寒い。空前の寒波到来で家が寒い。暖房28℃まで上げてるのに一時間経っても今日の朝は室温が9℃を越えなかった。こんなに寒いならいっそ暖かい映画館にでも一日籠もっていたいところ。幸いにしてヒュートラ渋谷では現在未体験ゾーンの映画たち2023が上映中ってわけで観る映画に困ることはない。今週上映されている6本の内3本を観てきたので家が寒くてどうにもならんという人は参考にしたりしなかったりしつつヒュートラ渋谷に籠もれそして生き延びよ。
『サバイブ 極限死闘』
暑いときほどラーメンが食いたくなり寒いときほどアイスが食べたくなるみたいな意味で大寒波到来の今観るにうってつけの雪山遭難譚なのだがあらすじをよく読まずタイトルも極限なんとかぐらいの覚え度で劇場に入ったため序盤の展開に大いに意表を突かれた。序盤の舞台となるのは様々な理由で支援を必要とする人々の入居するメンタル系のグループホーム。エモい劇伴が常時流れる中でここの入居者で強い希死念慮のある主人公やホームの面々の心情が綴られるのだが、これが結構長く30分ぐらい続くので、『サバイブ』というタイトルはてっきり精神疾患と闘う人たちのドラマを指したものなのかと思ってしまった。何も知らんで観る人は幸いだろう。雪山遭難ものと思って観るときっとこのへん退屈である。
アメリカではこの手のエモい遭難映画が定期的に作られ、リーアム・ニーソン主演の『ザ・グレイ』、マッツ・ミケルセンの『北の極地』、ジョシュ・ハートネットの『マイナス21℃』、雪山でなくてもいいならジェームズ・フランコが峡谷で遭難して腕を切る『127時間』などが代表的な作例だが、いずれも共通するのは主人公が遭難の極限状況の中で自分の人生を見つめ直すヒューマンドラマの側面を持っているところ。『サバイブ』も死にてぇ死にてぇ言ってた主人公が雪山遭難を通じて生きたいと願うようになるまでのその心的過程が映画の眼目で、序盤で死にたい系女子の死にたさをじっくり描いているため、ありきたりではあるがヒューマンドラマとしてなかなか悪くない。
グループホーム入居者たちの肌荒れしていたり歪んでいたりする相貌やなんでもない会話の持つリアリティ、エクストリーム・スポーツ畑の人間を何人も起用したと思われる雪山撮影の迫力と、『極限死闘』などというような大袈裟な内容では全然ないが、しっかり作り込まれた地味だが面白い遭難映画。
『ミッドナイト・マーダー・ライブ』
上映作の半分も観てないのに断言してしまうのもどうかと思うが今年の未体験ゾーン最大の問題作。これほど「そりゃあ未体験送りになるよ!」と思った作品はない。俺は序盤15分と終盤15分だけ観て間の60分をガッツリ寝たのでこれといったダメージはなかったが、真面目に観ていた人は最後のあれ観てどう感じたんでしょうか。それ以上は何も言うまい。というか言えない。もし今年の未体験ゾーン映画で何か1本だけ観るべき映画を教えてくれと人に言われたら、俺は迷わずこの映画を挙げる。
『迷霊怪談集』
ベトナムの心霊オムニバス・ホラー。展開はありきたりだし絵面は安っぽくて変化が無いし3つのエピソードはどれも恐怖演出にジャンプ・スケアを多用しているのでオムニバス・ホラーの醍醐味である色々詰め合わせ感が薄く、正直そんなによくできたホラー映画ではないのだが、ただベトナム的な死生観であるとかベトナム社会の変遷が伺えるのは面白いところで、エンドロールに流れるベトナム歌謡も昭和歌謡と通じるなかなか未体験の味わい。
映画全体に通底するのは供養の概念で死んだ人間とか生きていても悲劇的な運命を辿った人間はちゃんと供養をしないと生者に悪さをするぞという一種の教訓がここにはどうやら込められている。都市部ではそうでもないのかもしれないが国全体で見ればこの映画にも心霊術士みたいなのが普通の職業として出てくるしベトナムでは生者と死者の距離はそんなに遠くないんだろう。恐怖というのはふつう自分の世界から遠く離れているように見えるものに対して感じるのだから、死者がさほど遠い存在ではないっぽい国の心霊映画があんまり怖くないのも道理かもしれない。ここには死者を恐れるというよりも憐れむ眼差しがある。先進国の多くのホラーが失ったその眼差しが、あんまり怖くはないこの映画に独特のムードを与えている。