《推定睡眠時間:0分》
予告編に出てきたロボットの性格が人間の子供(男児)として描写されていた時点でロボットの幼児扱い反対を唱えるロボ権擁護活動家の俺としてはかなり興味がなくなっていたのだが監督は時間SFクラシック『夏への扉』の邦画実写化とかいう無茶振りにも程があると思えた企画をなんと見事に成功させてしまった三木孝浩、そして調べてみれば脚本は『羊と鋼の森』や『となりの怪物くん』といったそのジャンルの中ではかなり渋い佳作を手掛けてきた金子ありさということで、原作もまぁベストセラーかなんからしいしと聞けばそこそこの興味はやはり出てくる。
ということで観に行ったのだが結果から言うとやっぱりガッカリ作だったので予告編を観て感じた第一印象は数ミリ単位のズレもなく正しかった。っていうかぶっちゃけそれよりもう少し悪かった。悪かったというかこれは…要はキッズ向けなんだろうねぇ、夏休み映画だし。演出も脚本も映像も幼稚でさすがにこれはビッグ大人の俺が観るにはキツイものがある。しかしリトルキッズでもどうだろうか。小学校中学年くらいならまだ素直に楽しんでくれそうという一切の経験にも観察にも基づかない偏見もあるが同じく一切の経験にも観察に基づかない偏見によれば小学校高学年はもう厳しそう。
まぁとりあえず、どういうお話かというと、なんか舞台はロボット配達とかロボットコックとかが一般家庭まで浸透した近未来日本なんです。でその郊外スモールタウンに住む二宮和也&満島ひかり夫妻は妻は弁護士でバリバリ働いているからいいが夫は過去に起こした仕事上のミスが乗り越えられず現在はゲーム三昧の無職…という設定のわりにはゲームをしているシーンは冒頭しか出てこないので無職の説得力がないがとにかくそういうことになっている。
でその家のなぜかやたら広い庭に見知らぬポンコツ見た目のロボットがやってくる。これタング推定精神年齢3歳。ちょうどそのタイミングで二宮和也のダメ夫っぷりに業を煮やした満島ひかりによってこの人は家を追い出されてしまい、どうにか関係を修復したい二宮和也はタングをメーカーに返して最新式お料理ロボットと交換してもらえば謝罪の良い手土産になると考える。かくして始まるダメ夫とポンコツロボットの小旅行はしかし、思いもよらぬ方向へと進んでいくのであった。
面白いか面白くないかはともかく(ともかくにしていいのかそれは)こう書けばプロットは悪くないのだが、何がダメってまぁ色々ダメなんだけどやっぱり子供向けを狙ってるからか個々の描写が非常に浅いっていうのがボディブローのように効いてくる。たとえば、タングはロボットなのでお腹を開けると燃料っぽいものが入っているのだが、それを見たロボット企業の社員が「う~んこの液体の正体がわからない! これを直せるのは○○先生だけだ!」でその○○先生に会いに行くと「これがなくなったらタングは壊れてしまう!」いや、燃料でしょ所詮? っていうかその後のシーンで普通に燃料交換してたし。それをさ、劇中で世界的なロボット工学の権威とされる人がさ、「これがなくなったら壊れてしまう!」って言うんだよ、「活動停止」とかじゃなくて。しかもそいつ燃料のサンプル取って解析するとかその程度のこともしねぇの。
いやいくらなんでもですよ? 2022年の実写映画でそのロボット観通用するかな? 確かにタングは腕がオールドスクールな蛇腹で手はお馴染みのC字キャッチャーアームだけれども絵的なクラシックスタイルはわかる、わかるし良い、だけれどもシナリオまでクラシックスタイルとなると…別のシーンを挙げれば、タングが壊れかかってしまって二宮和也は素人にも関わらずその配線を繋ぎ直している。それを見ていたロボット工学者が「その二つある差込口に正しい順番でケーブルを差さないとタングはショートして復帰できなくなってしまう!」…爆弾じゃねぇんだから。なんなんだそのぶっ壊れた仕様は。なんの意味もないだろこれ。
もうそういうのがいちいち白けさせてくれるし、他にも挙げればキリがないけれどもお笑い芸人のかまいたちが演じる悪の手下みたいな奴が少しも悪の手下に見えないとかさ、その手口もゆるすぎるとかさ、ロードムービー仕立てで色んなところに行くわりには観光地的に風景を見せるだけで場所を変える意味もロードムービーの興趣も全然ないとか、鈍重の一言に尽きるアクションは子供を騙すにも無理があるし、二宮和也のキャラ描写もあまりにも類型的で薄っぺらいがそれに輪を掛けて妻の満島ひかりのキャラ描写も酷くそのお決まりのラストにはこんなんだったらマネキンでも置いとけやと腹が立ってしまったほどだ。
それになにより、タングに魅力がない。これはロボットものの映画としてでかすぎるダメポイントではあるまいか。喋れるロボットだがその性格は単にそこらへんの3歳児標準でしかないので面白味に欠くし、デザインは人によって好みが分かれるだろうとしても俺には可愛さよりもあざとさが勝った、その挙動もとくにデザイナーの思想を、このロボットはこういう性格でこういう機能がありしたがってこういう挙動を…というものを感じさせない。まるきりダメじゃないかこんなもの。
児童向けの映画として割り切って観るならなんかキラキラしたシーンとかあるしまぁ悪くないんじゃないのとは思わなくもないが、正直、SF映画としては、っていうかSF映画としてじゃなくてもかなり退屈な映画だった。本当に白組とワーナーが関わる日本映画にロクなのない。
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ポンコツロボットものを作りたいんならこういう優れた作例があるんだから少しは学んで作劇をアップデートしてくれよ。