとまっている。そのへんは善し悪しで俺は画面をデコりまくるタイプの騒々しいキラキラの方が好きなのでキラキラ映画として観れば正直物足りなさは覚えた。やっぱねぇもっとキュンキュンするシチュエーションとか欲しいですし笑いどころはしっかり笑いを取れるよう演出して欲しいですし映像センスをヤング向けに尖らせて欲しいですよキラキラ映画なんだから。
とはいえ仏頂面ゴリマッチョ消防男子とふにゅふにゃフェイスゆるふわ女子高生の非対称性、前者は頼れる人で後者は頼れない人というきわめてキラキラ映画的な図式が、仏頂面ゴリマッチョ消防男子の回想により、実は彼もまたふにゃふにゃフェイスゆるふわ期があり、先輩女性に恋したことでいろいろ頑張り今の仏頂面ゴリマッチョへと進化した、と提示されることで相対化されている点は現代的アップデートで面白い。ふにゃふにゃフェイスゆるふわ女子高生もやがて立派な救命士となって年下の誰かから恋されるだろう。年上への恋を上世代と下世代を繋ぐ成長の連鎖として捉えることで、恋愛至上主義的な価値観は留めつつも女は男が守るものという王子様男尊女卑を回避しているのは上手い。
消防士の映画ということで終盤には火事になって大変だ展開(当然その現場には主人公がいる)もあり少しだけスペクタクルを期待させたが蓋を開けてみればまぁそんなもんだろうとは思ったが大したスペクタクルもなくあっさり平和に終わってしまう。それでもこの手の映画で商業施設での火災パニックをちょっぴりとでも演出するというのはなかなか珍しいことなので、まぁだから、そういうところも手を抜かない真面目に作られた映画なんだよなこれは。ネタとして楽しめるようなところはなかったですね。いや別にいつもそういう目でキラキラ映画を観てるわけではないけれども。
ちなみにタイトルの「モエカレ」は「萌える彼」「燃える彼」のほかに主人公女子高生の名前がモエなのでモエのカレという意味もある。燃えるカレとモエのカレはわかるがこの岩本照は萌えるカレという感じはあまりしない。ラブなシチュエーションとかその表情を捉えるカメラにエモーションが足りないせいだが、一方で生見愛瑠の方もキラキラ映画がやりがちなファッションショー的な衣装チェンジなどもなく、図書館で勉強に励む姿は魅力的もあんまりキラキラした感じはない。
そう考えていくとこの映画、案外キラキラ的異色作だったのかもしれない。
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モエカレはオレンジ色(1) (デザートコミックス) Kindle版
別に原作読者じゃないしいいんだけど映画版、キャラの見た目を似せる気がなさすぎない?