森出まくり映画『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』感想文

《推定睡眠時間:0分》

俺はPOVホラーに興味が薄いというのもあって白石晃士のオカルトバース(今命名)はかなり断片的にしか観ておらず、『コワすぎ!』の劇場版以降は別の並行宇宙(?)の話になったようなのだが作品毎の繋がりなんかはよくわからん、この映画にはオカルトバースのたぶん一本『カルト』に登場したような気がする霊能力者が出てくるが(この人は名前を聞かれてぼそっと「…ネオ」と言ったように聞こえたのだが周りの人間は「ねぇよ」と解釈するのであった)それが『カルト』のあの人と同一人物なのか、それとも並行宇宙のよく似た別人なのかは不明である。

そのへんの関係性がちゃんとわかる人にはキャッキャと楽しめる映画なんだろうな。宇野祥平演じる猟銃で怪異を追っ払うハンターの江野祥平、かつて監督した傑作『オカルティズム』を超える作品をどうにか撮りたい映画監督の黒石光司(もちろん監督本人)、そのアシスタントで霊感体質の人に平気で「病院行った方がいいんじゃないすか?」と言ってしまうある意味怪異よりも危険な市川(堀田真由)というのも俺はよく知らんがオカルトバースの住人として他作品にも出てるはず、怪異の形状や基本的な性質、霊体ミミズなどのオカルトバース専門用語も共通する。

オカルトバースをさして観ていない俺からすれば、ぶっちゃけ、だからなに? なのであった。まぁファン向け映画ということなのかもしれないしテレビシリーズの再編集版というこれまでのオカルトバース作品とは少し違った事情もあって、オカルトバースを観ている人には楽しいお祭り映画でも、そうじゃない俺みたいな部外者にとっては結構間延びして退屈にすら感じられてしまった。

序盤はいい。見えない何かに怯える奇妙な男が自作の長大な『オカルティズム2』脚本を黒石光司のもとに持ち込むプロローグは一種のフェイクの形を取っており、このシークエンスの前には製作・配給会社のムービングロゴが一通り流れるのだが、シークエンスが終わるとそのムービングロゴが再び流れることで、その後に続くオカルトの森編がこの『オカルトティズム2』のシナリオの映画化作品であるかのようにも受け取れるメタ構造。あるいはこの男もまたオカルトの森編に登場する電波受信者・三好麻里亜(筧美和子)と同じ宇宙からの毒電波を受信したとも解釈できるのだが、見る者を幻惑させるこういう仕掛けは白石晃士の十八番、門外漢でも素直にたのしい。

しかし問題は肝心のオカルトの森編ですよ。いやー、森だわ。森だねー。まぁ『オカルトの森』っていうぐらいだから…森だなこれは。舞台は森の奥深くにある三好麻里亜の電波ハウス(奇妙な模様と電波に対抗する文言の書かれた貼り紙が所狭しと貼られている)、森、バス、湖、そして邪教集団のアジトと移り変わってはいくのだが、変わると言ってもバスが走るのは森の中だし湖だって森の一部だし電波ハウスにしても森の中にあるのだから、全体のうちおよそ80分ぐらいはずっと同じ森を見続けることになる。

プロローグの訪問者編は別日なのだがオカルトの森編の映像は半日の間に黒石と市川が体験してカメラに収めた出来事を編集したものという設定。これは俺の好みかもしれないがオカルトバース作品の何が面白いって外堀を丁寧に埋めていくところだったんですよね。恐怖映像を求めて色んなところに取材に行ってたら一見無関係に見えた様々な出来事が繋がってきて、人智を超えた巨大な恐怖の輪郭がおぼろげに浮かび上がってくる…そこに展開のダイナミズムもあったし、観客に得体の知れない怪異のかたちを際限なく想像させる怖さもあった。

ところが今回は半日の間の出来事を準リアルタイムで繋げた一種のライド映画。外堀を丁寧に埋めていくことはしないし、得体の知れない怪異を観客に想像させる余地もない。CG怪異は出し惜しみなくジャンジャカ襲ってきてそれを江野祥平とネオによく似たアイツが散弾銃と呪力で迎撃する。たしかにそれも楽しいが致命的なほど怖くない。笑えるやりとりも多いのでもはや怖がらせようとしていない気もするが、一応オカルトバース作品なんだからもう少し怖い感じを出してもらっても…と俺としては思う。だいいち森の中をうろついてばかりいて単調じゃないかこれでは。

終盤の展開などを見れば今回はアクション編ということなのかもしれない。POVアクション花盛りな昨今、オカルトバースのマンネリを打ち破ろうとする新しい試み(なのか?)は買うとしても、さすがに先行するPOVアクションにすごいのが多すぎて見劣りがするというか、第三者のアクションをPOVで撮っているというだけでPOVならではアクションが『血を吸うカメラ』オマージュのアレぐらいしかなかったというのはちょっと厳しい気がする。

ホラーありアクションあり笑いありカッコイイ男ありチャーミングな美女あり宇宙的恐怖あり終末感ありと盛り沢山なオカルト・エンターテインメントであることは確かだけれども、そのためにどの要素も中途半端になってしまったような印象を受けた、そんな映画だったなこれは。

※それはそうと電波ハウスの作り込みがなかなか凄かったのであれ撤収作業かなり大変そう。

【ママー!これ買ってー!】


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劇中で黒石が『オカルティズム』こそ自分の最高傑作というようなことを言っていたので白石晃士にとって『オカルト』はよほど大きな存在ぽい。

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