《推定睡眠時間:30分》
目の見えない女の人が家にやってきた強盗団に怖い目に遭わされる映画といえばオードリー・ヘプバーン主演の隠れてはいないだろうが隠れ気味の秀作『暗くなるまで待って』だが、タイトル通り家の中が暗くなるまで待ってから強盗に反撃したヘプバーンと違ってこちらの盲目主人公スカイラー・ダヴェンポートは家の中が暗くなる前から視覚障害サポートアプリを駆使して強盗たちを的確に撃ち殺し始めたのでちょっとええって思ってしまった。
タイトルのシー・フォー・ミーというのはその視覚障害サポートアプリの名前なのだが、これは電話の向こうのサポーターがスマホカメラを利用して利用者の代わりに目の前の風景を見てあげる仕組み。通常は「あと二歩進んだところに段差があるので気を付けてください。そこを右に曲がったところに入り口があります」みたいな助言をするのだが、豪邸でのペットシッターのバイト中に強盗に遭遇した主人公がシー・フォー・ミーで呼び出してしまったのはFPS狂の軍務経験者。「今だ! 撃て! 撃て撃て!」人殺し経験のないそこらへんの女の人(主人公)になかなか無茶な要求をするサポーターであった(外に誘導して安全なところから警察に通報させた方がよかったのでは?)
主人公のスカイラー・ダヴェンポートは視覚障害者だそうで障害の当事者がその障害を持つ役を演じるサスペンスという点で実際の車椅子ユーザーが車椅子生活の主人公を演じた『RUN』の影響が感じられるが、シナリオに一捻りあった『RUN』と違ってこちらの方は視覚障害サポートアプリのアイディアこそ新鮮も展開はオーソドックスなホーム・インベージョンもの、そう悪いものでもないがもうちょっと視覚障害アプリを活かした演出なり展開なりがあってもいいのでは、とか思ってしまった。
豪邸の舞台もあまり有効活用できてるとは言えない。一人の視覚障害者VS三人の武装強盗とかいう圧倒的に不利すぎる状況なら『ダイ・ハード』みたいに誰がどこにいてどんな行動をしているかというのを提示する必要があると思うが、人物や部屋の位置関係がわかりにくくサスペンスが感じられないのはもったいないと思う。主人公が強盗と対決するシーンはなかなか緊張感があるだけに。
ちなみに主人公は元スキーヤーの設定だが劇中の言によれば視覚障害があっても誘導員がいればスキーは可能とのこと。実際にやっている人がどれだけいるのかは知らないがまぁ原理的にはそうですよね。障害があるからと諦めてしまうことも健常者基準の世の中では多かろうと思うが大丈夫、ちょっと障害があっても適切なサポートがあればスキーはできるし武装強盗三人だってぶっ殺せます! 観る人に勇気をくれる映画であった。
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車椅子を使い倒した映画NO.1候補作。