《推定睡眠時間:20分》
ジンバブエなんか経済政策の破綻によるハイパーインフレでお金が文字通り紙くずになってしまった国というぐらいなイメージしかないのだがそのジンバブエからこんなんじゃとても生きていけねぇってんで南アフリカに逃れてきた難民たちを主人公にしたこのドキュメンタリー映画、ジンバブエのイメージについては大して更新されないが難民イメージについては大いに更新されるんじゃないだろうか。
難民。たぶんそう聞いて日本の多くの人が思い浮かべるのは難民キャンプで寒さと飢えに震えていて絶望の眼差しをカメラに向けている主にアフリカの黒人の人である。であるとまで言い切っていいもんじゃないだろとは思うがしかしまぁアフリカの黒人かどうかはともかく寒さと飢えに震えの部分はかなり正鵠を得ているんじゃないだろうか。それも確かに難民が取り得る一つの姿には違いないだろうが、そうしたイメージに致命的に欠けているのは難民とは一時的な状態であり、どの程度かは知らないが大抵の場合は難民から移民もしくは帰国者にいつかは移行するということである。もっと難民を受け入れよとの国連勧告を突っぱねて難民申請を片っ端から拒否することが常態化している日本では、とにかく難民に対しては敵意を向けるにせよ善意を向けるにせよ、憐れな根無し草としてしか見ることができない。
ちょうど国連なんとかかんとかのダイレクトメールが届いていたのでいつもはそのまま捨てるのだが珍しく開けてみると、そこに掲載された難民たちのポジティブな姿にちょっと驚かされてしまった。それはこの国連機関がそのような支援を柱にしているという事情もあるのだろうが、第三国へ移住した難民が起業したとか故郷でやっていた仕事を生かして工芸品を作ってるとかそんな話ばかり載っているのである。それは少数の成功したケースで、だからこそ目指すべきモデルケースとしてこうした機関誌に掲載されていることは重々わかっているのだが、しかし、そんな人もいることは紛れもない事実。
移住先で自分に合った仕事を見つけ生活を再建するに留まらずそこに生きがいをも見つける。それが適切な支援さえあれば難民には現実には可能なのだと考える日本人がどれだけいるだろうか。俺なんかは底辺フリーターのくせに仕事は好きという相当な変わり種だが、日本人の労働意欲は諸外国と比べて(要出典)著しく低く、仕事に生きがいを感じない人もまた著しく多い(要出典!)のだから、自分にすら向けられない仕事を通した人生の充実を、よく知らない国の難民に向けることなんかそりゃあまぁできなくて当然かもしれない。
とはいえ、だとしたら、ならば逆に、日本の人がこの『チーム・ジンバブエのソムリエたち』から得られるものは大きいだろう。ここで描かれるのは移住先の南アフリカで自分が真に自分らしく生きることのできる仕事を見つけた元難民たちの物語だからだ。
と大上段に構えてみたがすいません20分ぐらい寝てるので主人公の元難民の人たちが具体的にどんな生活をしてるのかとかよくわかんなかったです(でも最後にそれぞれの現在は出る)。まぁとにかくこの人たちジンバブエでは全然縁が無かったけど南アフリカでたまたまワインに出会ったらあれ? これよくない? みたいな感じになって、それでワイン飲んでるうちにどうせだったらソムリエの世界大会目指しちゃおうよ! みたいな感じになったっぽい。
それでその特訓模様とかが出てくるのですがへぇって思っちゃった、これがなんだかスポーツみたい。ワインのテイスティングというのは生産地(国)、生産者(ワイナリー)、生産年の三つを当てるらしいのですが、グラスにちょっと注がれたワインをちょっと嗅いだりちょっと飲んだりするだけでそれを判別するなんて至難の業もいいところ。無理だろと傍目には思ってしまうが分かる人には分かるらしいのでこのチーム・ジンバブエの人たちも物凄い真剣な眼差しで全神経を舌に集中させて分かろうとする。舌だけではなく一応目も使うらしく、ワインの色とか透明度を見るために「会場では座席によって照明の当たり具合に差が出る。LEDライトを持参していけ!」とコーチ。うーんなんだかすごい世界だ。
ソムリエはとにかくワイン知識がないと始まらない。南アフリカにいてもある程度各国の輸入ワインを飲むことはできるだろうが、実地試飲に勝るものはないということでチームは大会前に欧州遠征に出る。ワインの銘柄を当てるためだけに欧州遠征! それはまぁこのドキュメンタリー映画を面白くするために作られた展開という面もあるのかもしれないが、大会の結果を見ればおそらくそれぐらいは当たり前のようにこなさないとソムリエ界の頂点に辿り着くことは到底不可能と思い知らされ、たかがテイスティングされどテイスティング、いったいワインの銘柄を当てて何になるのかとお酒飲めない勢としては身も蓋もなく思ってしまうが、すごいのはわかった。
チーム・ジンバブエのソムリエ大会挑戦編はそれを通して彼らが自分らしい新たな人生を異国の地で見つける物語でもある。だからその過程は楽しさと明るさで満ちている。それはカメラの前だから見せる姿で必ずしも現実の生活の方は順風満帆とはいかないことはチームの代表が妻の強盗被害に触れて「南アフリカではよくあることさ」と事も無げに言ってのけることからも伺える。でも、やっぱこれ見ると良かったなぁ~ってなるよね。難民なんていう明日の見えない境遇を乗り越えて第二の人生を見つけてさ。
どういう経緯でそうなったのかは寝ていたからわからないが南アフリカでチームを指導していたコーチが本大会には出られず、代わりのコーチがチームに同伴したところこの人がザ・ヨーロピアンなマイペース人だったがために大会中チーム大混乱というチームにとっては完全に余計なサスペンス要素によって大会中のハラハラ感はかなりのもの、スポーツ映画としても難民のその後映画としても面白く観られるというわけで、『チーム・ジンバブエのソムリエたち』、よかったです。
※あとソムリエ大会にイタリアチームも出てるんですが散々な成績でお前らそういうの強い国なんだからもっと頑張れよって思った。
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この映画も難民にスポットライトを当てた競技映画だった。