《推定睡眠時間:0分》
このあいだ観た『この子は邪悪』でも思ったんですけどなんで邦画って肝心なところでテレビドラマ的なというか、噛んで含めるような演出とか展開にしちゃうんですかね。そこだけはせめて理解してもらわないと…という憂慮もあるのかもしれないですけど、ぼんやり映画を観てる観客に媚びて作品のレベルやリアリティラインをこともあろうにクライマックスだけガクンと落としてしまったらせっかくの良い作品も台無しになってしまうんじゃないだろうか。
主人公の阿部寛はその顔面にごん太の毛筆で「昭和」と書いてあるような叩き上げのパワハラモラハラ県警刑事。人の良いババァなんかをターゲットにした卑劣なアポ電強盗事件をなんとしてでも解決したい彼は捜査は足を使えをモットーに捜査会議をサイレントに妨害し上司の忠告には悪罵を返し部下たちを怒鳴りつけながら一匹狼なアウトロー捜査を続けるのだったが、そこで上層部から悲しいお知らせ。阿部くん、悪いけれども君のパワハラが署内で問題になっているんだ、捜査を外れて警察音楽隊に異動してくれ。
家に帰れば待っているのは認知症で夫の死も嫁の離婚も忘れてしまった老いた母親。家庭を顧みない典型的な仕事人間だから高校生の一人娘との関係はギクシャクしてる。刑事の仕事だけが阿部寛の生きがいであり、居場所であり、自分の存在意義だった。ところがそれが身から出た錆とはいえ奪われてしまった…。
失意の阿部寛はふて腐れモードで署から何駅も離れた僻地の広報室へ。広報のお仕事の傍ら音楽隊のパーカッション担当となるのであったが当然やる気なんて全然もう全然ない。反抗期の中学生男子が洗濯機に靴下を入れる時は表に返してから入れてって親から言われて生返事をするときぐらい全然やる気ない。そのうえこの警察音楽隊はまとまりがなくちょっとした火種から部署同士のディスり合戦に発展することもしばしば。さて、阿部寛と音楽隊の、そして連続アポ電強盗事件の行方は…。
でね、これ途中まではなかなか良いんですよ。なんつっても阿部寛の昭和パワハラ刑事がね、キャラ設定としてはその家庭環境も含めて非常にベタで面白味はあまりないのだけれども、阿部寛の暴力刑事っぷり本当イイんですよ。刑事一筋で生きてきた人間に訪れた突然の転機、それに伴う喪失と再生をほんのりしたユーモアとペーソスを交えて丹念に描いていて、泣けるとまではいかないとしてもグッと迫ってくる瞬間はある。
だからこそガッカリさせられたのはクライマックスの安易さで、この物語の結末としてああいう落としどころをつける、それはわかります、別にそれ自体に文句があるわけじゃないけれども、でも本当にねぇ…急にそこでテレビの二時間サスペンスみたいな茶番捕物劇になっちゃって、まぁ詳しくは言えないけれどもあんなのあるわけないじゃない。いつもバカにされてる警察音楽隊が本署の連中の鼻を明かしたったーって感じの展開になるわけですけど、それをやるにしたってもうちょっと見せ方とか舞台設定とかそこに至るまでのお膳立てに映画的な工夫があってもいいじゃないっていうかさ、まぁだから安易なんですよ本当に。はい勧善懲悪で気持ちよく映画を終えましょうねーみたいな。なんか老人ホームのレクリエーションを嫌々やらされてる気分になったよ。
阿部寛が音楽をやることで刑事の仕事に没頭している間は忘れていた自分の人生を見つめ直して、少しずつ楽団に馴染んだり娘との関係を修復していく過程は良い。楽団員たちの物語をあまり多くは語らずちょっとした台詞や仕事風景の挿入で想像させる抑制の効かせ方も良い。そのへんはむしろ観客の感性や理解力を信じて作っているわけで、二時間サスペンス的な安易さには流れない(流れるところもあるけどさ)
また楽団員も味があっていいんだよな。これ結構豪華なんですよ、清野菜名でしょ、渋川清彦でしょ、酒向芳でしょ、高杉真宙でしょ、モトーラ世理奈もぴょこんと混ざってるし、あと俺の一押しは板橋駿谷ですよ。様々な映画でやたらサークルの部長とか飲み会の幹事とかをやりがちなこの人がここでも阿部寛とクセ強楽団員たちの間に入って仲を取り持つ! あとモトーラ世理奈はバトン回します。渋川清彦のドラムさばきもこの人はリアルでもドラムを叩ける人なのでさすがにサマになっていた。
と、だから良いところはたくさんあって、俺の不満はなんで最後だけあんな…というそこだけと言って良いのだが、終わりよければ全て良しという言葉もあるわけだから、反対に終わりよくないと全て台無し。まぁ台無しとまでは言わないけれども…って感じでね、なーんかこれは残念さの印象が結構強めに残っちゃう映画だったなー。あと、このへんは趣味の問題ですけど、バラバラだった楽団員たちが一つにまとまっていく様子はもう少し丁寧に綴って欲しかった。どうも後半の駆け足展開に問題があったように思えてならない。
※それと、音楽が人を繋ぐという映画なのに音楽の魅力が画面から(スピーカーから?)あまり伝わって来ないのもちょっとどうなのと思うところ。
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これもまたのほほんと渋い映画。警察音楽隊をテーマにするとどこの国でもそういう映画になるんだろうか。
久々のカキコです。ミッドナイトスワンの監督作品ですよ、でも最後はおっしゃる通りで盛り上がりに欠けてましたね。阿部ちゃんが切符みたいなのにスタンプ押すシーンで音楽、盛り上がるじゃないですか。あのあたりは良いなとは思いましたけどね。拳銃を撃つシーン無しでした、殴り合いてかアクション多少有りでしたけどね。
お久し振りです。ハンコを押すとこ、よかったですよね。『shall we ダンス』を思い出しました。あのへんの丁寧な演出は良いなぁと思っていただけに、最後の方は随分と雑だなぁと…いや、あんなご都合展開いくらなんでも今時ありえないでしょ、みたいな。面白い映画ではあったんですが。