《未体験ゾーンの映画たち2023》第1週感想文!(『VIRUS/ウィルス:32』ほか5本)

やってしまった。今年も未体験ゾーンの季節となったわけだが(このページを見てる人なら未体験ゾーンの説明はいらないだろう)、第1週の上映作品は計9本ということでそんなに観られないので3本スルーしたところ、その1本『スモールワールド』のネット評価がすこぶる高い。これは日本ではネッフリ独占配信となったデヴィッド・フィンチャーの…というか『セブン』のフォロワー作『ブレスラウの凶禍』を監督したパトリック・ヴェガの新作で、『ブレスラウの凶禍』はネッフリ独占配信のサスペンスにしては珍しくケレン味があって展開もダークで面白かったからぜひとも観たかった。まぁこれから配信とかレンタルDVDとかが解禁されるわけだからその時に観ればいいか。こういうことがあるから油断ならない未体験映画です。

『スナイパー コードネーム:レイブン』

ドンバス戦争を描いたウクライナの国策映画なのだがラストに2022年2月キーウ近郊とテロップの出るシーンが映って「え、ロシアと戦争しながらこんな堂々たる風格の戦争映画作ってたの!?」と驚いてしまった。エンドロールを観ると製作年は2021年とあったので大部分はロシアの侵攻以前に撮られていてラストだけ公開前に追撮されたんだろう。とはいえ戦争になったらすぐにこういうことができるウクライナというのはやはりすごい、文化というものに対する力の入れようでは現代のロシアよりも全然上だろう。どちらが上とかそういう話でもないのだが。

ストーリー的にはオーソドックスな戦争映画、戦意高揚映画だが、役者たちの体を張った演技やリアルな戦闘描写、様々なシチュエーションをテンポ良く見せていく編集など、全ての面で水準の高い娯楽作となっており、あくまでも国策映画と理解して観る必要はあるとはいえ、ユーロマイダン革命~クリミア併合~ドンバス戦争~2022年2月のロシア軍事侵攻と続く一連の流れもお勉強感なくおさらいできる、たいへんよくできた作品だった。

『VIRUS/ウィルス:32』

チラシには捕食後32秒動きの止まるゾンビがどうのと書いてあったがこのゾンビは感染者型のダッシュゾンビで人を殺しはするが肉を食ったりは別にしない。人とか動物を殺すと罪悪感でも芽生えるのか不意に32秒間その場から動けなくなるというのが正しい設定だが、正しい設定の方が意味がわからないのでなんか困った感じである。

設定の意味はわからないし展開はご都合主義丸出しで構成力が全然無いので場当たり的もいいところというなんだかダメな要素ばかり揃っているがそれはあくまでもシナリオの話。疑似ワンカットでゾンビ・アポカリプス発生の瞬間を見せていくアヴァンタイトルや監視モニターを使った疑似的なスプリットスクリーンなど撮影はテクニカルでアイディア満載、演出もパワフルでダッシュゾンビは『REC』を彷彿とさせる怖さを放っていたりと、かなり面白いゾンビ映画だった。

『スランバー・パーティー大虐殺』

初代『13日の金曜日』の翌年1981年に公開されたスラッシャー映画雨後の筍の一本。殺人鬼が『ザ・ミューティレーター/猟奇!惨殺魔』タイプの素顔が最初から見えている人ということもあって今一つ緊張感のないところはあるが、顔が見えている分じりじりと被害者に迫っていくサスペンス演出はなかなか見せる、ラストの決闘もわりかし燃えます。

脚本が著名なレズビアン/フェミニスト作家のリタ・メイ・ブラウンとあって女子高校生描写がこの時代の一般的なアメリカのホラー映画とは趣を異にするのも面白いところ。女子高校生たちはきゃーと悲鳴を上げるだけのか弱い存在ではなく死体の傍らに落ちてるピザをとりあえず食べてしまう神経の図太い存在であり、男の手なんか借りなくとも自分たちでしっかり殺人鬼をぶっ殺す。男子たちは「プレイボーイ」を読むがこの女子たちが読むのは「プレイガール」、もちろん男のヌード満載だ。そこに堅苦しい啓蒙性があまりなく、あくまでも血とオッパイと死体がゴロゴロ転がる典型的スラッシャー映画に溶け込んでいるのが、フェミニズム映画としてのこの映画の美点じゃないだろうか。

『CONTROL コントロール』

本当は知らないで観た方がいいと思うのだがチラシのあらすじにでかでかと書いてあったし冒頭を観れば大抵の映画慣れした人はあぁ超能力ものね、とわかってしまうので俺も気にせず書いてしまうが超能力ものです。どことなく『CUBE』風の密室に閉じ込められた女が超能力実験を延々させられて怒るという内容なのだがこれがまどろっこしいことまどろっこしいこと。大抵の観客はおそらく「超能力なんでしょ?」と思っている間も女の方は記憶を無くしてて自身が超能力者であることを知らない設定だから一体私に何を望んでいるの! この実験はなんなの! とキレまくり実験者の側も退屈な鉛筆動かし実験を何度も何度も繰り返す。

キレて部屋が爆発するとかなら面白いからいいがキレても鉛筆が吹き飛ぶとかその程度の超能力なのでカタルシスがないしその程度なら序盤でさっさと観客に情報を開示してその後の展開の面白さで勝負してほしかった。とにかくこれずっと『CUBE』風の部屋で鉛筆動かし実験やってんだよ。わかったよ! 鉛筆が超能力で動かせるのはわかったからさっさと次進んで兵隊とかたくさん超能力でやっつけてくれよ! 超能力ではなく女が記憶を取り戻していく過程がシナリオのキモなのはわかるし丁寧に撮っているのはわかるが、ちょっとこれは堅実に作りすぎた映画だな。もっと破天荒にがんばれ。

『地縛霊 5階の女』

なにがなんだかわからないベトナムのオバケ系ホラー映画。エレベーターの行き先階を特定の順番で押すと謎の女が出てきて影の世界に連れて行かれてしまうという韓国版のきさらぎ駅みたいな都市伝説をモチーフにした怪異が物語の主軸になるのだがその都市伝説の説明も最小限にしかなされない上に映画開始時点で既に重要な
登場人物が影の世界に行ってしまっておりそいつは誰なんだそもそも主人公はどんな人なんだということもよくわからないうちに主人公は異世界に行った人を救い出すべく人の話を全然聞かない友達と共に異世界エレベーターのある廃病院に向かってしまうというこの俺置き去り展開。

まだ異世界に入っていないのにいつの間にかゾンビみたいのは来るし謎の煙が充満するフロアを誰も不思議に思わないし異世界に入ったら入ったで謎の女とは別の怪物化した異世界住民(この人を探しに主人公は異世界に入ったらしいがよくわからない)がやたら主人公に注射を打ちたがるみたいななんかよくわからない恐怖描写が続いてどんどん新設定が追加される。最終的に都市伝説とか謎の女の正体とかはよくわからず何が解決して何が解決してないのかもよくわからない。よくわからなすぎるのでこれはベトナムで人気のドラマとか漫画の映画化なのでは。そのコンテクストを共有してないから俺の目にはよくわからなく映るというだけで。よくわからないがよくわからないまま全然後ろを振り返らず突き進んでいく映画なのでなんかよくわからない怖さがあった。

『アブソリュート/服従者』

監禁ものといえば被害者は一人もしくは一人ずつというのが定番だがこの監禁主はお金持ちなため家がビッグでかく監禁被害者二人に共同生活をさせる超余裕っぷり。監禁被害者の片方は拉致されたばかりだがもう片方は監禁主の言うことにはなんでも従うことで5年間生き延びてきた監禁サバイバーってことでこの二人の監禁被害者の不安定な関係性が物語の軸になるというのが他の監禁ものとは一線を画すところ。新参監禁被害者は逃げたいので監禁主にも抵抗するが古参監禁被害者は逃げることを諦めているので監禁主に抵抗しないばかりか積極的に協力する。それが共同生活の中で徐々に揺らいでいくというわけ。

拉致監禁が被害者のメンタルにどんな影響を与えるかという点をリアルかつドライに描いているところは面白いが監禁の細部はかなり甘く、さすがにそれは監視カメラに映ってるだろとか、さすがにそれは捜査令状取られるだろとか、さすがにそれはどこかで計画破綻するよとか思うことしきり。アメリカの田舎が舞台なので警察力の弱いアメリカの田舎ならこんな杜撰な監禁でも全然犯人逮捕されなさそうだなという気もしてしまうのは恐ろしいが、それはアメリカが恐ろしいという話で映画の怖さではないだろう。監禁事件を捜査する刑事のパートは北欧ミステリーの風味もあり、なかなかムードは良い映画なのだが。

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