赤井英和に人生を学ぶ映画『AKAI』感想文

《推定睡眠時間:0分》

赤井英和は俺が物心ついた時にはもうテレビタレントだったのでボクサー時代の映像はこの映画で初めて見た。いろいろと驚きはあるのだがとりあえず、強かったんだね赤井英和。攻撃は最大の防御なりを地で行く猪突猛進のファイトスタイルでひたすら殴る殴る殴る、バッタバッタと連戦連勝KO勝ち。すげぇ。プロの目から見れば色々と注文はあるのだろうがその荒削りながらパワフルな戦いっぷりは俺のような素人にもかなり気持ちよく、赤井英和が浪速のロッキーの異名でもって大阪のTVスタアの座を駆け上がったのも頷ける。

驚いたもう一点はそのテレビの映像というのが思った以上に残っていたこと。ボクシングジムにいる時は当然としてバイト先の西成の薬局から実家からどこにいようがカメラがついてくる、すごいのは世界タイトル前哨戦の大和田正春戦後に緊急外科手術を受けた脳神経外科で記者会見が行われる場面で、おそらく記者会見場でもなんでもない病院のロビーのようなところにカメラびっしり、そこで広報官でもなんでもない執刀医がこの手術はこれこれこういうことをして術後の経過はこれこれこうでと報道陣に自ら説明する。

執刀医自身が病院に報道陣を入れて記者会見をせざるを得ない状況とかどんなだよ。今では考えられない光景だが、これが物語るのは当時の関西における赤井英和人気のすさまじさだろう。映画スタア顔負け、いやいや映画スタア以上。コネもなにもないところから己の拳ひとつで這い上がってきた人間の物語つーのはやっぱ金なし大衆の心に響きます。赤井英和はその後『どついたるねん』で本格的に俳優デビューを果たすわけだが、その下地は現役時代から充分過ぎるほど整っていたわけだ。

映画は現役時代の記録フィルムが8割、緊急事態宣言を受けての自粛期間中に自宅で赤井英和がやっていた暇つぶし映像1割、自宅インタビュー1割(監督は赤井英和の実子・赤井英五郎)という構成になっており、正直ドキュメンタリー映画としては掘り下げが足りないように感じられるところもあるが、なんというか、栄光の頂点も反面の死の淵もユーモアとやさしさを忘れずに通過してきた赤井英和の人生を眺めていると人間生きてりゃなんとかなるもんだなぁとちょっとジーンと来てしまう。

またキャラがいいんだよね。赤井英和の愛嬌たっぷりのキャラもそうだけどさ、途中から赤井英和のトレーナーになったエディ・タウンゼントがもうボクシングの師を超えて人生の師って感じなのよ。引退表明した赤井英和を訪ねて「あんたこれからたくさん友達できるよ」みたいなことを優しく言うところ、あれちょっと泣くね。ボクシングだけじゃねぇんだと。ボクシング大事だけどボクシングはあくまで人生の一部なんだと。だからこれからの人生をエンジョイしなよと。まぁそういうことでしょうたぶん、エディさんの言いたいことは。

って感じでさ、だからこれ、赤井英和という一人の人間の波瀾万丈の半生を通して人生ってものを考えさせられる映画でした。ちなみに予告編にはインタビューの途中で赤井英和が「ちょっとカメラ止めてくれるか」とあのゴツイ声と顔で言うシーンがあったので「え、なんか怒らせるような質問でもしたの…?」とその先が気になっていたのだが、映画本編を観たところ…まぁこれは観てのお楽しみということにしておこうか、実際に見てみなければわからない、それが人生というものですしね!

【ママー!これ買ってー!】


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観たことないので観てみる。

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